八話 出現する竜の影
「バブルトラはあの火山の火口付近を寝床にしている。山の周りが凸凹なのは奴が暴れた後だ」
遥か上空を飛竜に乗って移動中。
オッカスが指差す方を見ると、真っ赤な色の山が存在感を醸し出して大地から生えている。
そしてその周りは流星群でも降ってきたのかと言った具合にクレーターが沢山できて散々たる状態だ。
「……そのドラゴン、意思疎通出来るんだよな? 行ったらいきなり噛み付かれたりしないよな?」
「少し拙いが言葉は喋れる。その点は問題ない」
その点は、に不安を感じるが、まあ何かあったらオッカスとマギナが何とかしてくれると信じよう。
「……あれ? 飛竜さんが停まってしまいました。休憩ですか?」
順調に飛行していた飛竜が火山に近づくにつれ、段々とゆっくりになり、終いにはストップしてしまった。
「バブルトラのテリトリーには奴自身の魔力が強く漂っている。他の生物はそれを怖がって近づかないんだ。この子も同じ、ここで降りるぞ」
オッカスが飛竜をポンポンと叩くと、徐々に下降を始めた。
流石に飼い慣らしているだけあって、怖がる飛竜もオッカスの言うことは聴くようになっている。
ちなみに魔女王の森に行く時も飛竜に乗った。
「こんなにデカい飛竜でも恐るバブルトラってどんなドラゴンなんだ?」
「本体はこの飛竜の何倍ものサイズがあるわよ。まあ、怖いのは正確にはサイズではなく殺気の強い魔力の方だと思うけど」
「へぇ、俺は魔力は分からないけど、そんな感じなのか」
にしても本体……?
分身がいる系って事……?
「幸人さん。以前にも言いましたが、今の幸人さんは魔王です。魔王が死ねば全て終わりです。自分の命を最優先に行動するよう心がけて下さい」
「う、うん。分かってるよ」
魔女王の森に行く前にも俺が死ぬと問答無用でバットエンドだから気を付けろと、アメッコにきつく言われたことがあった。
俺としてもまた死ぬのは嫌だが、全体的に考えれば俺以外に違う魔王を作ればいいのにと思ったりするのだがーー。
⭐︎
「前にチラッとマギナが言ってたドラゴン退治ってバブルトラのことなんだろ。その時はどんな感じだったんだ?」
「ん〜、激しい死闘だったわね。オッカスちゃんと二人ががりで何とか引き分けに持っていった感じ。まあ、あの時オッカスちゃんは生理ーー」
「マギナーー!」
横で聞いてたオッカスが声を大にしてマギナを叱りつけた。
一般高校男子としても、そういう生々しいネタは反応に困るとこではある。
「お、おほん。まあ、前の時はオッカスちゃんが不調という中での戦いだったから、今の万全の状態なら戦闘になっても勝てると思うわ」
「そ、そうなんだ。それなら安心だな」
バツが悪い中で会話する俺とマギナ。
空気を入れ替えようと話題を変える。
「マギナは魔女王って呼ばれるくらいだから色んな魔法が使えるんだろ。どんな魔法が使えるんだ?」
「それはもう色々よ。例えば今だって魔獣避けの魔法を使っているわ。それに『節制』って言う魔法で皆んなの体調に変化が起きないようにしているし」
「え、そうなの? マジか……ごめん、知らなかった。ありがとう」
さっきからずっと歩いてるのに全然疲れないし足も痛くならないなと思ってたけど、マギナの魔法のおかげだったようだ。
「気にしないで頂戴。これくらい朝飯前よ」
「いやー、頼りになるわー。しかし『節制』があるってことは他にも『魔術師』とか『戦車』とかあるって事? 『世界』は時を止める魔法なんだろうな」
「え?」
俺が何気なく言った言葉に、マギナの顔が青くなった。
「ど、ど、どうして知ってるの? しかもそんなドンピシャで? え、待って、どこから情報が漏れたの? 特に『世界』はオッカスちゃんにも言ったことのない私の切り札なのに……?」
慌てふためくマギナ。
俺はアルカナ・マギナという名前と『節制』という魔法からタロットカードがモチーフの魔法なんだろうと思ったのだが。
『世界』だって逆に時を止める以外にどんな能力があるんだと言いたいところ。
「幸人さん、この世界にはタロットカードが無いんですよ。それに魔女にとって自分の魔法の手の内が知られているのは、口座番号やパスワードが知られているくらいに不安なことなのです」
「なるほど」
コソコソとアメッコに教えて貰う俺。
「マギナ、実は俺の居た世界ではアルカナってワードや『節制』とか『世界』と言えば結構お馴染みのものなんだよ。だから情報が漏れた訳じゃないんだ」
「そ、そうなの? 『世界』が時を止めるのもお馴染みなの? 幸人ちゃんの居た所では?」
「まあ、人によるかもだけど……『世界』と言えば時を止める能力だってのは九分九厘予想出来るぐらいにイメージが浸透してるな」
「嘘……」
マギナはかなりショックを受けたようだ。
自分の切り札が筒抜けだったのだから無理もないが。
「もしかして私の技も幸人の居た世界ではポピュラーだったりするのか? 何種類かバリエーションがあるのだがーー」
「オッカスの技って……森で使ってた、何とか紅蓮ってやつか? 探せばあるかもだけど、あんまり聞かないな」
「『英紅蓮』だ。そうか、あまり聞かないか」
「でも炎の剣自体は幾らでもあったよ」
名前が違うだけで同じ様なものはごまんとある筈。
それだけ似たようなことを皆んな考えて創作物として世に出す訳だ。
考えてみれば『人類の象徴』たちも転生してきた人たちなら俺と同じ以上の知識はあると考えるべきか。
名前からの能力バレは気をつけなければ。
「アメッコ、『ラフ・メーカー』は何でラフメーカーって名前なんだ?」
「笑いを作りだす能力だからです」
やっぱりそのまんまだった。
数十分後。
お喋りしながら歩いていると、火山の麓まで辿り着いた。
今度はここを登山しなければならない。
「山……う、うわぁぁぁぁぁぁ!?」
「どうした幸人!?」
「幸人ちゃん気を確かに!」
急に発狂する俺を心配してくれるオッカスとマギナ。
そんな中、アメッコは。
「大丈夫です。幸人さんは山の中で死んだ事があるので、山に来てトラウマが呼び起こされたのです。すぐに治りますよ」
「そ、それは大丈夫なのか?」
流石、氷の思考力を持つアメッコ。
俺の悲鳴が半分パフォーマンスだと言うことを読んでいる。
オッカスとマギナにガチ目の心配をされたので、やばいと思っていたところだ。
と、その時。
遠くで轟音が鳴り響いた。
その轟音は黒くて巨大な影とともに、火山のてっぺんから一直線に俺たちに向けて飛んでくる。
大きさによらず、ふわっと着地した影が喋った。
俺はそこでようやくその影がドラゴンだという事に気がついたのだ。
「おう、おめーら。今度は一体何の用だバブ?」




