二話 いずれ笑い話の英勇譚
突然、多分空から降ってきたのは一言で言えば女騎士。
朱色の派手な髪色を靡かせ、俺を敵意むき出しで睨みつけている。
蛇に睨まれた蛙は動けなくなるというが……今の俺が正にその状態だ。
「我が名は魔王軍四天王が一角、オッカス・パラライガ・イグソード。貴様ら、ここがどこだか分かった上で侵入してきているのだろうな」
見た目に違わぬ凛とした美声。
突き出された抜き身の西洋剣を向けられ、命を危機を感じずにはいられない。
「あ、いや、そのー、俺たちは別に怪しい者では……」
嫌な汗が流しまくりながら、チラリと横目でアメッコを見ると、俺とは違い冷静な様子であの事務的な表情だ。
今はそれが頼もしい。
オタオタしていないアメッコが救いだ。
「幸人さん、彼女は魔王軍四天王の一人です。城には彼女に会いにいく予定だったので手間が省けました」
「そうなのか……あれ、でも魔王軍は勇者に壊滅させられたんじゃなかったのか?」
「彼女は唯一の生き残りです」
という事は魔王になる俺の味方って事でいいのか。
なら少し安心した。
「なるほど……しかし、名前がオッカス・パラライガ・イグソードだと……?」
「何だ? 我が名を知っているのか? まあ当然だろう。魔王軍四天王が一角の名なのだからーー」
「いや、略したら、“おっぱい”になるなと思って」
俺がとんだ失言だったことに気がつくのに要した時間は約二秒後。
しかしその間に一体何度なます切りされていたのであろうか。
そう思わざる得ない程の殺意を受けた。
「貴様が私を馬鹿にしていることはよく分かった。最期に何か言い残すことはあるか?」
「す、少しだけ待って下さい……」
完全にやらかしてしまった様だ。
初対面の印象が大事だと思い、何か面白いことでも言わなきゃと咄嗟に出たのだが、まさかの裏目。
場を茶化す俺の悪い癖が祟り、大変な展開へと進展してしまった。
「どうしよう、アメッコ。何とかして下さい」
「馬鹿ですね。本当に馬鹿です。思いついても普通言わないものです、そういうのは」
こそこそとアメッコに相談を持ちかけると、ど正論をかまされ、ぐうの音も出ない俺。
「彼女は変に律儀なとこがあるので待ってと聞いて待ってくれていますが、そう長くは持たないでしょう。そうなれば幸人さんは間違いなく剣のサビです」
「い、嫌だぁ……謝れば許してくれるかな?」
「それもそうですが、幸人さんは魔王となる身。ここは一つ戦ってみてはいかがですか? 私もサポートします」
「た、戦うだと……!?」
どう考えても無茶苦茶な提案。
勝てる未来が一ミリも想像出来ない。
「もちろん、正攻法で戦っても瞬殺されるだけです。少々小狡い手段を使います……人質作戦です」
「人乳作戦?」
※ちなみにこの時の俺、第二の人生終了に早くも王手がかかっている焦燥感と恐怖心からまともな思考が出来ていない状態となっています。
「彼女は見た目通り騎士道精神を重んじるので、そこにつけ込みます。人質がいれば手を出せない筈なので、まずはそこまでやってみましょう」
「騎士道精神につけ込む……? まあとりあえず、人乳を出せば手を出せないんだな? よし分かった、どっちがやる?」
「どっちも何も、幸人さんがやるに決まってるじゃないですか」
「マジか、でも男の乳ってのはどうなんだ?」
「……? 急に何言っているのですか? 父は普通、男です」
「マジか……」
でも言われてみれば確かにそうかも。
同性の乳を見せられても、どうしろと言うのだ感は否めない。
見せるならやはり異性の乳だ。
流石は女神様だ。
「よし、覚悟は決まった。一肌脱ごうじゃないか」
「優しくお願いします。首の辺りをガシッとです」
……首はつまり乳首だろうが、優しく乳を見せるってどんなんだ?
まあいい、もうやるしかない。
「さてと、待たせたなオッカスさん」
「ん、決心ついたと言った具合だな。何をする気だ? よもや私と一戦交えるつもりか?」
「まあ、見てな。きっとびっくりするぜ」
俺はそう言い、野球の守備をする時の様に腰を低く構える。
横でアメッコが、「あれっ?」って感じの目で俺を見ているが、まあ確かにここからどう脱ぐのか疑問に思うところだろう。
その疑問は正しい。
実のところ構えに意味はなく、ただやる気を体現しただけなのだから。
「……は?」
「……え?」
俺はジャンバーのジッパーを降ろし脱ぎ捨て、更にその下のジャージのジッパーも降ろして脱ぎ、最後にシャツをスポーンと……!
「はっっ!」
上半身、裸になった俺は、なるべく自分の乳を強調するように胸を張る。
こんな日がこようかと、適度に筋トレして体を鍛えておいて正解だった。
我ながら悪くない体の筈……!
「アメッコ、それで、次はどうする……!?」
「え? あの……どうするも何も、幸人さんは何をやっているのですか?」
「え?」
何故だか俺の渾身の裸体の意味がアメッコに通じていない様子。
指示通りやったつもりなのに何か間違っていたのか?
優しくなかったか?
アメッコの物凄く変なものを見る冷たい眼差しが痛いほど突き刺さってくるのだが。
そして肝心のオッカスはというと。
「ま、まさか、私をおっぱいと呼んだことを自らのおっぱいを見せる恥をかくことで相殺してくるとは……参った、恐れいった。私は降参する。だから……早く服を着ろ」
真っ赤に赤らめた顔を手で覆っていた。
そうか、オッカスに言われて分かったがそういう目論見だったのか、人乳作戦って。
流石は女神様だ。
「どうやら上手くいったようだなアメッコ」
しかしアメッコの眼差しは相変わらず冷たい。
「幸人さん、やはり今からでも輪廻地獄に落ちて貰えませんか?」
「転生取り消しってこと!?」
その後、俺はオッカスと何故か怒ってるアメッコに土下座して謝罪をし、何とか丸く収まった。




