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THE GNOME/03


「ゲームのしすぎだ」

 洗面所で目の下のクマが見える顔を磨きながら誰もいない家で呟く。

 鏡に映る私は父譲りの金髪に灰色の目、不健康そうな白い肌、母の容姿をベースにできたような体。

 コーカソイドとモンゴロイドの二人の特徴は、別に嫌いではない。

 ちゃんと二人の子供だと言う自意識を持てる。

 夢の中で見た黒髪黒目のモンゴロイドだけみたいな母を模したようなアバターとはまるで違う自分が目の前にいるけどアバターで見慣れた東京に混じろうとする自分を夢で見るとは思わなかっただけだ。

 私は私だけど、私の姿はリアルとアバターの二つがある。

 最近の私はおかしい。

 自分で自覚できないどこかで疲れているのかもしれない。

 今日は休日で学校はない。

 家の仕事を片付けるなり私は家の庭に立つ。

 VRグラスをつける。

 目の前には履歴だらけのNFTの履歴付きのデータでできた巨大な仮想機械群。

 それぞれが数十メートル規模で存在している。

 それより、さらに巨大な架空の私がクレーン車か、あるいは昔の巨大なヒーローのように、指先でつまんで積み木を並べ直すように広げていく。

 それぞれデジタル上で役割があったと思われるものだ。

 巨大なエンジン、それを動かすシャフト、ギア、自己増殖器官、装甲板、あげればキリはないがバラバラになった何かの機械群に見える。

 小さい頃からパズルは得意だ。

 私自身が自分で選んで行う、無為かもしれないゲームを続ける。

 これらの巨大な機械群を推定の上で組み上げていく。

 もし、同じソフトウェアで私が許可した領域で私の姿を見る人がいるとすれば巨人の私が子供のパズルのような遊びを怪獣映画のような世界で遊んでいるように見えるだろう。

 このパズルも、なんとなく完成が近い気がした。

 やり始めたのはここ数ヶ月だけど……なんだかこのパズルも終わらせて周回遅れの授業を消化して、ゲームのスコアを更新して小銭を稼いでそれの一部を投資に回しているこの状況でなんだか足りないまま私は空っぽだ。

 締切はないから、どれも見える結果を先延ばしにしている。

 でも進めないまま悶々とするのもいやなので次を探すためこのパズルは最優先で完成させようと思っている。

 後少しで出来上がるけどこれは出来上がると、きっとあの夢の中の巨大なメガストラクチャーの原型になるんだろうな、という考えが浮かぶ。

 それは仮想空間のこの旧型ソフトウェアで観測される世界だ。

 最新のフォーマットのWorldWideWebではこの世界はもう数世代前のジャンクだ。

 だから、これは自己満足だ。

 コードもプログラムもこの組み立て中に旧世代のAIが補助をしてリアルタイムで適切なプログラムを組み立ててメチャクチャに思える設計を補助して形づくり、意味を付与していっている。

 コードを書くことはなく、GUIで私が組み立てる。

 補助していくコードはデジタルとデジタルの接合点を自動接続して最初から同じものだったように補完しあって融合して一つの器官を作り上げていく。

 最後に仮想の小型モジュール高速核融合炉に火をつける。

 足りない仮想のパイプや耐震はすべてAIがオートで補強している。

 このVRでは地震など起きないからやりたい放題に設計ができる。

 それでもリアルなシミュレーションがモチーフ元にあれば、現実でどこかで反映されるための知性のベースになるので私が修復したこれはゲームの未来の世界でできているかもしれない固有時制御代謝装甲板や発生した余剰エネルギーを効率的に変換する素材などを駆使した高エネルギー変換素材で覆われている。

 最小構成で最大効率で汚染は最小限という机上の空論のようなおもちゃのエンジンが始動するなり、巨大な心臓の鼓動が走るようにNFTで出来たメガストラクチャーは胎動し、呼吸のような動きを行うごとに要領容積を増やしエネルギーを実体化させ世界の量子セルを書き直し成長していく。

 これでこの世界の役割はおしまいだ。

 巨大になった私はリアルな人間の等身になるように手で縮小の動作を行い成長していく巨大都市の先端に降り立つ。

 ぐるっとVR越しに巨大化していく世界を見る。

 夢の中で見たあの素材に近い感触が仮想のスーツ越しからリアルな足に伝わり、むず痒い。

 ゆっくりと上昇していく足場、今週初めにフィルター交換した山頂のセンサーが正面に見える。

 そこに、セーラー服を着た、誰かが見えた気がした。

 目を擦ってARグラスの解像度を跳ね上げる。

 誰もいない。

 なんとなく私のアバターに似ていた気がする。

 やっぱり疲れている。錯覚だ。

 私はいまから2世代前のフィルターに視界を切り替えた。

 空中に浮いた私の足元には巨大な構造体は一切なく、私の普段住んでいる田園の風景が広がっていた。

 私のパズルは2世代前で終了していたようだ。

 NFTが生まれた今から15世代前まで処理は完治してこれからのパズルが消えていたことに安堵する。やがて退屈がくるという絶望が溢れてきてなんとも言えないため息を吐き出して、お腹が空いたのでお昼ご飯を食べることにした。

 また、退屈な世界が待っている。

 通知が来る。

 今度はフィルター清掃ではなく、小型水力発電所からのエラーだ。

 土日の半日の学校と休日は毎度、こういう機械様の世話に追われていく。

 土曜日は学校の図書館から古典文学でも借りてこよう、と学校やネットで聞き齧った旧文学のリストのメモを準備した。


 図書館の本は今世紀初頭から更新されていない。

 過疎化された街で公的機関への税を使ってまでの更新はなく、最低限のライブラリは風化処理という名の放置だ。

 人も機材も選ぶことは間違っていても、その意思決定権は書類上は人間がAIより上だ。

 私は実在しているので、両親と私の実在しているこの地域の機関の情報を更新している。アナログでしか手に入らない書物は住民数の限定数はあっても、僅かながら公的な控除を受けて入手もしている。 風化処理は私たちがいなくなった後、という処置に変えてある。

 著作権の切れていない書物はフリーなデジタルアーカイブでは存在しないので、私としては放課後のオンライン授業後に図書館を利用するのは小さい頃からの楽しみだ。

 風化処理なのだから廃棄とほぼほぼ同義なのだから私たち以外、誰もいないんだから全部家に持って帰ってもいいんじゃないかな?

 そんなことも考えたりするけどオンラインで借りる図書館のように図書カードを出して図書を借りる。

 見えないモラルに従うのは将来の社会性のためだけど、経験のない社会性に従うことは安心に繋がる。

 清掃ドローンは床の清掃はするけど、棚の上の埃は山頂の観測機のAIと一緒でやりきれていない。

 私がふっと息を吹きかけただけでも埃は舞うし、それでも落ち切らないから手で払うと空気清浄機のセンサーが反応して数台、清掃ドローンが私の足元に寄ってくる。

 著作権が切れた古典も読む。学校の推薦図書でも選ばれていたSF小説と古典だ。どちらも国は違っても蝶の話だ。

 私のオンラインでの勝手につけられたムーンバタフライの名前がこそばゆい。飛べるのはゲームの中だけだ。

「胡蝶の夢」

 古代中国の古典。そんな内容を詳しく解説されても私は夢は夢と認識して今の肉体で生きているので相性の悪い作品だった。

 軽く目を通して借りることもないので本棚に戻すと、向こうの本棚の「私」と目が合う。

「ーーあら、それあなたが好きだと思ったのだけど」

 黒髪黒目の、見慣れないけど見慣れた私が私に明るい調子でどこかで知った声をかけてきた。

「あなた、随分印象が違うのね。個人情報のセーフティが効いているとはいえ、このアバターと違いすぎるとか思わないのかな。まあ、私も人のこと言えないけど」

 するすると本棚を迂回して私と同じ身長と近い顔をした髪と目の色が真っ黒な「いつもの私」が私に近づいてくる。

 微かに、清掃ロボットのモーターの唸りが響く。

「……あなた、誰」

 まあそうだよな、という私が決してしない顔をしながら「私」は答える

「ハルカでいいよ、ムーンバタフライ」

 私のしない明るい笑顔で、私が握手を求めてきた。

「どこからの通信」

 空中で一瞬だけ接触感覚のある握手をして、私の手はハルカの握手をすり抜けた。

「やっぱ察しがいいなあ。この清掃ロボの投影機能であなたのアバターを借りて投影しているんだよ。私のアバターは可愛げがないからなあ。あと、この景色とギャップが色々と酷いし」

 コロコロと表情を変えながら長い髪先を手で遊びながらハルカは続ける。

 私は戸惑い続ける。何故こんなに違和感があるのか。

 ああ、そうだいつもと逆なんだ。

 私が東京に通信でお邪魔しているように、どこから来たかわからないハルカが私だけの空間にいきなり来たんだ。

「っていうか、あんた最近ログインしていないじゃない、私はあの宙空仕様外骨格具足の二番手、かつてのナンバーワンだったハルカよ、ムーンバタフライ」

 聞き慣れた私の名前で呼ばれた。

「あ、その、初めまして。い、いや、いきなり来られて、ありがとうと言えばいいのかよくわからないのですが、私がムーンバタフライと呼ばれるものです、はい……」

 私は目を合わせられずに、言葉が整理できずにどんどん出てくる。

「あなたの個人情報がさあ、全然わかんないから改めて自己紹介してよ。学校の記録の名前とマジのあんたの名前、全然違うんじゃないの?」

「こっ、こ、個人情報をフルオープンにすると恥ずかしいって言うか、私への扱いが、変になるんじゃないかと思って偽名にしています」

「だからといって佐藤花子はないでしょ」

「ああ~ヤッパ駄目ですか」

「ダメってレベルじゃないわよ、あんた昔のCIAの映画のジョン・スミスとかじゃないんだからさ、本名は?」

「あ、アゲハ・荘・バーボチカ……」

「そっちも偽名みたいじゃん」

「だから名乗りたくなかったのにぃ。大体、なんで私のアバター使っているんですか、自分に怒られているみたいでキツいです…」

「このアバターを借りたのは悪かったけど、私のアバター作る時間もないし、こっちに適したデザインとかプログラムのジャンルが違うから、いまはこれを借りた方が省エネだったんだよね、時間は無限じゃないし。あとカロリーの高いデザインだから純粋に違和感とかさ、現実味ないんだよ、私のメインのやつ。だいたい声は私のだからいいでしょ」

 そういう意味では普段使いではあるが「お気に入り」の細部にこだわったアバターを勝手に使われていることはちょっと腹立たしい。

「で、どうしていきなり、リアタイコミュをしようと思ったんですか」

「ああ、そりゃ次のゲームのイベントに参加して欲しいからだよ、もう運営も終わるからね、季節イベント後に最終だってさ。だから最後にスコア争いたくてさ、誘ったわけ。サービス終わったらゲーム回線以外でもう会えないじゃん」

 びしっと指を刺される。私の胸に指先がめり込んでいる。

 自分の小遣いの入手手段が絶たれることを他ゲーマーから聞かされるとは思わなかった。

「運営も最後は大盤振る舞いって言っていたからさ、今度の日曜日のラストイベントに向けて私と模擬戦でもしてよ」

「で、ではよろしくお願いします、ハルカさん」

「よろしく、アゲハ」

 ニッコリと私ができない顔をする私の顔、うん、全然性格が合わないな、と思いながら模擬戦の約束をした。

 途端、アラームが鳴る。

『電力効率低下まであと僅かです。早めの解決お願いします』

「なに、一緒に行く?」

 私のアバターを経由しているのでハルカにも清掃の通知が届いたようだ。

「一緒に行くって言われてもそ、掃除をするだけですよ、カナメさん」

 ちょっとそっぽを向く用に首を掲げながら、

「ほら、その清掃ドローンを抱えていけば段差も超えれるじゃん」

 躊躇なく私を荷物持ちに指名した。

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