THE GNOME/04
『そういうシステムなんだな、設定は?』
私の空間コンピーティングを興味津々にハルカは見てきた。
思えば友達を家にいれるのも初めてだ。
ハルカのアバターの視界に被せるようにヘッドギアを持つ。
『あのさあ、私あっちでもVRのギア被っていてこれだと二重で被っている感覚なんだけど、ってちょ、早いよこのリプレイ』
「え、私の世界の等速ですけど」
『どういう設定』
「物理演算予測を2倍から4倍で予測させてゲーム内時間の倍以上の速度でシミュレーションした結果でプレイしてそれを等倍でエミュレートしている」
ハルカはため息を付いた。私は手でかぶせただけのVRゴーグルを外す。
『私はその等倍の世界で生きて任務をこなしているんだけど、まさか倍速以上でゲーム扱いでプレイしているとなるとそりゃ動きも何もかもぜんぜん違うわけだ』
「別に私はアレでも遅いくらいだし」
『私みたいな凡才にできないことが普通に行えるのが天才だっての。こりゃ勝てないわ。まあ中の人がいない前提の動きが出来るのがゲームでプレイできる人の特徴ってわけか。っていうかフルマニュアルだから私達と同じ操作のはずだからこれが適正か』
天才、と言われても私にとってはゲームだし、そのゲーム内のアイテムを売却してリアルな報酬に変換しているお小遣い稼ぎのツールの一つでしかないのでなんと返答すればいいのかわからない。
『来週の日曜日、サ終っていうけどさ、大規模な部隊が向こうは一つしか確認されていないから、とりあえずこの世界との同期は一時的に切るんだってさ。だからとりあえずそれが終わったらムーンバタフライは休んでもらっても大丈夫ってわけ』
ゲーマーとしてクビの宣告なのか、サ終で追い出されるのかイマイチ判断に困る。
「ゲームのサ終ってことはもうハルカとは会えなくなるんだ」
『そうだよ、だから生で一度見てみたかったんだよね、私の常勝記録を止めた人の姿ってやつ』
「サ終したら、ハルカさんはどうなるんですか」
『さあ? まだ誰も経験したことないからね。夢の世界に復帰するか、夢の世界で作り直すか、出番があるまで私達の世界の機構自体が止まるんじゃないかな』
「それってーー」
世界が静止するなら、それは死そのものではないか。
『んー、察するけど、まあいいじゃん。どうなるかわからないし、まあ今は生きているし、そういうことで暗くならない人間として「ここ」のハルカが私達の基盤として選ばれたわけだし。なるようになれだよ』
なんて声をかければいいんだろうか。
『あーもう、さっさと模擬戦だよ。手ぇ抜いちゃだめだぞ。全力だ』
そういってハルカの姿が消える。ゴーグルの通知欄が点滅する。
ゴーグルを被ると私のアバターがいた。
「おっす、じゃあやりますか」
足元の地球は遠く、空の果てと宇宙の境界線。
ムーンバタフライに乗った私は本当の全力で答える。
「チートかよ」
三ラウンドは瞬間で消費した。これが全力だ。
「だって、全力でしろっていったじゃないですか」
イメージは居合、始まった瞬間に相手の攻撃手段を予測してそれらの発動前に打つ。
「今回こっちはマニュアル動作じゃなくて脳直結動作なのに、それより早いとかなんなの、さっきの倍速の動作」
「いえ、マニュアル等速です」
「手を抜かれて、これかあ」
ゴーグルを外す。
私のベッドの上に呆れた顔で座り込んだハルカさんがいた。
「今からドローンの点検とかヒモの確認とか遠隔でしてから、私は寝ますけどハルカさんはどうしますか」
『せっかくの休暇だから、このあたりをちょっと歩いて回るよ。ドローン投影だけど』
疲れた声だった。
「なにもないですよ」
『それがいいんだよ、都会の人間にはさ。おやすみなさい』
アバター姿のままハルカさんは家を出ていった。




