表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

59/59

特別回 まひるとお父さん。


 わたしには父がいない。

 なぎくんのお父さんのように、亡くなってしまったわけではない。


 わたしが幼い頃に両親は離婚した。

 そして、それから一度も会わせてもらえなかった。


 だから、わたしには父の記憶がない。


 大きな身体で優しい、なぎくんのお父さん。

 太い指で手が温かい、なぎくんのお父さん。


 これは、そんななぎくんのお父さんと、わたしのお話だ。




 中2の頃、わたしはなぎくんに酷いことをした。

 本当は大好きなのに、あの子にイジメられるのが怖くて、酷いことを言ってしまった。


 それから、なぎくんに避けられるようになった。


 謝ろうとしても、話を聞いてくれない。

 学校では目も合わせてくれない。


 だから、また前みたいに一緒に登校できるかなって思って。朝、なぎくんの家にいきピンポンを押す。


 「なぎくーん」


 出てきてくれないと分かってるけれど。

 もしかしたら、と期待してしまう。


 でも、わたしが悪いんだ。

 悲しい気持ちになって、1人で学校に行く。


 だけれど、時々、お父さんが出てきてくれる。

 ……今日はお仕事お休みなのかな?


 お父さんはお話が苦手みたいで、あまり話してくれない。でも、すこしバツが悪そうに頭を掻いて、決まってこういうのだ。


 「ごめんな。なぎはまだ準備ができてないんだ。先に行っててな」


 そして、わたしに、みかんを一つくれる。


 指が太くて大きくて温かい手。

 その手を添えて、わたしにみかんをくれる。


 その度に、父を知らないわたしは。

 みんなのお父さんって、こんななのかな?

 わたしのお父さんも、こんななのかな?


 そう想像してしまう。




 

 その日は朝から暑くて。

 蝉がみんみん鳴いていた。


 でも、わたしは。

 今日もまたナギくんの家に行く。


 「なぎくーん」


 いつものように玄関前で待つ。

 もう、ずっとずっとナギくんとお話できてない。


 待ってる間に、わたしは泣いてしまった。

 すると、扉が開く。お父さんが出てきてくれた。


 お父さんは、申し訳なさそうな顔をして。


 「ごめんな。あいつなら、いつか分かってくれると思うから。嫌わないでやってくれな」


 その日のお父さんは、いつもより、もっと優しかった。


 わたしの涙が止まらないから、タオルを渡してくれた。飾り気のない手拭いみたいなタオル。お日様の匂いがした。


 そして、お父さんは。

 いつものように、みかんをくれる。

 


 あれ?

 夏なのにみかんってあるのかな。


 すると、お父さんが教えてくれた。


 「これは夏のみかんなんだ。普通のみかんは冬だろう? あれは夏に太陽をいっぱい浴びて冬に出荷される。これは、冬の厳しい季節を乗り越えて、夏に収穫されるんだ。でも、元気いっぱいなオレンジ色だろ? 冬みかんにも負けないくらい甘い。いまは辛いかもしれないけれど、真夜ちゃんも元気なオレンジ色でいてくれな。ナギならいつか、必ず分かってくれるから」


 お父さんがこんなにお話してくれたのは、初めてだった。


 学校からの帰り道。

 わたしは夏みかんを食べる。


 すっごく甘かった。

 わたしは、また泣いてしまった。


 

 

 ナギくんと再会できたとき。

 またお父さんにも会えるのかな、って思ってた。


 お父さんが亡くなったって聞いて、ショックだった。

 わたしが憧れた父親だったから。


 だから、お墓参りに行くって聞いて。

 わたしは、お父さんへのお土産は、絶対にみかんにしようと決めていた。



 なぎくんが、すこし寂しそうな顔をしている。さっき、お母さんと話して、色々と思い出しちゃったのかな?


 なぎくんは、自分のことを親不孝だって言ってたけれど、そんなことはないよ。


 お父さんは、ナギくんのこと信じていたし。

 お父さんが、わたしに謝ってくれるときの顔。

 ナギくんのことを大切に思ってるのが、たくさん伝わってきたもん。


 それに、そうやって頭を掻く仕草。

 君は、お父さんにそっくりだよ?


 でも、まだそのお話はできない。

 もしかしたら、いまのナギくんなら、わたしを許してくれるのかもしれない。


 でも、でも。

 もし、会えなくなっちゃったらと思うと。

 怖くて。


 ……ごめんね。もう少しだけこのままで。



 だから、せめて。


 わたしは、カバンをごそごそする。

 そして、なぎくんに、みかんを渡すのだ。


 わたしを元気にしてくれた、お父さんのみかん。

 なぎくんにも伝わるといいのだけれど。



 それと、もう一つ。

 君に謝らないといけないことがあるんだ。


 いつも、玄関で「なぎくーん」って呼んでごめんね。

 ちょっと迷惑そうな顔をされてるけど。


 わたしはやめないよ。


 だって。いまは。

 中学の頃と違って。


 「なぎくーん」って呼ぶと、出てきてくれるんだもん。


 嬉しくって、やめられないよ。



  





 俺セフを応援してくださってありごとうございます。完結して随分経つのに、気づけばたくさん★★★評価やブクマが増えていて。


 感謝の気持ちをこめて、特別回を追加しました。


 これは完結後に修正していて、本編で書けば良かったなぁ、と思ったエピソードです。


 時期としては「第30話 お墓参り」前後のエピソードですので、そのへんとあわせて読んでいただけるといいかも知れません。

 

 俺セフは初稿からかなり修正しています。きっと最初より面白くなっていると思いますので、忘れてしまった頃にでも、またお読みいただけると、とても嬉しいです。


【ラブコメ最新作】クラスで1番のビッチに告白された。

https://ncode.syosetu.com/n9982kh/


頑張って更新してます。そちらもよろしくお願いします⭐︎

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ランキングサイトに登録しました。 面白いと思っていただけたら、クリックいただけますと幸いです。
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ