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宝石精霊国物語

作者: 深藍

恋愛要素は微量です。


晴れ渡る空の下、王宮にて若き国王の戴冠式が執り行われた。

壮麗な玉座に座り、煌びやかな宝石があしらわれた王冠を頭に戴くのはルルーニア王国の新しい国王、ハル陛下だ。

白金に輝く髪とダイヤモンドが嵌められた指輪が王族の証。

この指輪は王家が所有するダイヤモンドに宿る大精霊から生み出された宝具で、そこにダイヤモンドの精霊が宿る。


「国王陛下!お喜び申し上げます!」


「国王陛下に精霊様の祝福を!」


貴族たちは新国王の即位に喜び、祝福の声が王宮に溢れた。


その中に一際目立つ者たちが並んでいた。

彼らも王と同じくそれぞれに精霊の宿る宝具を持ち、精霊の加護を授かり魔法を使うことのできる、"上級貴族の筆頭"と呼ばれる家柄の者たちだ。



"治癒と防御魔法"を司るアレキサンドライト公爵家のウル


"不滅の炎魔法"を司るルビー侯爵家のクロウ


"精霊の祈り魔法"を司るエメラルド伯爵家のネレア


"豊穣と恵みの水魔法"を司るサファイア伯爵家のテオ


彼らはこの国を支える"四大貴族"と呼ばれている。



「先代王が突然崩御なされたときはどうなることかと思ったが、ハル国王陛下なら安心だろう。王冠姿もお美しい。」


ウルの賛辞の言葉にクロウは同意した。


「そうだね。賢王レア様の生まれ変わりと名高い陛下ならルルーニア王国は安泰が約束されたと言ってもいいだろうなぁ。」


朗らかに話すクロウとは対照的に不安気な顔をした中級貴族たちが隅の方に集まっていた。

その視線は王の座る玉座の方へ向けられている。


「おめでたい式だっていうのにアイツら、シケた顔をして。」


中級貴族たちの様子を見たテオは呆れ顔で呟いた。


「それはそうだが、あんな顔になるのも仕方あるまい。本来なら陛下のお傍に王笏の大精霊様もお姿をお見せになるのだが…」


国王陛下の戴冠式では、王家の権威を示すため王笏を持つ。しかし現在、国王の元には持っているはずの王笏は無く、王笏に宿る大精霊の姿もない。

身に付けている宝具のダイヤモンドの精霊の姿のみだった。


「あの戦いからもう200年なのか…」


この国には古くから宝石に精霊が宿り、加護と宝具を授かってきた。宝具を授かると精霊の加護により魔法が使えるようになる。その力で国を豊かにしてきた。


ダイヤモンドの精霊の加護を授かる王家は、魔物を滅し、瘴気を浄化する"光の浄化魔法"。


アレキサンドライト家は、治癒魔法で怪我を治し、防御魔法で国を守り覆う防御壁を作る。


ルビー家は不滅の炎を使い、魔物から取れる魔石を加工して武器を製作している。建国の時代に王笏と王冠を製作したのもルビー家だ。


聖職者の家系であるエメラルド家は、精霊の祈り魔法によって武器や防御壁に加護を付与して更に強固なものにする。


サファイア家は田畑に作物が育ちやすくする豊穣の魔法と、聖なる雨を降らせることで森を豊かにし、腐った木々を蘇らせたり出来る。



国土の3分の1が瘴気に覆われ魔物が蔓延る"闇の森"であるルルーニア王国。森の中央に行くほど瘴気が濃くなり、それに比例して魔物も強くなっていく。


王家の光の浄化魔法は瘴気を浄化できるが、時間が経てば核のある中央からまた濃くなり元に戻ってしまう。完全に浄化するには"闇の浄化魔法"が必要ということしか分かっていない。



200年前、森の中央から巨大な魔物が出現し、防御壁と森との境に現れた。騎士たちでは太刀打ち出来ず、このままでは防御壁が破壊されてしまうのではと人々は恐怖に陥った。

そこに王笏を手にした国王が現れ、"強大な光の浄化魔法"を放ち巨大な魔物を浄化しようとしたが、抵抗した魔物の呪いの力で相打ち。

王笏は力が弱まりボロボロの状態に。王笏に宿る大精霊も深い眠りに落ちてしまった。


巨大な魔物は完全には浄化されておらず、今も尚、闇の森の中央で瘴気を撒き散らしながら復活の為に大精霊と同じように深い眠りについている。



「修復不可能と言われた王笏をいち早く直す術を見つけることが国王に求められる最優先事項になった訳だが。」


「頭の痛い話しよねぇ。王笏を修復する為に"闇の浄化魔法"なんて未知の魔法が必要な上に、新たに作るには300年はかかるってなったらゆっくりなんてしていられないしねぇ。」


ネレアのどこか他人事のような、のほほんとした話し方にテオはため息をついた。


「相打ちになった魔物は完全には滅しきれてないし、いつ完全に復活するか分からないんだ。僕たちだってゆっくりなんてしていられないだろ。」


そのとき、さっきまで不安げに玉座の方を見ていた中級貴族たちがヒソヒソと話す様子に気付いたウルは聞き耳を立てた。


「見ろ。"オルロフ公爵"が…」

「相変わらず不吉な黒髪と出で立ちだな…」

「王家の血筋にも関わらず浄化魔法も使えない…」

「剣しか能の無い姫よ…」


中級貴族たちの視線の先には、髪から着ている服、身に付けている装飾品など全てが黒く、肌だけが雪のように白い人物がいた。


髪は漆黒に輝き、瞳は深い海の色。スラリと手足が長く、中性的で美麗な顔立ちの人物は、口さがない貴族たちの言葉が聞こえているのかいないのか表情からは何の感情も読み取れない。


ウルはため息をつくと、噂されるその人物の元へ歩き、中級貴族たちを睨み付ける。


「"バラス公爵"に何か用事か?」


ウルの突然の登場に中級貴族たちは青ざめた顔をしてそそくさと退散していった。


「ウル?どうしましたか、急に…」

"バラス公爵"と呼ばれた人物は微かに目を丸くしてウルを見つめた。


「ロア、たまには毅然と言い返さないとアイツらの思う壷だぞ。」


"オルロフ"とは黒い宝石の忌み名である。

ダイヤモンドの加護を受ける王家に生まれながら黒い髪を持って生まれたロアは、心ない貴族たちから陰でそのように呼ばれていた。


ロアはウルが怒っている理由にやはり何の感情も読み取れない表情で微かに俯いた。


「彼らの言い分にも一理あります。私は王の血筋にも関わらず白金の髪を持たず、大精霊様から宝具を授かりましたが光の浄化魔法を発現できなかった。」



ロアは先代王の娘であり、母親は元平民の側室だ。

正室の子のハルとは同日生まれの義理の兄妹である。

王の血筋の者は13歳になると、王家が所有するダイヤモンドの大精霊からダイヤモンドがあしらわれた宝具を授かる。

この宝具には精霊が宿り、身に付けると"光の浄化魔法"が使えるようになる。


しかしロアは何故かその魔法を発現できなかった。

もちろん宝具に精霊が宿ることも無く、ただの指輪になってしまっている。

さらに、王族の証である白金の髪ではなく黒髪で生まれたこともロアの肩身を狭いものにした。



「光の浄化魔法が使えないならせめて、王家や国の為に少しでもお力になれるよう剣の腕を磨いてきました。」


「先日の魔物討伐でもかなりの成果を上げたそうじゃないか。クロウが感謝していたぞ。ロアのお陰で魔石が大量に取れたからこれでより頑丈な武器が作れると。さすがロアだな。」


ウルが頭を撫でるとロアは「ありがとうございます。」と僅かに微笑んで顔を上げた。


ウルはロアやハルと同い年の20歳。幼馴染であり、かなり気安い関係だ。



ロアは幼い頃から明るく朗らかな義兄とは対照的な滅多に笑わない大人しい性格で、13歳のときの儀式で自分に魔法の才能が無いことを理解してから剣にのめり込むようになった。

そんなロアを先代王もハルもずっと気にかけ、愛情を注いできた。


しかしそんな矢先、ハルとロアが20歳の生誕を迎えた翌月に先代王は心臓の病で突然亡くなった。

アレキサンドライト家の治癒魔法を施す間もなくだった。



新国王の戴冠式はその後つつがなく終了し、ロアとウルは王宮の一室に移動した。


そこで紅茶を楽しんでいると、戴冠式を終えたばかりの新国王であるハルが入ってきた。

ハルはロアを見つけると輝くような笑顔で歩み寄った。


「ロア!ここにいたのか。式では話せなかったから寂しかったよ。」


「陛下、改めまして御即位お祝い申し上げます。」


ロアとウルは立ち上がって、胸に手を置き拝礼した。


「ありがとう二人とも。父上が突然崩御され、バタバタしていて悲しむ間も無かったけど、ようやく一段落つきそうだよ。」


ハルは二人に座るよう促すと、侍従の用意した紅茶を飲み始めた。



「聞いての通り、王笏の修復が王として国としての最優先事項であり果たすべき責務だ。古い書物に載っていた"闇の浄化魔法"が、王笏の修復と闇の森の浄化に必要ということは分かったけど、どうすれば闇の浄化魔法を発現させられるかは不明なまま。」


「そうですね。200年前の魔物が再び復活する前に闇の浄化魔法を探し出し、王笏の修復を実現できますよう身命を賭してお仕えして参ります。」


謹厳実直なウルの言葉にハルは目を丸くしたあと楽しそうに笑った。


「相変わらずウルは固いな。もう少し肩の力を抜いても構わないよ。」



「そうだロア、明日からまた森へ魔物の討伐任務だろう。しかも今回はかなり中央近くまで行くと聞いたけど大丈夫なの?」


「はい。最近の魔物は瘴気の影響もあり、かなり凶悪化しています。その為、武器が激しく損傷し、その修復や作り直しに多くの魔石が必要になります。貯蔵庫に保管する分を差し引くと少々心許ない量なので。あとは、中央付近の瘴気の調査も兼ねております。」


魔物から取れる魔石は加工がしやすく頑丈。そこにエメラルド家の"精霊の祈り魔法"を付与することでより強固なものになる。


しかし、年々濃くなる瘴気の影響で小さい魔物でも危険性が高く攻撃も強くなっているので、加護を受けた武器でも簡単に欠けてしまうことが多くなってきた。



「いずれ闇の森が完全に浄化できたら鉄鉱石でも武器が製作できるよう試行錯誤していますが、まだまだ魔石の方が加工しやすいので、たくさんあるに越したことはないのです。」


「瘴気も濃くなり魔物も凶悪化。ロアのことが心配だよ。私がついていければ良いんだけど。」


ハルの"光の浄化魔法"は小型から中型くらいの魔物なら簡単に滅することができるが、国の頂きに立つ者がそうホイホイと危険性の高い森に討伐に向かう訳にはいかない。

国の大切な御身に何かあってはいけないからだ。



「今回の討伐にはウルにも同行して頂くので大丈夫です。アレキサンドライトの精霊様もいらっしゃいますし、怪我を負っても治癒魔法があります。」


ロアが普段、騎士を引連れて魔物の討伐に向かう際、アレキサンドライト家の防御魔法を付与される。通常の討伐では、森の外周付近にしか行かない為、それほど大きな魔物や危険性の高い魔物がおらず、防御魔法は付与されるが同行することはない。

今回は特別だ。



「バラス公爵閣下は王国随一と言われるほどの剣の腕前ですので、ご心配には及ばないでしょう。私も公爵閣下ほどではないですが、日頃から鍛えておりますので必ずやお守り致します。」


「今回の魔物討伐には瘴気の調査も兼ねておりますので、より一層気を引き締めて行って参ります。ご安心下さい陛下。」


ウルとロアの力強い言葉にハルは微笑んだ。


「さすが頼もしく可愛い我が義妹だ。ウルもいるならこんなに心強いことはないね。」




翌日、ロアはウルと騎士たちを引き連れて闇の森へ魔物の討伐と調査に向かった。


ウルは出発前に防御魔法をロアと騎士たち(馬も)、そして自身に付与したあと先頭を行くロアの後ろに続いた。


今回の目的地に着くまでの道中、魔物が次から次へとロアたちを襲ってきた。

瘴気が年々濃くなっているという報告通り、魔物の強さも数も比例していた。

しかしロアは数などものともせず、向かってくる魔物を少しの無駄もなく倒していく。他の騎士たちはどんどん転がってくる魔石を拾うだけの役になってしまっているほど。


魔物は騎士たちよりも優先的にロアやウルに向かってやってくる。ウルは出発前、事前に警告されていた。


「魔物は本能的に力の強いものを喰って取り込もうとします。宝石の精霊様の加護を受けている者は格好の餌食です。私は精霊様の加護こそありませんが、宝具を与えられているので多少ですが魔物に狙われやすくなっています。他の騎士たちも狙われない訳ではありませんが、私たちはより注意しなければなりません。」


魔物を次々と倒していき魔石を回収しながらロアたちは目的地に到着した。

そこは今まで討伐に来ていた場所より瘴気の濃度が濃く、どこからともなく魔物の低い唸り声が響いていた。


「瘴気が外周付近とは比べ物にならないな。防御魔法が無ければ死んでいてもおかしくない。腐っている木々もあるし、かなり陰鬱とした場所だ。」


初めて中央付近まで来たウルとは違い、ロアは慣れている為、特に動じたふうもなく周辺を探索している。

しばらく瘴気の染みた草などを観察していたロアが突然立ち止まった。



「ロア?どうした?」


「…」


「ロア?」


「風が止みました。おかしい、魔物の気配も急に消えーー」



次の瞬間、ドス黒い瘴気を纏った大きな塊が突然現れ、ウルに襲いかかった。


ウルは咄嗟に横に転がり攻撃を避けたが、大きさに反して俊敏な動きの魔物の腕の振り上げに当たり大木に激突してしまった。

防御魔法のおかげで大した怪我は無いが、多少のダメージを受けてしまった。


ロアは高く飛び上がり、魔物めがけて剣を振り下ろした。

しかし、ルビー家が加工し、エメラルド家の精霊の祈り魔法を付与した剣の大部分が欠けてしまったのだ。

魔物は衝撃を受けた様子もなく、ウルめがけて突進していく。


(まずい!このままではウルがっ…!)


ロアがウルを庇おうと咄嗟に手を伸ばした瞬間、ダイヤモンドが嵌め込まれた指輪が突然黒く変色し激しく光りだした。

そして、強い光が魔物を包み込むと魔物は凄まじい雄叫びを上げて消え失せた。


魔物が消えた場所には大きな魔石がゴロンと転がり落ちてきたが、ロアもウルも周りの騎士たちも突然の出来事に唖然とするしかなかった。



「一体…、何が起こったんだ?」


ようやくウルが絞り出した声にロアは何も答えられなかった。


「ロア様!ウル様!ご無事ですか!?」


離れた場所にいた騎士たちが大慌てで駆け寄った。


「俺は問題ない、ロアのおかげで命が助かった。…ロア、大丈夫か?」


ロアは指輪を見つめながら微動だにしない。



ダイヤモンドの部分が黒く輝く指輪は、淡い光を放っていた。


「宝具に関しては王宮に帰って早急に調べる必要がありますね。ただ事ではないことが起こったのは確かです。」


「そうだな。騎士たちの無事を確認したら引き返そう。また魔物が襲ってくる可能性も…」


そこでウルは辺りに漂う瘴気が消え去っていることにようやく気付いた。

大きな魔物が襲ってくるまでは、10メートル先も見通せないほど薄暗かったのに今は木漏れ日が差している。


「周辺の瘴気が浄化されています。これも先ほどの光のせいでしょうか。」


ロアとウルは騎士たちを連れて王宮に帰還し、そのままの足でハルのもとへ宝具の変化について報告に向かった。



報告を聞いたハルはすぐさま側近に命じ、クロウ、ネレア、テオを呼び寄せた。

そして、ダイヤモンドの大精霊が祀られている広い部屋にロアとウルを含めた5人を案内した。


この部屋は王宮内で特に厳重に守られていて、国王とその血縁、そして国王が認めた限られた者しか入室することが許されない。


大精霊の宿る宝石と精霊の宿る宝具は、精霊たちによる特殊な防御魔法を纏っており、加護を授かった者しか触れることが出来ない。


その部屋の真ん中には、高さ1メートルほどの台座にブリリアントカットされた成人女性の拳大ほどの宝石が祀られていた。

ハルがダイヤモンドの嵌められた宝具の指輪をかざすと、ダイヤモンドと指輪が淡く発光し輝きだした。


そしてダイヤモンドからは大精霊が、宝具からは精霊がゆっくり起き上がるように現れた。

どちらも白く淡い輝きの肌に絹のロングドレス、琥珀色の瞳に長い白金の絹髪の麗しい乙女だった。

大精霊の頭には白銀に輝くティアラが載せられていた。


ダイヤモンドの精霊たちが現れたことで、他の宝具の精霊たちも呼応するように起き上がった。



基本的に精霊は人と会話することは出来ないが、加護を受けた者とだけ意思疎通をはかることが出来る。


ダイヤモンドの大精霊はふわりとロアに近付くと、黒く変色したダイヤモンド部分に触れた。

そして、ハルの方へ向き何かを伝える。


「ロアの指輪はブラックダイヤモンドの宝具になっているので、"闇の浄化魔法"を使えるはず。そして、ブラックダイヤモンドの宝石も闇の森に存在している、と。」


ロアは皆が息を飲むのを感じた。

それもそのはずだ。今まで御伽噺だと思っていたブラックダイヤモンドも闇の浄化魔法も現実に存在すると判明したのだから。



ダイヤモンドの大精霊がもう一度ロアの指輪に触れると、指輪が淡く光りだし、そこからロアと同じ黒く輝く絹髪に白い肌、深い海の色をした瞳の乙女が起き上がった。


「この方が、ブラックダイヤモンドの精霊様…」


ロアの呟きにブラックダイヤモンドの精霊はふんわりと微笑んだ。


ダイヤモンドの大精霊を始め、アレキサンドライト、ルビー、エメラルド、サファイアの精霊たちもブラックダイヤモンドの精霊を歓迎するようにふわりと舞った。



「ロアすごいよ!古い書物にしか載っていない伝説と思われていた闇の浄化魔法を授かるなんて!」


ハルは興奮気味にロアの手を握りながら言った。


「しかし、それなら大精霊様が宿られるブラックダイヤモンドの宝石は一体どこに…?」


すると、ブラックダイヤモンドの精霊は困惑するロアに何かを伝えた。


「えっ…」


「ロア?精霊様はなんて仰ったんだ?」


ウルが心配そうにロアの顔を覗き込む。


「精霊様が仰るにはブラックダイヤモンドの宝石は闇の森の中央にある、と…」


「え!?」


クロウ、ネレア、テオが驚愕の声を上げた。


「どういうことだ?闇の森の中央には瘴気の核と巨大な魔物が眠っているはずなのに。」


テオが訝しげに呟いた。



そして、ブラックダイヤモンドの精霊は衝撃の予言をする。


ーー巨大な魔物の復活は近い。




この部屋にいる誰もが口にはしなかったが、瘴気の核があるはずの森の中央にブラックダイヤモンドの宝石があるならば、その宝石が瘴気の核になってしまっている可能性があるのでは、と。


(そんなはずは無い。もし瘴気の核がブラックダイヤモンドの宝石ならば精霊様や宝具に何かしらの影響があるはずだが、それは無い。おそらく巨大な魔物が核を保有している?)


ロアが1人で思案していると、ハルがロアの肩に手を乗せた。


「とりあえず、ロアが闇の浄化魔法を授かったのは大きな功績だ。これで王笏の修復と巨大な魔物を浄化させられるよう早急に計画を進めよう。」



翌日からハル、ロア、ウル、クロウ、ネレア、テオの6人は王笏の修復や巨大な魔物討伐について話し合いを進め、ロアはそれに並行して闇の森で浄化魔法を使い討伐しながら魔法の訓練をこなしていた。



1週間後、ロアたちは再び王宮の大精霊が祀られている部屋に呼ばれた。

ここで修復するのかと思っていたら、隣にもう1つ部屋が続いていて、その部屋の中央に王笏は祀られ保管されていた。


王笏は形こそ綺麗に保っているものの、所々が薄汚れ周りにモヤが覆っている状態だった。



王笏と王冠はルルーニア王国建国時代にルビー家によって製作されたもので、それぞれにダイヤモンド、アレキサンドライト、ルビー、エメラルド、サファイアがあしらわれている。

そのうちの王笏の方に大精霊が宿ったのだ。


アレキサンドライト、ルビー、エメラルド、サファイアの大精霊が宿る宝石が、王笏を囲むように並べられた台座に載せられる。

普段は、各家に厳重に祀られている宝石だが、王笏の修復には大精霊の力が必要な為、王宮まで極秘に厳重に運ばれた。


「こんな部屋があったなんて知りませんでした。初めて王笏を拝見しましたが、やはり素晴らしい造形ですねぇ。」


王笏を製作したルビー家のクロウは王笏の造形にかなり興味津々だった。


「王笏の周りに漂っている黒いモヤが巨大な魔物の瘴気の呪いでしょうか?」


ウルの問いにハルが頷いた。


「そう。この瘴気が外に漏れ広がらないように大精霊様がずっと抑えて下さっているんだ。」



ハルはダイヤモンドの宝石に指輪を嵌めた手を翳し、大精霊と精霊を呼び起こす。

そして、ウル、クロウ、ネレア、テオの4人もハルに倣いそれぞれの宝石に宿る大精霊と精霊を、ロアは指輪に宿る精霊を呼び起こした。


色とりどりの美しく麗しい乙女姿の精霊たちは心配そうに王笏を見つめる。


「王笏の大精霊様は何度やってもお目覚めにならなかった。」


ハルは大精霊たちを見回し、胸に手を当て拝礼する。


「王笏を、大精霊様をお救いする為にどうかお力添えを頂きたくお願い申し上げます。」


国王の言葉に続き、ロアたちも倣って拝礼する。




ダイヤモンド、アレキサンドライト、ルビー、エメラルド、サファイアの大精霊、そしてブラックダイヤモンドの精霊が王笏の周りに集まり、その手に魔力を集める。


集まった魔力は半透明の綿あめのようにまとまると、王笏を包み込み輝きだした。


部屋中を包み込む色とりどりの輝く魔力に皆が圧倒されていた。


「…すごい。」


思わずというように呟くウルにロアは頷くことしか出来なかった。


やがて強い輝きが収まると、瘴気を纏い薄汚れていた王笏は本来の美しさを取り戻していた。


「すごいわぁ、王笏が直っているなんて…」


ネレアは呆けたような表情で囁いた。



そして王笏が再び眩く輝きだすと、ふわりと1人の乙女が起き上がった。

白い絹髪が淡く七色に彩られ、その上には金のティアラが載せられている。

シャラシャラと音を立てるロングドレスを身に纏った美しい大精霊の姿だ。

彼女は200年の眠りから覚め、それを喜ぶようにくるりと舞った。


他の大精霊たちも祝福するかのように王笏の大精霊の手を取り喜んだ。




「王笏は修復されましたが、完全な状態とは言えないでしょう。本来ならブラックダイヤモンドの大精霊様のお力が必要ですが、今回は精霊様のみでした。」


王笏修復の儀式から2日後。王宮ではハルやロア、ウルたち四大貴族を交えて話し合いが行われていた。

そこでウルは懸念を示したのだ。


「それはそうだね。しかし王笏の大精霊様がご復活なされたのなら"強大な光の浄化魔法"が使える。そうすれば、巨大な魔物を弱らせブラックダイヤモンドの大精霊様をお救いできる、ということだ。」


「私も陛下のお考えに同意致します。巨大な魔物が完全に復活する前にどうしても先手を打たなければ。」


「僕たちも全力で戦いますので、陛下にはご安心頂きたく存じます。」


ロアとテオの言葉にウルは渋々といった表情で引き下がった。


「では、巨大な魔物の討伐は1週間後だ。それまでに騎士たちを集めておこう。皆もそれぞれ準備を進めて欲しい。」



「"征服されざるもの"として、何としてもこの討伐を成功させなければならない。ロアの為にも…」


ハルは1人、広い部屋で呟いた。




「いくら巨大な魔物の復活が近いとはいえ、1週間後というのはあまりにも急すぎではないか?大丈夫だろうか…」


「不完全とはいえ、一時的に王笏は復活しました。巨大な魔物が完全に目覚めてしまう前に浄化するという陛下のお考えは分かります。」


「だが、ロアの負担が大きすぎるだろう!頼む、もっと自分を大事にしてくれ。」


珍しく大きな声を出すウルにロアは微かに目を丸くした。

ウルの慎重な気持ちもよく理解できるが、そう悠長なことを言ってられないのも事実だ。


「巨大な魔物は瘴気の核を保有している可能性が高いです。そんなものが目覚めて防御壁のところまで来てしまったら、もし防御壁を破壊してしまったらこの国は滅ぶかもしれません。」


王笏を手にしたハルが安全に進めるようロアが周りに蔓延る魔物を切り払う役目になっている。

そして巨大な魔物と対峙した際、強大な光の浄化魔法で弱った隙を狙って首を切り落とし、ブラックダイヤモンドの宝石をお救いする。

ブラックダイヤモンドの大精霊を呼び起こし、"光と闇の浄化魔法"を放ちトドメを刺す。


とにかくロアのやることが多いが、これはロアが自ら提案したことだ。

命の危険性があると言えばハルはもちろん、討伐に向かう全員にあるが、ロアの責任は人一倍重荷であることにウルは心配で仕方なかった。


「こればかりは仕方ありません。巨大な魔物の浄化とブラックダイヤモンドの大精霊様をお救いするのが優先事項ですが、陛下の御身を最優先にお守りしなければなりません。」



「陛下は何も仰らないのか?義妹が巨大な魔物と対峙するって言うのに。」


「いえ。陛下には命の危険があればすぐ引き下がるように言われています。"君を失いたくないから"と。しかしそのような訳にはいきません。私は陛下の剣として盾として一歩も引き下がる訳にはいきません。」


ロアはウルを真っ直ぐ見つめて宣言したが、ウルは何故か固まっていた。


「ウル?」


「…陛下がそのようなことを言ったのか?」


「? 命の危険があればすぐに引き下がるように…のことですか?確かにそう仰っていましたが。」


「いや、そこじゃなく。"君を失いたくないから"と…」



ロアは怪訝な表情だったが、すぐに理解したのかポンと手を打つと、


「あぁ。先程も言った通り、私は陛下にとって剣であり盾でもあります。私がすぐに魔物にやられてしまっては陛下の御身をお守り切ることが出来ませんから、そのように仰ったのではないですか?」


ウルはしばらく呆然としたあとガクッと項垂れた。


(無自覚というか無関心というか、分かってはいたつもりだがここまでとは…。ということは、今までの俺のあれも…?)



「ウル?私は何か変なことを言いましたか?」


「いや、ふっ。そこがロアの良いところだな。」


苦笑しながらロアの頭を撫でるウルに、ロアは怪訝な表情のままだった。




ーー1週間後、巨大な魔物の討伐当日。


多くの騎士たちの先鋒を切るのはロアだ。

その後方にウル、クロウ、ネレア、テオの4人が、そしてその後ろにハルが待機している。


ウルは出発前に討伐に向かう全員に防御魔法をかけ、今回はそこにネレアの精霊の祈り魔法を付与する。

国を守り覆う防御壁ほどではないが、かなり強固なものになる。


ハルが出立の合図をする。

討伐隊はロアを先頭にゆっくりと森へ進んだ。



道中、多くの魔物が討伐隊めがけて襲ってくる。

ロアを中心にウルたちも次々と魔物を倒していった。


「やはり、ここには陛下を始め、精霊様のご加護がある者ばかりだ。魔物の数が桁違いだな。」


ウルは独りごつと魔物の落とした魔石を拾う。


クロウとネレア、テオも同じように魔物を倒しながら進んでいる。

普段は「戦闘は専門外だ」と言いながら、いざとなったら頼りになるのがこの3人だ。


クロウとネレアに限っては笑顔で剣を振り回しているのが恐ろしい。

そんな2人をみてテオは頭が痛そうだった。



先頭のロアは他の者とは比べ物にならない量の魔物を次々切り払っている。

その後ろのハルは王笏の為の力を温存しつつ、光の浄化魔法で周囲の瘴気を祓ったり魔物を浄化させていた。


ハルの御身の安全が優先だ。ロアは片時も休む暇は無い。


やがて魔物の襲撃が一時的に収まると、騎士たちに素早く休憩を取らせる。


「陛下、お怪我はございませんか?」


ロアは素早く水分補給を済ませるとハルの元へ走った。


「ありがとう、大丈夫だよ。それよりロア、すごい汗だ。少し座って休んだ方がいい。」


ハルの光の浄化魔法のおかげで、この辺りの瘴気は一時的だが浄化されている。


ハルは王の為に用意された簡単な玉座に座って休み、その周りに野外用の椅子が並べられる。


そこにロアやウル、他の3人も座った。



「ロア、大丈夫か?顔色がよくない。あまり無理をするな。」


ウルが心配そうに顔を覗き込む。


「平気です。この程度で音を上げていては陛下の護衛は務まりません。」


そう言いながらも普段は涼しい顔をしているロアが珍しく肩で息をしている。

顔ももとの白さよりさらに青白い。


ウル、クロウ、ネレア、テオも息は荒いが体力的には大丈夫そうだ。


ロア以外の5人は、大精霊から精霊と宝具を介して魔力を使っているのでほぼ無尽蔵に使えるが、現在ブラックダイヤモンドの精霊しかいないロアは使える魔力が他の者より圧倒的に少ない。


巨大な魔物討伐の為に温存しているが、ロアも周りの瘴気を浄化するのに魔力を使っていた。


そこにプラスしていつもより数の多い魔物を倒しているので疲労が蓄積され、ふらついていた。



ウルはいても立ってもいられず、ガバッと立ち上がるとロアに疲労回復の為に治癒魔法を施した。


突然のことでロアはぽかんとしているが、テオは内心冷や汗をかいていた。


(目の前の国王を差し置いてやるなんて、不敬罪と捉えられてもおかしくないぞ…)


オロオロするテオだが、ハルは気に障った風もなく微笑んでいる。

なんだか2人の様子を楽しむような雰囲気にテオはホッと胸をなで下ろした。



「あの、ウル?私より先に陛下を回復して差し上げなければ…」


ロアに指摘されてハッと気付いたウルは、すぐにハルの方へ向き直り跪いた。


「陛下、申し訳ありません…!」


「いや、いいんだウル。むしろ大切な義妹の為に率先して回復してくれて嬉しいよ。ありがとう。」


クスクスと笑うハルにウルはバツの悪そうな顔で頭を掻いた。


(陛下が温厚な方で良かったなウル…)




しばしの休憩を取ったあと、一行は再び森の中央へと進んだ。


森の外周付近に比べて中央に近付くほど魔物の数が増えていたが、中央範囲へと足を踏み入れた途端に魔物の気配が突然消えた。


木々が生い茂っているが、所々が腐り落ちて倒れている木もある。

生き物、生命の気配を微塵も感じない異様で不気味な雰囲気にロアは警戒心を強めた。


「今までの場所とはまるで雰囲気が違うな。あまりにも静かすぎる。」


「なるべく音を立てずに行きましょう。巨大な魔物はこの先で眠っているはずです。」


「ここでは光の浄化魔法が効かないな。巨大な魔物の魔力が強すぎるせいかもしれない。」


小さい声で囁くハルにロアはここで少し待って頂くよう声をかけた。


「ここはもう森の中央部です。陛下には手前で待機して頂いて、ここからは私1人で行きます。」


「俺も行く。」


「え?」


ウルの突然の提案にロアは怪訝な顔をした。


「1人で行くより戦力は2人分あった方がいいだろう。それにロアほどではないが、俺だって剣の腕には自信があるんだ。」


真っ直ぐロアを見つめて話すウルには、何が何でも付いていくぞという強い意志(圧力)を感じた為、ロアは頷くしかなかった。


「分かりました。陛下には私が合図します。」




闇と死の気配に包まれた中央部にロアとウルは再び向かった。


少し進んだところで、前方にキラキラと輝くものがあることにロアが気付いた。


「あれは、まさか…」


「あそこにあるのはブラックダイヤモンドの宝石か? ということは、この近くに…」


2人は無言で目配せすると、ブラックダイヤモンドの宝石にゆっくりと近付いた。


ロアが宝石に触れようとした瞬間、目の前にどす黒く巨大な塊がロアめがけて襲ってきた。


ロアはすぐに横に飛び、ウルが伸びてきた魔物の腕を剣で振り払う。


これまでにないくらい濃い瘴気を纏った巨大な魔物は、剣を振り下ろしても刃が通らない。

振り払っただけでも剣の先が欠けるほどだった。



魔物の意識がウルに向かっている隙に、ロアは素早くブラックダイヤモンドの宝石のもとへ走り掴んだ。


「今です!陛下!」


ロアがハルに叫ぶと同時にブラックダイヤモンドの宝石が淡く光りだした。


しかし、ロアはいつの間にか後ろに来ていた巨大な魔物に気付くのが遅れ、巨大な魔物はロアに向かって腕を振り下ろす。


咄嗟に剣で防いだが、衝撃でロアが向かいにある大木に激突して倒れた隙に魔物は宝石ごと包み込むように吸収したのだ。


「ロア!!!」


「ウル!下がっていろ!!!」


ハルは王笏を掲げ、大精霊を呼び起こすと"強大な光の浄化魔法"を巨大な魔物に向け放った。




「うっ…」


ロアが目覚めると、そこは暗闇に包まれた場所だった。

魔物に吹っ飛ばされた衝撃で気を失ったとこまで覚えている。

ウルの防御魔法のおかけでダメージが少ないのが幸いだ。


「ここは?」


ふと、人の気配を感じ振り返ると、そこには白い肌に琥珀の瞳、美しく輝く黒い絹髪にティアラを載せた麗しい乙女の姿があった。


「ブラックダイヤモンドの大精霊様…?」


大精霊はふんわりと微笑むとロアの手を取った。


すると、ロアの手のひらにとんでもない量の高濃度な魔力が集まり宝具の指輪に吸収されていった。


「これでより強力な闇の浄化魔法を使える、ということですね。感謝致します、大精霊様。」


ブラックダイヤモンドの精霊も姿を現し、大精霊の頬にキスをして感謝の意を伝えた。




ハルの放った強大な光の浄化魔法は、巨大な魔物を包み込んだ。

巨大な魔物は苦しみ藻掻き、だんだん体が小さくなっていく。ある程度の大きさで収縮が止まると、魔物の体の中から黒く輝く光が漏れだした。


魔物は再び藻掻き暴れ出すと、森に轟く叫び声を響かせて、眩い光に包み込まれると消滅した。


魔物が消滅した場所にはロアが気を失って倒れていた。


「ロア!!!」


ウルはすぐさまロアのもとへ走り抱き寄せると、ロアの手にブラックダイヤモンドの宝石が握られていることに気付いた。


ウルは回復魔法をロアにかけ、ハルたちがウルのもとに集まるとすぐにロアが意識を取り戻した。


ロアは魔物の中で起こったことを話し、ブラックダイヤモンドの宝石を掲げると大精霊を呼び起こした。


それに呼応するように王笏の大精霊が現れると、2人は手を取りあった。

すると、王笏が強い光に包まれた。


しばらくすると光は収まり、王笏にはダイヤモンド、アレキサンドライト、ルビー、エメラルド、サファイアの他に新たにブラックダイヤモンドがあしらわれていた。


「これは…」


「これで"光と闇の浄化魔法"が使えるようになり、森を汚してきた瘴気を完全に浄化することが出来ます。」


巨大な魔物は消滅したが、辺りにはまだ瘴気が漂っていた。

魔物自体は消滅しても保有していた瘴気の核は残ったままだった。


ハルは王笏を天に向かって掲げ、瘴気の核に向けて"光と闇の浄化魔法"を放った。


凄まじく強力な光が王笏から放たれると、瘴気の核は呆気なく消滅した。

そして強烈な風が吹いて辺りの瘴気が完全に浄化され、あるべき森の姿に戻っていた。


しかし、木々は所々腐り落ちているままだ。

生き物の気配も無い。


「せっかく瘴気が浄化されても森がこのままでは…」


「陛下、我がサファイア家にお任せ下さい。サファイア家は豊穣と恵みの雨の魔法を司ります。この森を実り多き豊かな森にして見せましょう。」


「そしてエメラルド家はささやかながら、そのお手伝いをさせて頂きますわね。」


エメラルドの魔法は対象の魔法の効果をさらに強固なものに引き上げる。

サファイア家の恵みの魔法とエメラルド家の精霊の祈り魔法があれば、"闇の森"と呼ばれていたこの森はこの先永劫に、豊かに動物たちの住まう素晴らしい森へと変わっていくだろう。



テオは空に手を伸ばし魔法を使うと、青銀に輝く触れても濡れない不思議な雨を降らした。

すると、所々腐り落ちボロボロだった木々がみるみる内に葉が大きく瑞々しい立派な大木へと生まれ変わっていった。


そして、ネレアがエメラルドの魔法をかけると、緑銀に輝く風が木々の葉を揺らし、たちまち森の空気が美しく澄んでいった。

心做しか小鳥たちの囀りさえ聞こえてくるようだった。



「すごいな。先程まで瘴気で汚れ、陰鬱としていた森がこんなに明るく清らかになった。」


ウルは思わず感嘆の息を漏らしていた。


「これでもう瘴気にも魔物にも怯える日々は去りました。それもこれも陛下を始め、ウル、クロウ、ネレア、テオ、そして騎士の方々のお力添えあってこそです。本当にありがとうございました。」


ロアの深々と頭を下げる様子にウルが慌てた。


「いや、確かに陛下のご威光も素晴らしいものだった。だが、ロアだって命懸けで戦ったじゃないか。」


「そう。この戦いの1番の功労者はロアだと断言させてもらうよ。」


ハルが嬉しそうに笑った。


「そうよ。ロアがブラックダイヤモンドのご加護を受けなかったらそもそも王笏の修復なんて出来なかったんだもの。」


「見てごらんよ。この王笏の素晴らしい形状に美しい宝石たちったら。そこにブラックダイヤモンドほ宝石まで加わったんだ。美しさが天元突破しているよ。これは国宝以上の価値があるね。」


クロウがやや興奮気味に話すのをテオが諌める。


「僕もロア、いやバラス公爵のブラックダイヤモンドのご加護無しでは成し遂げられなかったと感謝しています。本当にバラス公爵は素晴らしい方だ…」


テオは幼い頃からロアのことを尊敬していた。

剣術の腕から、どんな魔物相手にも物怖じしない度胸など"いつかこんな大人になりたい"の憧れだったのだ。


「皆さん、ありがとうございます。」


ブラックダイヤモンドの大精霊はロアを抱き締めると嬉しそうに微笑んだ。




闇の森が完全に浄化され、魔物がいなくなり平和になったことを祝して、王宮で盛大なパーティーが開かれた。


戴冠式にはいなかった王笏の大精霊の姿に多くの貴族たちが涙ながらに感嘆の息を漏らしていた。


「ロア様がブラックダイヤモンドのご加護を授かられたおかげで王笏がご復活されるとは。」


「闇の森も浄化され平穏が蘇った。先代王も喜んでおられるだろう。」


ロアがブラックダイヤモンドの大精霊を呼び起こすと貴族たちは驚き、畏敬の念を、そして祝福の拍手を送った。



しばらくパーティーは続き、ウルは配られたシャンパンを手にロアを探した。


ロアはいつもの黒ずくめの服装で壁に寄りかかってパーティーの様子をぼんやり眺めていた。


「せっかくロアが主役のパーティーなのにこんなとこにいていいのか?」


そう言いながらロアにシャンパンを渡す。


「そんな主役なんて…。陛下は歴代の国王たちが成し遂げられなかった偉業を達成されました。ブラックダイヤモンドのご加護を授かれたのも大きいかもしれませんが、陛下を始め周りの皆様のおかげです。」


「またそんなこと言って。ブラックダイヤモンドの覚醒に巨大な魔物の討伐、闇の森の浄化。とんでもない成果だ。もっと誇っていいんだぞ。」


ウルのあまりの必死さにロアは思わず笑ってしまった。


「ウル、ありがとうございます。」


表情はほとんど変わらないが、ロアが僅かに笑った。

周りの貴族たちは気付かないが、幼い頃からずっと傍にいるウルには衝撃的な変化だった。


幼い頃は暗い表情が多く、剣の腕を認められてから少しずつ和らいでいったが、それでも笑うことなど無かったのに。


「ウル?」


ロアを見つめたまま固まってしまったウルにロアが心配そうに声をかける。

ウルの顔は心做しか赤くなっていた。


それを見てロアはハッとした。

もしや、連日の怒涛の仕事量に先日の討伐の疲れも取れていないのでは?

顔が赤いのは風邪を引いて熱があるのかもしれない。


慌てたロアはウルの手を引いて急いでパーティー会場を出た。


「ロア!ど、どうした?」


「ウル、あなた風邪を引いているのではないですか?体温も高いし顔も真っ赤です。急いで医務室に…」


しかし、ウルはピタッと歩みを止めた。

怪訝に思ったロアが振り返ると、顔を押えて体を震わせて笑うウルの姿があった。


「ウル?」


さすがのロアも戸惑いを隠せない様子だった。


「いや、すまない。これは風邪じゃないんだ。大丈夫、俺は何ともない。」


「本当ですか?なら、いいのですが…」


ウルは気持ちが抑え切れなくなって思わずロアを抱き締めた。


ロアはビクッと体を固くして俯いた。



しばらくしてロアが不意に顔を上げる。

相変わらず何を考えているのか分からない表情でウルをじっと見つめている。


ウルがこれは…と思い身構えた瞬間、ブラックダイヤモンドの精霊がロアを庇うように現れた。


どうやらロアが困っていると感じた精霊がロアを守る為に出てきて立ち塞がったのだ。

その顔は少し怒っているように見えた。


いつの間にかアレキサンドライトの精霊も現れ、やれやれ…というように首を振っていた。


ウルはギクッとして慌ててロアから離れたが、まだ顔は赤いままだった。


ロアは再び俯くと小さい声で呟く。


「ウル、あなたといると私はいつもより素直になれる気がします。それが何だかとても安心できて居心地が良いのです。…ありがとう。」


「それはお互い様だ。俺もロアのことは大切だし、命に代えてでも守りたいと思っている。これからもずっと。」



ロアは今度のそ花が咲くように笑った。

読んで頂きありがとうございました。

初めて書いたので拙い内容、文章で申し訳ありません。

どうかご容赦下さい。


他にも番外編などもありますので、近いうちに投稿するかもしれないです。

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