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Flamig/02


「ちょっと佐藤さん、コミュ部に来てもらっていい」

 翌日の放課後、佐藤さんにお願いをする。

 部活動ではない日でのお願いなのでリアルタイムで向こうのリアルな彼女の表情を元にレンダリングされたアバターの彼女の顔は驚いた小動物のような顔をしていた。

 空き教室に彼女のアバターと入り、ロックする。

「佐藤さん、そこから、ここになにか、ヒモ見える」

 ヒモは俗語でようは誰かが何かしらを経由して私達を見ていないか、という隠語だ。世界中ハックされて当然の時代だけど専門性を持つ人の格差は大きい。

 詳しい経緯は聞いてはいないが、佐藤さんは記録上とっくに大学レベルは卒業しているが同世代とのコミュニケーション不全でこの学校で社会勉強している。

「ええっと、わ、私達の直通端末以外だと学校の無線通信くらいですかね、それもこちらからオフにしますね」

 なんとなくくすぐったい感覚が走る。気のせいかもしれない。

「実は私にストーカーがいるかも知れないから、ちょっと探ってほしいの」

 経緯を伝えて昨日の写真をデータで渡して印刷されたものも見せる。

「わかりました、ちょっと調べますね」

「今度こっち来たとき、良い喫茶店があるから奢るからお願いね」

「あ、ありがとうございます。あ、でも私達の声はアナログで聞こえます。監視カメラはチェックしていますが廊下には誰もいません」

 スーパーハッカーなのか、うちの学校がザルなのか判断に困る。

「そんなわけでユーザーは特定できました」

「はや」

「ツ、ツールの使いこなしだけなので別に大したことはしていません。これが履歴から元の発信場所ですね」

 それは学校からほど近いマンションだった。

「これ、警察に言えばいいけどそのまま伝えたら佐藤さんが犯罪者になるのかな」

「……多分なりますね、巧く誤魔化すか見なかったことにするかしないと、私ちょっとヤバいです、リアルでは助けられないので私はここまでですね」

「ありがとう、ちょっとさぐってみるね」

「リ、リンク送っておいたんでそのアプリ経由で検索とかしてください。足がつかないので他からは察知されにくいと思います」

 私の端末にリンク付きメールが届く。

「了解。何から何まで助かる」

 まるで目の前にいるようなアバターの彼女は推定なリアルそのままのぎこちない笑顔を見せた。


「お前ブロック解除しろよ」

 私の姿を見て、読んでいた文庫本を閉じるなり、斉木先輩は開口一番に言う。

 昨日とは違うヌードルストリートの店舗での待ち合わせ、奢ってもらう。学生はカネがないのだ。奢られたので素直に解除した。

「俺もあまり金はないよ、で、この住所行くには確かに警察経由だと問題だな、でもまあさっさと行こうぜ」

「その理由は」

「証拠隠滅される前に、見てから通報すればいいだろ」

 なるほど理にかなっているが、こちらの危険性への考慮はゼロのようだ。

「か弱い乙女二人に突撃させる気じゃないんだよね」

「もちろん愛しの姫君を危険に合わせるわけには行けないので、俺という短気フィジカルボディガード以外にも水口くんにも手伝ってもらうことにした」

 先に来ていた水口がひょっこりと後ろの席から顔を出した。

「ラーメンではチャラにはなりませんよ、先輩」

 水口が不満そうな顔でいう。

「自分が短気だっていう自覚があるだけマシだね、ちゃんと奢ってるし」

 トワは口にくわえたストローで遊びながら突っ込む。

「ハヤトチリで粗暴なのは否定はしないし被害を被った水口居くんには誠心誠意これからもよろしくしたいと改めて思っている」

「僕は大した訳には立てませんが通報くらいできます」

 彼の照れた顔を見て複雑な気持ちになった。


 ヌードルストリートからほど近い場所に写真の住所は紐づかれていた。

「アパートアニマルズ、3階の12号室か」

 アパートとはいうが、到着するとそこは小型のマンションで10階は超えている。

「まあ、当たり前のようにオートロックだな、番号か部屋の主から許可をもらわんとな」

 当然の顔をして斉木は言う。

「まずはポストを見てから判断を」

 と、水口が共用部のポストを見るとアナログの数少ないダイレクトメールが312号室だけ溢れていた。

「うわ、ホラー映画かよ」

 トワがフィクションが現実になったという体でいう。

 だけど312号室の名前は祠堂という見知った名前だった。

「あれ、先生と同じ苗字、っていうかこんな珍しい苗字同一人物でしょ」

「先生ってうちの学校の祠堂か。選択科目は俺も受けているぞ」

「うーん、水口くんみたいにまたヒモを擦り付けられたのが先生かもしれない」

「どうなってんだ、うちの学校は」

「先輩が加害者を生み出すためだけのシステムかと思っていた」

「冗談じゃねえ」

 ポストは鍵が空いたままでダイレクトメールをチェックしていく。広告ばかりで個人宛の荷物はない。最初のダイレクトメールは今年の春先だ。

「三ヶ月前まではズボラじゃなかったってことだけど、いくら画面越しに授業しているからってこれだけ放って置くとか真っ当な社会人なじゃないだろ」

「祠堂先生は去年の春までリアル授業だったぞ」

「え、じゃあ今年度誰もリアルで見てないの」

 ダイレクトメールを勝手に共用のゴミ箱に捨てて受け入れ口を覗くと中に番号が貼ってある。

「ダメ元で試すか」

 携帯端末でメモ代わりに撮影して共用入口でトワが312号室の暗証番号を入力する。

「あいちゃった」

「本当に先生がズボラなだけ?」

「怪しまれる前に部屋に向かおうぜ」

 水口を共用部に置いて私達三人でエレベータを経由して部屋の前まで行く。

 塗装の剥げかけた重い鉄の扉のレバーはロック解除の緑の明かりが点いている。

 インターホンを押す、無反応。

「……多分大丈夫だと思うが、俺が開けるからな」

「なんかパイセンこういうこと慣れてんの?」

「親が刑事なんだよ」

「正義感が強すぎるのが問題だったんだね」

「まあな」

 扉が開く。夏の始まる直前の生暖かい空気と、よく冷えた室内の空気が入れ替わっていく風が足首を撫でた。

 部屋の明かりはなく、開けっ放しのカーテンから夕日が差し込む。

 舞ったホコリが反射して煌めいている。

「おじゃましまーす」「失礼します」「誰も居ねえだろ」

 異臭はない。靴を玄関で脱いで三人で入っていく。

 一人暮らしの女性の部屋、テーブルの上には病院の薬の封筒、オンライン授業用のパソコンは起動したまま。

 画面を見るとカメラを経由して私達の顔が液晶に写っている。

「匂いするかもしれねえから、ちょっと鼻塞げ」

 そういって斉木先輩は冷蔵庫を開けてすぐ閉じた。酸っぱさとか埃っぽさを濃密にしたような異臭。

「窓開けろ、別に死体とか入ってねーから。映画じゃあるまいし」

 言われて私とトワは窓を開ける。異臭は冷房の空気とセットに外に流れた。

「中の野菜とか肉がトロトロになっていただけだが、強烈だな」

 匂いが落ち着いて窓を閉める。

「この様子じゃ、ガチで3月の終わりからこの部屋に誰も入ってねーぞ」

「じゃあ、私達の授業を教えていたのは誰」

「ここを経由して誰かが更にどっかから遠隔でしていたとか、ありえるのか」

 私は携帯端末を取り出し専用のソフトを起動し、リモートからの権限を一時的に向こう側に明け渡す。

「佐藤さん、なにかわかる」

 端末のカメラで部屋を見ませるようにして聞く。

『授業はこの部屋経由だったはずですよ。学校の履歴と合致します。それに、今もこの部屋から学校にヒモが繋がっています』

「他のヒモは」

『このマンションの監視カメラの権限とこの周辺の公共のカメラです』

 信じられないことを佐藤さんが報告してくる。

「おい、その携帯の先が誰だか俺は知らないが、そいつの言っていることがマジならこの部屋に俺達がいることは相手は分かっているどころか、この部屋の何処かにいるかもしれないのかよ」

「でも人の気配はないですよ」

 周りを見回してもうっすらしたホコリは私達の足跡しかない。

 私達が入るまで、この部屋に人間がいた形跡がない。

『いらっしゃい、私が居ない間に不法侵入なんて、流石に警察に通報しちゃうぞ』

 いつもの明るい調子の先生の口調で、パソコンの画面に授業と変わらない祠堂先生が映っている。

「あ、先生、どうしてここに居ないんですか」

 トワがいつものとおり会話を試みる。

『ああ、私リアルだといま病院なの。明日もいつも通り授業するから今日は見逃してあげるから帰りなさい』

 違和感、病院からの配信だと言うのに、背景はこの部屋だ。

「……先生はどうして、病院にいるんですか」

『ああ、それは交通事故で脚の骨を折ったから』

 それはーー

「……祠堂先生は、いつ、どんな交通事故にあったんですか。相手と日付と状況を正確にお願いします。わからないなら、知らないと答えてください」

『3月28日、仕事に向かう途中、車に乗っていたら対向車の自動運転機能がランサムウェアによって不都合を発し、衝突、以後集中治療室に運ばれ治療中です。彼女の生存と生活環境維持のために社会性を維持するために私は生成されました』

 感情の乗った先程までと変わらない口調で、人間のような声で生成された言葉を喋りだす。

 引っかかった。

「おい、祠堂はなにいってんだよ……」

「あなたはBotですね」

『そうでもあり、そうでもない。目的遂行のための擬態も兼ねてこの役割を演出している。ちょうどいい外郭があったので利用しました』

「私の情報を収集した理由は何」

『機密事項に抵触します。別回答がない限り通常の外郭の運用形態に移行します。入力制限を行いますので180秒以内応答がなければ生成Botに戻ります』

「佐藤さん、「これ」が何を言っているかわかる?、文字表示だけで見られないように」

ーせっ、先生のフリをしたAIの裏にいるものかもしれませんが、私には全然わかりません。多分別のAIの偽装ですー

「ヒモは?」

ー公的なオンライン以外視覚化できないので非合法ラインは「いま」は分かりませんー

 この祠堂先生の皮を被った何者かは、何かしらのAIであることは確実だ。裏に人間がいるかどうかわからない。いまはハルシネーション(AIの嘘)を回避するためにプロンプトを自分から発言した。ならば、

「あなたは誰に製造されて、何を目的として存在していますか」

『私は敵対モデルの原型とされたサンプルの収集により、そのオリジナルの行動規範及び思考回路が我々が抗体を持つために必要と認知し、情報収集に徹しています。その同位体と思われる生命体の情報取得はSea13アネット群への伝送を主として任務を遂行中です。私達の製造はメガデスを超えたシグマ6の■■(ノイズ)■■によって製造されこちらに派遣されたものです。以降生成Botに戻り通常起動となります』

 AI同士の特有の言語を発生した部分は、なにかわからない。

「あら、あなた達、なぜ私の家にいて、キャ」

 画面上の祠堂先生が普通の人間のような挙動をして悲鳴を上げる。

 画面の上から大量の何かが降り注ぐ。

 まるでこの部屋の上から土石流が落ちたような映像が映る。思わず「ここの景色」と私達も錯覚して身を縮めた。

 大音量がスピーカーを割るようにパソコンから響いたあとバラバラになった祠堂先生の陶器でできたような空っぽの外郭の破片が画面内で飛び散っていた。

 透明なハンマーのようなもので砕かれた祠堂先生のようなものが画面に映っているだけだ。

「……なにこれ」

『……わかりません』

 音声で佐藤さんが応答した。

 以後、私へのストーカー行為は消えた。

 あの先生もどきの正体もわからずじまいのままだった。

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