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Interstellar Overdrive/02


「よし」

 ハルカは喝采の声を上げる。

【休暇許可申請了承】

 ハルカの覚醒と同時に、目の前に以前からの申請が了承されたアラームが出ている。

 現実定期体感連続1967時間以上の稼働は、肉体的動作は少なくても制御されている老廃物の廃棄は追いつかない。

 代謝する、時間の経過が存在する。

 一秒一秒は細胞の分裂の果てーー死に近づいていくが、現実として生命としての終結を迎える前に事切れる仲間は多い。

 その可能性を少しでもなくすため、それぞれの経験を共有し平均化し次の世代へ譲渡していく。

 ハルカは自分と似た役割をする別個体に状況経過を同期する。

 電離層Fの濃紺な空の終わりと、黒い宇宙の狭間の中空に浮かぶブラックナイト衛星を背に歪な人形が二体、手を合わせ、離れる。

 手を合わせた物理的接触の一瞬で同期し、新鮮な状態の仲間はこれから自分と同じ2000時間前後のミッションに挑むだろう。

 膨大な情報の同期は無線やレーザーを経由しても物理と空間に阻害されるので、アナログな物理的接触を介して同軸回線で共有化したほうが同期ずれの精度は限りなく低くなる。

 前提としての触れ合わない通信世界でも、ギリギリ可能な情報同期も触れ合うことで身体性を獲得してコミュニケーションをわずかでも取ることが自己存在の現実性の肯定として機能する。

 数ヶ月ぶりの同じ顔をした近い遺伝子素材を持つ同僚とのわずかな挨拶と、お互いの生存に安堵のため息を吐いて休憩の衛星に向かおうとスラスターを吹かせようとするとロックがかかる。

【追加任務至急地上侵略構造体調査】

 一週間ほどの休暇を取得したハルカを猛烈に不機嫌にされる残業任務が真っ暗な宇宙を移すモニターに白い文字で表示された。 


 過密積層情報セルの廃棄物階層には、新たな足場が予想外の形で現出した。

 修復装置が回復し、デジタルでの模造炉が動き出すことで、その空間の情報セルを書き直して建造物が出来上がっていく。

 設計情報を違う空間に書き出す旧式の3Dプリンターだ。

 成層圏スレスレのデジタルカーボンで積層された足場に飛行場のようなマーキングを外周メンテナンスドローンが上書きし続けている。

 簡易補給場ができる建築途中の足場に鎧武者か西洋の騎士か、あるいは近代の外骨格をまとった兵士を思わせる人形が降り立つ。

 背中に携行していた折りたたみ式の超長距離狙撃銃を取り出す。

 異常データは即座に観測される。

 以前の空中で撃破した破片が墜落した結果生まれたであろう、地上へのデータ基盤に侵食したウイルスのような存在に狙いを定める。

 それは自分が通っている学校の近くのマンションだった。

 座標はアパートアニマルズ3階12号室。

 覗くスコープの先には人間に擬態した違う階層のシグマ6「スクリーミングアブダブス」。

 見事、一撃で粉砕。付近もスキャン、異常はなし、他侵食部位もなし。

「あれ、先生だっけ」

 授業を受けていた先生そっくりに擬態していた。

 人仕事を終えた瞬間、休暇開始の文字が出る。

 基地のそばまで歩き、機体ごと膝立ちをする。

 ばくん、と胸部がまるまる捲れ上がりチリや内部に詰まった密度の高い汚れた空気が瞬時に空間に拡散され、それに引っ張られるようにヒトガタが飛び出す。

 飛び出したヒトガタは臍の緒を思わせるワイヤーが胸部からつながっており、重力を無視したような破裂した動きはマリオネットのように重力に惹かれ宙ぶらりんになる。

 歪な重装甲騎士ー宙空仕様外骨格具足ーのコックピットからワイヤーで降り立ち、基地まで歩んでいく。

 宙空仕様外骨格具足から82日ぶりに降り立った少女は成層圏の青と黒の境界に宇宙服を着たまま大きく伸びをし柔軟運動をゆっくりとするが、パキパキと骨の音が鳴り響く。

 終わり次第、メガストラクチャの基地に座るなり愚痴る。

 息を止め、バイザーを開ける。

 瞬時に生命保護機構が乱れ、AIがサイレンを鳴らす。生体電気信号で強制シャッターをキャンセルしアナログ機能を優先させる。

 スーツからの隙間から皮膚老廃物が気圧差でヘルメットから吹き飛んでいく。

 胸元のスーツも股間まで一気に避けるように開き、代謝物が宙空に、ふっ飛んでいく。

 呼吸限界を見計らってバイザーを閉じる。ピッタリとスーツの切れ目も消えて綺麗に元からその形状だったように収まる。

 身体のリラクゼーションを察したAIは先ほどまでのエラーはなかったように、「生命維持は大幅に改善されましたが宇宙船と紫外線にさらされたのでDビタミン素子を注射します」と発声と同時に強制的に背中のバックパックの生命維持装置から無痛注射が飛び出し薬液が注入される。

 無痛でも感じる違和感はある。自己責任だか安心できる環境に行けるまではまだ先だ。

『推定短期寿命を延長して何の意味があるのだろうか』

 彼女によぎる現実。

 自分たちが踏みしめることができる新たな島に感動しながら視界フィルターをヘルメット越しに切り替える。

 まるで空に立つ神のような視野に切り替わる。

 普段の強化外骨格のカメラとモニター越しに見る世界と違い、肉眼と一枚のフィルターだけの世界の解像度は桁違いだ。

 はるか下の世界は物心がついた時から何も変わらない。

 遠すぎて小さなものは観測できないからだろう。

 自分の直近の自分自身の肉体の変化や宇宙を飛ぶ時の変化は気づいてもあまりにも遠い世界の変化は大雨で川が溢れたり、濁った水が海に流れて行ったりそういう視点でしか感じられない。

 雲が流れて、雨が降って、晴れた後は世界の色が変わる。

 乾いた世界が色めきだって、濃厚に見える地上は写真や映像で見るものとはどう違うのか、そういう実感はずっと昔のものだ。

 その時、感じていた大半のことは夢のように遠い。

 その遠かった何かのために彼女は再び強化外骨格に乗り次の任務のための調節を開始した。

 フィルターを切り替え、意識の軸も変える。

 デジタライズされた地面は消え、強化外骨格のフィルターも消える。

 静止衛星起動へ戻るためのオートドライブ。 

 そして、そのまま何度目かのデジタルダイブをする。

 いつもの夢の中ではない、休日を満喫するための視察だ。

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