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十二話 次なる望みへ

「アイレンさん、俺はーー」


 俺の返事を待つアイレン。

 しかし次の瞬間、物凄い風圧且つ快速列車並みのスピードで超巨大な黒い何かが俺の目の前を横切って行った。


「え」


 そして過ぎ去った後に、アイレンの姿はなかった。

 今のに連れ去られたらしい。


「幸人ぉ! 無事か!」


「幸人ちゃーん!」


 駆けつけて来たのはオッカスとマギナだ。


「う、うん、何ともない、ありがとう。ていうか今のは……?」


「ルトラだ。変身して本気で暴れるから急いでこの場を離れるぞ」


 変身?


「『轢殺『メテオリック・チャリオット』』……さあ乗って頂戴!」


 マギナが魔法を唱えると、白く発光する馬車と騎馬が現れた。


「乗り物も出せるんだ、マギナさん」


「本来は突っ込ませて相手を撥ね飛ばす代物だけど、障害物のない道を真っ直ぐ進むぐらいなら足になるのよ……何かに掴まって!」


「え、掴まるとこなんてないーーうわ!?」


 みんなが乗り込むと、加速なくアクセル全開で走り出した。

 真っ直ぐ魔王城へ向かっている。


「さっきの黒いの、ルトラにしてはかなりデカかったけど」


「ルトラは様々な竜に変身出来る、幸人が最初にルトラと会った時に見たのもその内の一つだが……」


「あれは地獄喰い、吸血竜バブルトラ本来の姿。あの状態になったルトラちゃんを見るのはいつぶりかしら」


 砂塵を抜け、いつの間にか暗雲立ち込め雷が鳴る空を見るとルトラは居た。

 漆黒の鱗と甲殻で覆われた身体に、血管の様に浮かぶ紋様は暗い空に目立つほど赤く光っている。

 そのサイズと言ったら魔王城よりデカい。

 デカ過ぎて全体像が分かりずらいが、確かにドラゴンだ。


「……! ア、アイレンさん、百パー死ぬだろ」


「殺らなきゃ殺られるだけだ……アメッコはどうした?」


「まだ城の中だと思う。あ、でももしかしたら俺を追いかけ外に出てるかも。マギナさん」


「分かってるわよ、轢かないよう気をつけてるわ」


 馬車から辺りを見渡して見るがアメッコの姿はない。

 まだ城の中だろうか。


「っ! まずい! 伏せろ!」


 オッカスが叫ぶと同時に、強い衝撃波と共に、重量のある音が轟いた。

 馬車は吹き飛ばされ、馬車の中でシェイクされる状態となる俺たち。

 地面に投げ出され痛かったが、痛いだけで済んでいる。

 恐らくマギナの魔法のおかげだろう。

 ぐしゃぐしゃになった馬車はそのまま消滅してしまった。


「うぐ……痛ってえ。何だ今のは」


「ん……ルトラちゃんの声。でも今のは……まさか、オッカスちゃん」


「……どうやら想像以上に化け物だった、『英雄の人類の象徴(アーク・シンボル)』。ルトラが殺られたな」


「え……」


 俺は慌ててルトラの方を見ると、ルトラの体は割れたガラスの様にヒビが入り、バラバラと崩れていった。

 滝の様に血を降らせ、巨大な肉片が落ちる度に地響きが起きる。


「え……な、え? 嘘だろ? ルトラ……死んだんじゃ……」


「流石にあれは()()()()()()


 唐突に呆気なくの出来事だった。

 オッカスもはっきりと言い切った。

 ルトラが死んでしまった。


「…………」


「でもルトラちゃん、やってくれたみたいね。『英雄の人類の象徴(アーク・シンボル)』の魔力がなくなった。恐らくはーー」


「道連れにしたか?」


「いえ、恐らくは空間の狭間に押し込んだのだと思うわ。多分、空間ごと身体を割られた時ね。ここにはもう戻って来れない筈……少なくともしばらくは」


 ……さっきのはガラス割れみたいのは空間が割れたエフェクトだったのか。

 漫画とか見たことあるな。

 でも今はそれよりもーー。


「ル、ルトラ〜〜! うわぁぁぁぁぁあ! 何故死んだああ!」


 あって数日の仲だったが、心に来るものがある。

 思わず涙がこぼれた。


「幸人ちゃん、そう悲しまないで、よしよし」


 背中からマギナが俺を優しく包み込み頭を撫でる。

 いつもの俺なら子ども扱いするなとラフらせる所だが、今はそういう感じでもない。


「ルトラは()()()だからミンチになろうと死なないぞ。今頃あの肉片のどっかで復活している筈だ」


「え?」


「正確には死ねないのよね、ルトラちゃんは。地獄帰りの副作用で」


 あっけらかんとした俺を他所に、オッカスとマギナはルトラを探しに行った。

 そういう設定なら早く言って欲しかった。


「幸人さん、ご無事で……何で泣いてるのですか?」


「色々あったんだ、色々……」


  そして嫌なタイミングでアメッコがやってくるというーー。



             ⭐︎



「いやぁ、まいったまいったバブ。あの野郎、思った以上に(りき)がありやがるバブ」


「本気を出したルトラちゃんを一撃だものね」


「語弊があるなバブ。あん時はおめーらが近くに居たから本気は出せてなかったんだバブ。あたち一人ならあの野郎、今頃月までぶっ飛ばちてたバブ」


「何にせよ、ルトラが奴を空間の狭間に追放したおかげでひとまず難は逃れた。上出来だ」


「けっ、あの野郎のパンチで割れた空間にねじ込んでやったんだバブ」


 魔王城へ戻って来た俺たち。

 どういう仕組みか魔王城は破損すると自動的に修復される機能があるらしい。

 壊れた外壁や窓はすっかり元通りになっていた。


「にちても、あたちが死んで泣いてくれるたぁ、幸人もかわいいところがあるなバブ」


「……うん、悲しかったよ」


 気分が滅入った俺は声にもそれが現れていたのか、俺としては不覚にも空気を重くしてしまう。


「あーー、昔あたちは地獄に落ちた事があってだなバブ。地獄では永遠の苦しみを与えるため罪人を不死身にするんだバブ。その状態で蘇ったもんだからあたちは不死身なんだバブ」


「へー、なるほど」


「だからそんなに気にちゅることねえよバブ」


「……? うん、別に気にしてないよ?」


 ルトラの事はもう気にしてない。

 死んだけど不死身だから生き返った。

 それでいいじゃないか。


「気にしてねーのかよバブ。じゃあ、何でそんなに落ち込んでんだバブ?」


「いや、別に……」


「奴に……アイレン・スカーレットに何か言われたのか?」


「うーん、まあそれもあるけど……にしてもアイレンさん、あの人結構いい人そうな感じだったけどな」


「それはそうよ。『人類の象徴(アーク・シンボル)』だもの。世間一般での悪は私たちの方よ」


「まあ、確かにそうだ」


「あたちは自分の仇だけどなバブ」


 魔王は()()()()()()だ。

 俺は魔王の役割を遂行するなら将来的には悪を執行しなければならない。

 というより執行しなくても存在自体がもう悪だ。

 何もしなくても今回みたいに襲撃に遭う。

 毎回、無事にやり過ごせるとも限らない。

 これは大真面目にこれからの身の振り方を考えなければならない。


「丁度皆さんお揃いで。次の目的が決まりましたのでお知らせします」


 俺が考え込んでると、一人でどっか行ってたアメッコがやって来た。


「何だよアメッコ、次の目的って?」


「四人目の四天王に会いに行くのです。場所は……冥界です」


「冥界だと……? アメッコ、冥界という事は私の思い違いでなければ、四人目の四天王はまさかーー」


「そうです。冥界の雄、ダンテカルナ・プルートハートさんです」

 

読んで頂きありがとうございます。次回から二章です。

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