3話「適正審査とスリーセブン」
ギルド前の市場で、俺はジャムパンを一つ買った。
今日の昼飯だ。 焼きたてパンの香ばしい匂い、もっちりした歯ごたえ、そして苺ジャムの濃密な甘みと甘酸っぱさが奏でるハーモニー。 俺はそのジャムパンをむさぼるように頬張った。
早々に昼食をとったのには、理由がある。数時間前に遡ろう――。
◇ ◇ ◇
ギルドに行くと、まず「適正審査」を受けるよう案内された。
「てきせい……審査?」
カウンターの女性が説明してくれた。
「はい。冒険者登録の前に、適正審査が必要です」
「ええっと、それってどんな……?」
「冒険者には、なりたくても適性がないと登録できません。ダヤンさんは正式な冒険者ではないため、審査を受けていただく必要がありますね」
――まぁ、最初からうまい話が転がってるわけないよな。 勇んで装備を買ったのに、これが無駄になる可能性があるのか……?
「じゃあ、その審査お願いします」
「はい。ではこちら、受付番号です」
手渡された札には“289”と書かれていた。
「今、何番目ですか?」
「現在、52番目の方が受けております」
……あと237人!? はぁ……先は長い。
朝から並んで、昼を過ぎても順番は回ってこない。 今日中に働きに出たいのに、審査を通らなかったらどうしよう? もう一度言うけど、買った武具が無駄になったら……!
適正って、何を基準に審査されるんだ? と思っていると、近くから怒声が響いた。
「畜生ッ! なんで俺が適正なしなんだよ!?」
筋骨隆々の男が怒鳴っている。えっ、あんなガタイでも通らないの? ……不安しかない。
ここだ。今こそ「賽の目」の出番だ。
「賽の目よ、頼むぞ……!」
心の中で強く願うと、空中にサイコロが二つ現れた。よし! 俺はサイコロを振った。コロン……と転がり、出た目は――七!
……これは、いい目のはずだ! 期待できるかもしれない!
陽が沈みかけた頃、ようやく順番が来た。
「289番の方、いらっしゃいますか?」
「あ、はい!」
胸の高鳴りを抑えつつ、案内に従う。
すると、屈強な戦士風の男が俺を睨みつけてきた。
「よう、お兄ちゃん。冒険者になりたいんだってな?」
「はい……」
な、なんだこの緊張感……。 まさかこの人と戦うとか? 絶対勝てない。やめて。
戦士は「ついて来い」と言い、俺をギルドの二階へ連れて行く。
そこにあったのは、煌びやかな箱。三つの数字が並ぶ機械――どう見てもパチスロ台だ。
案内役の女性が言う。
「この装置に玉を入れて、スイッチを3回押してください。ゾロ目が揃えば、適正ありと判定されます」
……これ、完全にスロットだよね?
昔、会社の先輩に連れられて行ったとき、一度だけビギナーズラックで大勝ちしたことがある。 この世界でも、国王たちが娯楽として楽しんでいると聞いていたが、実物を見るのは初めてだ。予想以上に本格的……。
でも、ゾロ目って相当難しいんじゃ?
「さぁ、椅子に腰かけてください」
言われるままに座ると、戦士が玉を渡してきた。 白い歯を見せてニヤリと笑う――警備役か。確かに、貴重な機械だしな。
ゴホンと咳払いして気合を入れる。玉を入れると、スロットが回転し始めた。
周囲にはギルド職員や暇そうな冒険者が集まってきて、パチスロ台に注目している。 ちょっとは仕事しろ……。
ぐるぐるとスロットが回る。俺は緊張で固まっていた。
装備が無駄になるかもしれないし、こういう賭け事って基本、俺は弱い。 勝てたのは、あの一度きり。以降、賭け事は避け続けてきた……!
ていうか、日本じゃ人生かかってスロットなんて絶対やらないだろ!? 遊びだぞ、遊び!! 頼むぞ、七の賽の目……!
乾いた笑いを浮かべながら、俺は装置に向かい――スイッチを押した!
「えい!」
一、二、三回!!
スロットは弾けるように加速した。そして、徐々に止まり始め……
「775……776……777!」
スリーセブンで、ぴたりと止まった。
うおぉぉぉぉ!! マジかよ!! 本当にスリーセブン揃った!! やった! 適正審査クリアだ!! さすが俺の「賽の目」!!
……ん? なんか……皆、固まってる?
ギルド職員や周囲の冒険者たちがざわめき始める。
「すげぇ……」
「スリーセブンなんて初めて見た」
「何者だアイツ!?」
「新入りかよ、やるじゃん!」
ま、まじか……スリーセブンって、そんなにレアなの? 店員も戦士も驚いてる。
「まさかのスリーセブン……!」
「いやぁ、大した幸運の持ち主だな」
え、ええ……これ、合格だよね? 俺、冒険者になれるんだよね?
「適正あり、です」
「え、本当に!? 冒険者になれます?」
「はい。登録手続きいたしますね」
よっしゃ! やったー!! 装具、無駄にならずに済んだぁーー!! 俺はこうして、冒険者への第一関門を突破したのだった。
名前 袴田恭
称号 異世界転移者
年齢 28
レベル 6
知力 200
体力 150
魔力 0
紋章術 なし
従属 なし
保有スキル 賽の目 アイテムボックス
加護 蔑むものを超える力