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第14話 ご自宅で。


 2人で家に帰る。

 おれの家は、郊外の安アパートだ。


 カツンカツンという金属的な足音を響かせて、外階段を、まひると一緒に上る。すると、いつも無機的に感じていた数秒が、愛おしいひと時に思えた。


 考えてみれば不思議だ。


 アプリでセフレを探している時に、その相手とこの階段を上ることになるとは、夢にも思わなかった。


 俺の後ろをついてくる、可愛くて賢い大学生のセフレ。


 きっと彼女の未来は、ずっと明るくて開けた将来に続いていて。俺とは、今の一瞬しか交差しないのだろう。


 自分が大学を諦めた責任を。

 彼女の小さな身体に押し付けるような俺なんかが、彼女とずっと一緒にいて良いハズがない。



 (鍵を開ける音)


 薄いベニアのドアを開ける。

 部屋の中には、簡素なベッドと本棚。あとテレビくらいしかない。


 そういえば、この部屋に女の子を入れるのは初めてだな。


 俺がそんなことを考えていると、まひるは物珍しそうに部屋の中を見て回る。


 「おい、そんな探し回るほどの広さないでしょ」


 おれが声をかけると、まひるは嬉しそうに返事をする。


 「一人暮らしの男の子の部屋って、なんか新鮮で。意外に片付いてるっていうか」


 まひるは、すんすんと鼻を鳴らす。

 なんだこいつは。警察犬みたいだな。


 まひるは、ゴミ箱に直行する。

 そして、ニコニコした。


 「おにいちゃん、1人でしたのここに捨てたでしょ。わかるよぉ。このにおい。落ち着くから。一つもらっていい?」


 「ちょっと。やめろよ!! いい訳ないだろ!!」


 ちょっと、誰だよ。

 この淫獣を野に放ったのは。


 俺いま、すげーハラスメント受けてるんですけれど。

 

 追いかけると、丸まったティッシュを持ったまひるは、子供みたいにキャッキャと笑って逃げ回る。


 とりあえず、当初の予定通り料理を作ってもらいたいんですけれど……。


 すると、まひるが手を挙げる。


 「ご主人様。シャワー浴びたいです」

 

 「料理するのに何で風呂入る必要あんの? 何期待してるんだよ。この変態」


 「でも……」


 「はい。却下」


 よし。そのまんまのレア(生)まひるをゲットだ。


 まひるがそのまま料理をはじめようとしたので、エプロンを渡す。


 トントントンと響く、心地よい包丁の音。

 コトコトいう鍋の煮立つ音と、ふわっと香る出汁の匂い。


 俺は寝転がって、その様子を眺めている。

 可愛い娘が、自分のために料理を作ってくれている後ろ姿。

 

 これって、ある意味、男の原風景だよなって思う。

 本当は裸にエプロンを強要するつもりだったけれど、その尊い姿をもっと見ていたくて。気づいたら寝てしまっていた。



 「ねぇ、あなた」


 ん。


 寝ぼけ眼を擦ると、すっかり大人になった初春 真夜がこちらを見つめている。


 「えっ?」


 もう一度、瞼を擦ると、まひるが居た。


 あぁ、夢か。


 「寝ちゃってたよ? 疲れてるのかな。無理しないでね」

 

 真夜の夢だ。

 なんて夢を見てるんだ。俺は。


 いい匂いがする。

 料理が出来たらしい。


 普段は、カップラーメンと飲み物くらいしか載せたことがない、うちの小さなお盆。

 そのお盆を器用に使って、まひるが料理を並べてくれる。

 

 玉子焼きと肉じゃがと、サラダとお味噌汁。

 「いただきます」をして、まひると一緒に食べた。


 普通に美味しい。 

 まひるにお礼を言うと「愛情込めてるから」と言われた。


 こいつ、結構、小悪魔タイプなのかな。

 そんなこと言われたら、おじさん勘違いしちゃうよ。


 ご飯が終わってシャワーを浴びる。


 やっぱ、セフレだからね。

 することはしないと。


 シャワーを浴びながら気づいた。


 『やばい。中学の卒業記念の盾が机の引き出しに入れっぱなしだ。しかも、よりによって、マヤとの写真が入ってる……見られたらまずい』


 おれは、全裸で風呂場から出る。

 バタンと脱衣所の扉を勢いよく開けると、机の前にまひるが座っていた。


 こちらをみてキョトンとしている。


 写真を見られたか?

 判断ができない。

 

 「どしたの? 我慢できなくなっちゃった?」


 まひるは俺の前に跪いて、上目遣いでいう。

 そして、俺の下半身を愛おしそうにナデナデしてくれる。


 「悪い子ですね。こっちの子は、わたしがお口で綺麗にしてあげる」


 その日はそのまま盛り上がってしまって、気づくと次の日の朝だった。まひるもそのまま寝てしまったらしい。


 まひるを起こす。


 「ごめん、夜に送っていくつもりだったのに寝ちゃった。まひる、外泊しちゃって大丈夫だった?」


 するとまひるは、俺の左腕に頭をのせて、左手で頬を押さえると幸せそうに笑う。


 「大丈夫。おにいちゃんが寝ちゃった後、大学の親友にアリバイお願いしたから。それよりも、寝顔が見れて嬉しかったよ」


 素で恥ずかしいんだけど……。

 なにかの羞恥プレイか?


 まひるはそのまま、俺の二の腕に顔をすりすりする。そして、脇の辺りをすんすんすると、今度は左手を上から重ねるように俺の手を握って続けた。


 「お願いがあるよ。来週の土曜に◯◯ランドに一緒に行って欲しいです」


 ◯◯ランドは、鉄板のデートスポットだ。

 そして、中学の時、マヤと卒業したら行こうと約束していたいわくつきの場所。


 偶然なのかな。


 

 「……いいよ」

 俺はまひるに頷いた。


 まひるが、なりふり構わずに抱きついてくる。

 本当に嬉しそうだ。


 はしゃぐまひるの髪からいい匂いがしてきて、まひるの耳元に鼻を近づけると、あまったるい汗の匂いがした。


 まひるが、その甘い匂いに負けないくらい甘い声で俺に話しかけてくる。


 「ね。おかわりちょうだい。いっぱい愛して……」


 ついムラムラしてしまって、仕事前なのにまひるを押し倒してしまった。


 まひるが写真を見たかは分からない。


 

 だけれど、変わったことがある。


 この日を境に、まひるはエッチしたいときに「愛して」と言うようになった。

まひるが家に遊びにきた日。

幸せな光景のイメージがあったので、ここまで書けて良かったです。


お読み下さってありがとうございます。

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