腐れ縁は永遠に? 2章
遅れましたが2章投稿です。1章はプロローグを兼ねていたこともあって説明多めでしたが、2章は前回より会話多めで、コメディ要素も多く入っています。
突然有希から発表があり、それが同じマンションで部屋が隣という展開かと思いきや、まさかの同じ部屋というオチ。夢か現実か認識しきれず立ち尽くす俺だったが、有希が手を掴んだことで我に返り、導かれるがままマンションに入っていく。入口のオートロックも事前に知っていたかのような自然さで開け、乗り込んだエレベーターも俺の部屋と同じ階で降り、廊下を歩いて立ち止まったのは俺の部屋の玄関のド真ん前。これを見ても現実を認められず最後の足掻きとして有希に鍵を開けるように言うが、有希は平然と部屋番号が書かれたカードキーを取り出した。それをドア前のパネルにかざし、4桁の番号を打ち込むとガチャリと解錠される音が鳴る。
「はい!これで私と大地が同じ部屋というのが証明されました!」
「・・・・・・・・・」
流石にここまでされれば認めざるを得ないのは確かだが、色々腑に落ちない点がある。
「・・・ちょっと待ってろ」
俺は有希から離れてスマホを取り出すと、母さん宛てに電話を掛けた。
『・・・・・・もしもし?どうしたの?』
「どうしたのじゃない!何で有希が俺と同じ部屋に住むことになってんだよ!」
数コールで出た母さんは至って普通で、特に変わった様子も、先に悪びれる様子もない。
『それは有希ちゃんがあんたと同じ高校に入るって言ってたから』
「それだけ!?それだけで高校生の男女の同居を許すのか!?」
『流石に他の女の子相手だったら許したりしないけど、有希ちゃんは小さい頃から知ってるし信頼もしてるしね。あんたも有希ちゃんに手を出そうなんて思わないでしょ?』
「そりゃ思わないけどさ・・・」
俺は有希を遠ざけようとしてここまで来た。それなのに一緒に住むからと言って手を出すことなんて考えられるわけがない。しかしだからと言って親が簡単に許していい理由にはならないと思うのだが。
『大地?』
「ん?何?」
続いて何か言ってやろうと口を開きかけた時、母さんは神妙な声色で諭す様に言ってきた。
『あんたが今の高校に行きたいって行った時、本当は止めたかったのよ?一人暮らしなんて高校生のあんたにさせるなんて心配だし、家賃やら生活費やら色々掛かるの』
「・・・」
『けど、今まで全然ワガママなんて言ってこなかったあんたが必死になってたものだからって、私もお父さんも許したのよ?』
「それはホントごめん」
母さんの言うように、一人暮らしなんて簡単にできることじゃないだろう。俺だって今まで両親に支えられてきたことも、色々楽させてもらってきた自覚もある。このマンションだって、俺に危険が無いようにって選んでくれたところだ。
『けどね?その後有希ちゃんのお母さんから、有希ちゃんもあんたと同じ高校に通いたいって言いだしたって聴いて、それなら一緒の部屋にさせましょって提案したの。そうすれば私達も安心するし、費用も折半すればいいからって』
そこまで言われると何も言えない。俺だってワガママを言っている自覚があって、負担させてしまっていることに多少なりとも罪悪感はあったから。俺の身勝手を許してくれているのだから、それくらいは受け入れるべきなのだろう。
「・・・有希との同居までの経緯は分かった。でも最後に1つだけ」
『何?』
「何で俺にまで黙ってた?」
『それは・・・有希ちゃんから内緒にしててって言われたから』
「だろうな!!」
経緯はどうであっても俺にまで黙っている正当な理由はないだろうに。だがそこは有希には激甘な母さんだ。有希に提案されて面白半分で乗ったに違いない。さっき言い淀んだのだって多少なりとも罪悪感があったからだろう。
その後少し話をして電話を切り、一息ついて玄関に戻る。
「”お義母様”と話してたの?」
「・・・そうだけど」
有希は俺の両親のことを何故か”様”付けで呼んでいる。媚びを売るためか上品に見せるためか分からないが、どちらにしても気に入られようとしているのは確かだ。それはもう慣れたのだが、今更ながらコイツの”おかあさま”という呼び名はちゃんと正しい字を用いられているのだろうか。
「納得してくれた?」
「まぁ、さっきよりかは」
有希と同居というのに現実味が湧かないのは今もそうだが、母さんの説明を聞く前よりかはマシになっている。
「そ。じゃあそろそろ入ろ!」
ドアを開けて入っていく有希に付いていく形で俺も部屋に入り、帰ってきたことを実感する。色々あり過ぎたせいか、半日しか経っていないのにへとへとだ。もうこのまま寝たい。そして起きた時には全部夢でしたってことにしてほしい。
「あーお腹すいた!お昼にしよ?」
「それは良いんだが、そう言えばお前部屋は?」
現実逃避をしたいという思いを残しつつも、俺はふと疑問に思ったことを口にする。よくよく考えてみれば、というか秘密にされていたのだから当然だが、俺は有希と同居することを知らなかったのだから、有希が使う予定の部屋があるなんて聞かされていない。流石に年頃の女子に部屋がないというのはあり得ないとは思うのだが。
「え?ここだよ?」
そうして平然と指を刺されたのは俺の個人部屋のすぐ隣の部屋。そこには心当たりがあり、引っ越した際に母さんから「絶対入るな」と滅茶苦茶念押しで言われていた部屋だ。俺の家なのに何で入っちゃいけない部屋が存在するんだと思ったが、特に入る用事も興味も無く結局開かず仕舞いだった。というか、入るなと言われて本当に覗きすらしなかったのだから俺は素直過ぎるな。鶴が恩返しに来た時も覗いたりしないタイプだ。どんなタイプだよ。
しかしこうして考えてみると、あの時にはもう既に有希の荷物が運び込み始めていて、見られると有希と同居することがバレるから入らないように言ったのだろう。
というか、さっき感じた見落としはこれのことだったと今更ながら思う。だってまさかこんな目と鼻の先に伏線があるなんて思わないじゃん。
「それじゃあ私は着替えたらお昼作るから、大地は部屋で待ってて」
「あぁ・・・え?今何て言った?」
さっきから情報量がえげつなさ過ぎてスルーしかけたが、何か”お昼作る”って聞こえたような気がする。
「え?だからお昼作るって・・・」
「ちょっと待て!?お前料理できんの?」
幼少期からずっと一緒にいる(というか付いてきている)有希だが、授業以外で料理したところを見たことなければ聞いたこともない。もし有希に料理が出来るのだとしたら、中学の時だって俺に手作り弁当を作ってきて食べさせるというドテンプレなことをするはずだ。だけどそんなの一度たりともしてこなかったのだから、俺の中で有希は料理ができないものだと勝手に思っていた。
「ふふふ、私を甘く見てもらっては困るね大地・・・あ!甘やかすのは大歓迎だよ?」
「話進めろや」
そんな情報要らなさ過ぎる。俺にすら需要無いぞ。
「私はいつ大地と結婚しても良いように、日々花嫁修業をして来たのだよ!」
「・・・はい?」
現実では飛んでこないであろうワードが有希の口から飛び出してきて、俺は思わず間抜けな反応をしてしまった。
「中学の時はお母さんから中々オッケーがもらえなくて手料理を作ってあげられなかったんだけど、先月やっとオッケーもらったの!だからこれからは毎日料理作ってあげる!」
色々何言ってんだと言いたくなったが、冷静に考えれば俺が関わった時の有希の行動力が凄まじく恐ろしいことは、幼少期からその片鱗を見せていたのだから今更だ。僅か5才ながらに俺の両親の心を掌握したことからも、今こうして俺を追いかけるため、親元を離れた他県の同じ高校に単身で来ていることから見ても明らかだ。
いくら俺がモチベーションだったのだとしても呆れたいのは山々だが、こうして有希が自力で掴み取った成果を、俺が簡単に否定していいわけがない。
「分かった。どのみち俺じゃあまともなの作れないしな。任せた」
「うん!料理洗濯家事親父!全部どーんと任せて!」
「最後余計なの混じってなかったか?」
「そうだね。お父さんはいらないよね?」
「いや言い方よ!”お父さん”泣くぞ!」
「やだ大地ったら”お義父さん”なんて気が早いよ!」
何故だろう。音が同じなのに俺と有希とでは別の意味に聞こえる。
有希とは一時解散になって自分の部屋に入ると、その瞬間一気に力が抜けて、椅子に辿り着くことなくドアの前にへたり込んだ。
高校入学初日に離れられたと思った有希と高校で再会し、距離を置こうっと言った矢先にぶっ込まれる自己紹介での爆弾発言。挙句に帰りには有希と同居するという新事実が判明し、家事ができないと思い込んでいた有希が実は親から認められるほど家事がこなせるようになっていたこと。どう考えても1日、いや半日で得るような情報量じゃない。俺はいつの間に二次元主人公に転生してたんだ。
とまぁ今更考えても仕方ないことは置いておくしかないわけだが、不安なのは今後のことだ。中学までの校外での俺達はあくまで遊びに行く程度で終わっていて、それ以上は何もなかった。しかし今は同じ家に住む同居人で”双方の親公認”という大義名分付きだ。そんな状況下で有希が何もしてこないわけがない。色々対策をしたいが、何をしでかしてくるか分からない以上対策しようがない。
「・・・飯に何か盛るとか?」
普通に考えてそんなことしないとは思いたいがそこは有希だ。やらかしたとしても驚きはしない。通報はするが。
結局情報過多で何も考えられなくなった俺は部屋着に着替えて部屋を出ようとドアノブに手を掛けた。するとそれとほぼ同じタイミングで外からノックをされた。
「大地!ごはんできたよ!」
「あ、あぁ」
俺はそのままドアを開けて部屋を出ると、そこには真新しい有希の姿があった。
いつも有希が俺の家に来た時は女の子らしく、有希自身の素材を活かした洒落た服装だった。しかし今目の前にいる有希の恰好は部屋着のような隙の見えるもので、いつものアピール全開で迫ってくる有希のイメージとは程遠いものだった。
「ん?どうしたの?もしかして見惚れてた?」
黙って眺めている俺を見た有希は不思議そうな顔で覗いてきたが、その後すぐいつものウザ絡みムーヴをかましてきた。どこまでいっても有希は有希だなと思うと逆に安心する。安心していいのかコレ。
「いや、そういう恰好見るの初めてだなって」
「お?エプロン姿が可愛すぎるって?いやんもう大地ったらそんなに褒めなくても」
「エプロンじゃなくて服の方。部屋着って見たことないなと思って」
「・・・女の子のエプロン姿をスルーってホントに男の子なの?」
一々相手しててもキリがいないだけだ。ただえさえ消費カロリーがいつもの何倍も多いんだから節約しないとやっていけん。
「まぁ大地の家に行く時は少しでも可愛く思ってもらおうって余所行き用になるけどさ、これからは一緒に暮らしてくんだし、ありのままの私も見て欲しいって思うしね」
本当に良識があるのかないのか分からないやつだ。いつもこれくらい手加減してくれると助かるんだが、有希の場合そういうわけにはいかないんだろう。
「そうか。まぁ俺としてもその方が気が楽だ。家にいるのに堅苦しくなるのは御免だからな」
「でしょ?さぁ早く!ご飯冷めちゃう」
リビングに入ると、テーブルにはオムライスにサラダ、そしてスープが2人分並べられており、その色鮮やかな光景に思わず言葉を失ってしまった。
「ん?どうしたの?ボーっとしちゃって」
「・・・実は冷蔵庫に完成形を潜ませていて、レンジで温めただけってことはある?」
「初めて振舞う手料理を見た後の第一声がそれって流石にショックなんだけど」
これは俺が悪い。作っておいてもらって流石に失礼過ぎる。生まれて初めて有希に罪悪感を持ったかもしれない。
そんなことを思いながら有希に一言謝り、大人しくテーブルに着いた。並べられた料理は遠目で見るより美味しそうに見え、漂う香りは食べる前から旨いと思わせる。そんな光景を目の当たりにして、俺は思ったことをそのまま口にした。
「お前、何も盛ってないよな?」
「・・・」
さっき失礼なことを言った傍からまた余計なことを言ってしまった。口にした時には時既に遅く、有希は一瞬体を震わせて俯いてしまった。
「いや、その・・・」
慌ててフォローしようとした俺だったが、すぐに有希の様子がおかしいことに気付く。俯きながらも目を泳がせ、指を絡ませていてショックを受けて落ち込んでいるという感じではない。というより、必死に言い訳を探しているように見える。
「え?マジで盛ったの?」
そんな不安を込めた俺の言葉に有希は何の返答も寄越さず、いつもの平然とした態度から考えられない反応に悪寒が走る。
「実は、いっぱい入れたんだ・・・」
「・・・は?」
白状したと言うように、俯きながら冷たい声で言葉を告げる有希。その言葉を聴いてから、自分の鼓動が速くなっていくのが分かった。
何を入れたのか訊きたいのに訊けない。今まで感じたことのない恐怖が俺を襲って口どころか身体すら動かせず、言葉すら発することができない。本当に有希は何を入れて・・・
「大地への愛情を・・・たっっっっっぷり入れちゃった!」
「・・・・・・・・・は?」
有希の思わぬ発言に俺は固まった。いやホントどういうこと?
「ほら!今まで手料理を作ってあげられなかったでしょ?だから今日はその分たっぷり注いであるよ!いやぁ食べる前に気付いちゃうほど溢れちゃってたかー!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
さっきまで警戒していた自分がバカらしくなった。リアクションが紛らわし過ぎて本当に何か盛ったんじゃないかって疑ったわ。
「本当は大地の口から美味しいって言ってくれたあとで言おうと思ってたんだけどね?そして、そんな私の言葉を聴いて反応に困る大地を見るまでがセット」
完全に玩具じゃねぇか。他人の反応でなに楽しんどんねんコイツは。
「はぁ・・・アホらし」
飯を食べ終えて再び自室に戻る俺。初めて食べた有希の作る手料理は、正直に言えば”旨かった”。上手く言葉にできないが、何となく有希の優しさを感じたような気がした。
俺が思わず率直な感想を漏らしてしまい、ヤバいと思った俺は恐る恐る有希の方を見る。しかし有希から宣言していた言葉が飛んでこず、それどころか両手で頬杖をついたまま大きく目を見開いていた。有希の予想外の反応に不思議に思ったものの、そのあと有希はすぐ我に返り、宣言したものとは全然違う取り繕うな言葉を並べていた。
よく分からないが、珍しく慌てふためいた有希を見れて何となく得した気分になれた。
2章-完-
2章読んでいただきありがとうございます。また前回お礼を伝えてなかったご無礼お許しください。次回のプチ予告すると、3章では主人公とヒロインに関わる事件が起こります。『起承転結』の『転』の部分と言えるでしょう。次の投稿は年始になるかと思いますが、また次回も読んでいただけると幸いです。