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Astronomy Domine


 星空が割れて、海が溢れ出す。

 無重力を無視した潮汐流。

 強烈な太陽光でライム色と透明な緑色が弾けて眼下の青い地球の表面を覆っていくように見えた。

 溢れた海から百万の死が、大量の巨大な海獣の金属で出来た骨が透明な神秘の輝きを持った海に溢れ出す。

 磨かれた金属を思わせる骨の土砂は極彩色の煌めきを持った海に流されて、照らされていた。

 音がない宇宙に運命の鐘を思わせる金属音が、井戸の底の水で反響するような音が響く。

 ゼリーのような硬質に見える海に無数の金属でできた獣たちが溢れる。

 溢れた生命の息吹はすぐにその意味性を失い混沌とした肉塊となり金属の骨を残して海は混沌の黒に染まっていく。

 足元に広がる景色をアゲハとハルカは見つめる。

 遠距離の衛生からの転送された画像で見ても実際は地球を覆うほどの大きさはないが、自分達の存在がそれほど小さく、相手の侵食範囲がそれだけ広いということだ。

 泥の中から、ゆっくりともう一体のムーンバタフライが現れる。

 残ったすべてのリソースを敵対生命に模した反転した色のムーンバタフライ、クラスターワン。

 Sea13は感情で動かなかったが生存本能を基底とした生存戦略の全てに失敗した。

 多様性は消え、混沌から生まれた自分がSea13の残響で構成されたクラスターワンはただの一体しかない生存さえ出来ればいいという思考で構成された最後の消える世界ごと構成されたただ一匹の機械の獣。

 最終的な生命の進化系のニューマシンであると同時に天敵の摸倣が最後の形でしかなかったという自己の生命進化の行き詰まりを諦観した。

 自己という存在が、無価値と自覚する、

 目の前の自分の世界すべてを殺し尽くした連中の上位種と同程度のスペックしか得られないのだから存在価値自体、クラスターワンは見失った。

 それでも生きることに特化しているならば、立ち向かうしかない。

 やがて混沌の海は、混沌ゆえ意味消失しゼロになり視界から消える。

 青とライム色と透明な緑色の光学現象だけが残る中、ムーンバタフライは、アゲハはクラスターワンの世界の価値は知らないが感性でなんとはなくと感じ取る。

 対峙して、2つのムーンバタフライの光学センサーが交差した瞬間に、STAGECLEARのファンファーレが鳴り響く。

 死を最初から許容したクラスターワンは全力を出した。

 いつもどおりの倍速設定で等速の戦いをしたアゲハにとっては全てがフルマニュアルの等速の通常戦闘より「やや早い」程度でしかなかった。

 自分より動作の速い敵でも動き自体は見えているのだから全てを最小限の自分が遅い自覚を持って捌き切り、相手のコクピットカバーを跳ね飛ばして自分と「同じ顔」をしたアバターごと切り落とした。

 世界のバグの修正とデフラグの完了、Sea13の世界は消えた分世界のデータ容量は拡張され余裕が生まれた分、報酬がいつもより3桁多くアゲハのポイントが加算されていく。

 デジタル多重世界が安定していく。

 そこに喜びはなく、ゆっくりと世界は凍結し、強制的にログアウトされた。


「バイバイ、またね、おやすみなさい。

 また逢う日まで。

 追伸、もうひとりの私によろしく」


 最後のDMが来たあと、あのゲームの世界へはログインできなくなった。



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