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Interstellar Overdrive/01


 春は、花。

 夏は、空。

 秋は、紅。

 冬は、雪。

 私とは、関係なく、美しい。

 眠気を無くす、強い朝日。

 蒼い新緑を照らす、日差。

 世界を赤く染める、夕日。

 睡眠を強制する、黒い夜。

 私を勝手に、染める世界。

 そんな世界が、嫌だった。


 だから、地球から独立したこの寒い宇宙が好きだった。

 用がなければいつでも寝れる。仕事がくれば起きる。

 仕事の時だけ、目覚めて、生きているふりをしている。

 お母さんが作ってくれたスープが、

 お父さんが持ち上げてくれたあの手が、

 ずっと、ずっと遠く、彼方に感じた。

 あの蒼い星は近いけどずっと遠い。

 私がここにいる意味も、あまりない。

 私の存在を無にする、天才がいる。

 地上より、ずっと強い月光が反射する洗練された人形は美しかった。

 合理性より機能美、無駄がない、生命の柔らかさを表すような曲線主体の肢体。

 誰よりも早く何もない、虚空へ飛んでいく。

 効率と、最適化と、遊びのない私が駆るヒトガタから外れていった機体と同じモノで構成されているようには見えなかった。

 そして、目の前で不可視の巨大な敵が、両断される。

 破壊されることで表層の光学迷彩のテクスチャが機能停止し、可視光線にその姿を晒した後、真っ二つに線が入り分断したとき、次元を歪めて圧縮された内圧が爆ぜ、宝石のような輝きを持った内蔵機械群が宇宙にばら撒かれた。

 同時に「ムーンバタフライ」は、その中を飛び出す。

 瞬時に、青い羽が4枚舞う。デッドウェイトに見える青い羽。遠くから見ればサンジゲンの記録で見たモルフォ蝶に似ていた。

 光学センサーと人間の視認できる光線に晒されることで、その規模も、サメを思わせる巨体も、判断できたのは戦闘後の崩壊直前からだ。

 見えないものを正確に、美しい人形「ムーンバタフライ」は両断した結果が何もできずじまいの役立たずになってしまった、No.2に落ちたままの目の前の景色だった。

「まるで天の支配者だ」

 海の怪物を模したSea13アネット群はムーンバタフライの上に立つことはない。

 宇宙に上下はないが常勝の女王は常に海上に浮いているように足元の海の墓場のような水生動物の死骸の上層に立っていた。


 ラグランジュポイントから見つめる地球は、深い青さを保っている。

 切り替えた視野では、無機質な外郭が文明深度が高い地域であればあるほどデジタルメガストラクチャーが都市群を覆っており、歪な装甲が都市を守る形でデジタルの視界に反映されている。

 宇宙の光を吸収し続け、真っ黒に見える装甲は各都市の人々の文明の光を乱反射させ、レーザーのように長大なビル群を思わせる集合体の隙間から発光している。

 炭火の内面の赤い熱のように、繊維のほつれたような隙間から、人の文明の光をデジタル上でもリアルでも外宇宙まで地球の影から発信し続けている。

 それはさながら、航海の荒海の先の防波堤のように、人の息吹を伝える。  

 世界は、いくつもの階層に別れている。

 その視野、それぞれの階層を認識できる人は、行き来を繰り返している。

 その領域ごとに、異なる役割がある。

 彼女達は自分の存在できるフィルターのみの世界で、地上をいつものように見つめていた。

 周回軌道での哨戒任務というのは聞こえはいいが、ほとんどはオートで動く歪な具足が、異常を検知した時に強制的に起こされアナログ的動作で生体コンピューターの代用のようにYesNoの指示を電気信号で送るだけだ。

 普段は、寝ている。

 寝ている間は東京での生活を、夢見ている。

 学校で友達と会って、生活をしている。あっちで眠くなる瞬間だけ、この宇宙にいる。

 夢を見なければ、神経衰弱で心が摩耗する。

 瞬間の動作の時に強烈な生理的感覚が蘇り、圧縮された空間から肉体動作と脳波の指示で機体を駆る現実がある。

 なぜ、あの夕日の教室が、友達と話す、くだらない話が現実ではないのかといえば情報濃度の違いだ。

 目の前には、巨大な残骸から出てきた残存的マンマシーン。

 私の拒絶の意思とともに、最小限の動作と最大効率で同期し動作する複合型多次元指向性思考兵器で木っ端微塵に散る。

 思考兵器は無駄のない破壊行動で、マンマシーンを進行方向から排除し、道を作る。

「しかも脳波コントロールできる、手足を使わずにコントロールできるこのマシーン……」

 声帯を震わせる予定だった生体電気信号は私の肉体をすり抜け、外部スピーカーに擬似的に再現された私の声ではない私の声をコクピットの中で反響させる。

 現実の肉体は、微動だにしていない。

 強制睡眠に、戦闘行動後の自動索敵が終了次第はいるのだが、しばらく肉体も用いての状況観察をしたいという伝達で睡眠を切り、デブリの海を泳ぐ。

 深く呼吸を吐き出して、生の実感を得る。

 どこまでが擬似で、どこまでが自分の感覚か。

 私のこの世界の夢はここで終わり/学校の居眠りから眼を覚ます。

「おはよう、ハルカ」

 幼馴染のトワの声。

「おはよう」

 いつもの景色だ。

 今日も二人でぶらっとヌードルストリートに行こう。

 最近見つけたあの喫茶店にトワを連れて行こう。

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