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九話 ここは穏便に……

 血が通っている様な色の鱗に覆われた身体に蝙蝠みたいな翼をはためかせ、ドラゴンだと一目瞭然のそいつは割りかし流暢に喋った。


「珍ちく人が居ると思って来てみれば、オッカスとマギナじゃねーかバブ。まーた、あたちに喧嘩売りに来たのかバブ」


「何が喧嘩だ、たわけ。以前の時はお前が魔王城に要らんことするから灸をすえたまでだ」


「んな、(むかち)の事は忘れたなバブ」


「一週間前の事よ、バブちゃん」


「バブちゃん呼びは、よせバブ!」


 面識のあるオッカスとマギナはバブルトラと昔を話を始めてる。

 しかし、地獄の底から響いている様な重低音ボイスでバブバブ言ってるギャップのおかげか、見た目やばそうなドラゴンだがあまり怖くなかったりする。


「それよりルトラ、今日は女神様と新しい魔王様を紹介しに来た」


「女神に……新ちい魔王だとバブ?」


「ひぇ……」


 魔王と聞くや、バブルトラの鋭い眼光が俺を射抜く。

 一瞬、石化したかの様に固まった俺。

 それを見たアメッコが足の甲を踏みつけてきたおかげで解けた。


「ご、ご紹介に預かった新・魔王こと、御弓 幸人というものだ。仲良くしましょう」


「女神アメッコ・ニラメッコです。アメッコでいいです」


 友好的な態度を示すために渾身のスマイルを繰り出す俺に比べ、アメッコはいつものポーカーフェイスだ。

 笑いを司る女神なら作り笑いの一つでもしやがれと言いたいところ。


「……バブルトラ。ルトラと呼んでいいバブ。しかし(ちかち)……アメッコは兎も角、幸人はただの人間じゃねえかバブ」


「侮るなかれだ、ルトラ。私もマギナも、幸人に一度は白旗を上げている」


「ああん? にわかには信じ難ぇなバブ」


 この時、また一騎討ちする流れになると思った俺は、話題を逸らすよう試みた。

 一々勧誘に命を賭けてたまるかという心情からだ……!


 そして、そんなやや焦り気味の俺は、ついうっかり余計な事を口走ってしまう。


「ところで、良い喋り方っすね。ドラゴンが赤ちゃん言葉で喋るギャップが素晴らしいというかーー」


 その瞬間、プチッという何かキレた音が聞こえた。

 視界に入っていたオッカスとマギナの「あ」みたいな反応からして、俺はどうやら何か地雷を踏んだらしい。

 そう、一瞬以内に理解した。


「おめー……今、あたちの事を、何つったバブ?」


「ド、ドラゴンが赤ちゃん言葉で喋るギャップが素晴らしいと……気に障ったならすいません」


 何を不味ったか。

 赤ちゃんが駄目だったか。

 だって語尾がバブだし、さ行が所々た行になってるし。


「落ち着けルトラ。幸人も悪気があった訳ではーー」


 オッカスが言い繕ってくれようとするが、バブルトラは耳をかす事はなく。

 そして止まる事がない様子。


「うるちぇぇぇ! 誰が赤ちゃんみてぇだとバブぅ!?」


 翼を荒々しく広げながら叫ぶと、ルトラは上空へバサリと飛び立った。


「あたちのことを赤ちゃんと()かちた野郎は何者だろうとぶちのめすって決めてんだよバブゥゥ!」


「ひぇ……」


 そんなに怒らなくてもいいのに……。


「アメッコ、どうしよう。戦いを回避しようして戦闘になっちまった」


「前にも言ったではないですか幸人さん。そう言うのは思っても言わないものです、と」


「褒めたつもりだったんだよ……」


「まあ、私も赤ちゃんみたいな話し方だとは思いましたが」


「だろ?」


「二人とも! コソコソ喋ってないでマギナの近くへ!」


 オッカスに呼びかけられ、直ぐにピトッとマギナを挟む様に近ずいた俺とアメッコ。

 マギナは既に何かの詠唱を始めている。


「くたばりやがれバブ!」


 ルトラを見ると、いつの間にか巨大な大蛇の様にうねる尻尾が九本伸びていた。

 それぞれが先端をくるりと巻いて渦巻き状になっていてーー次の瞬間には破壊的暴力の雨が降り注ぐ。


「『防力『ストレングス・シェル』』」


 マギナの発動した魔法がバリアを作った。

 それに囲まれた俺たちには攻撃は届かないが、周りの地面や岩は轟音を立て爆発しまくっている。


「ルトラの『()()()()()(ラッ)(シュ)』だ。丸めた九本の尻尾を拳に見立て連続で殴打する技だが、尻尾の着弾点が爆発する威力がある。まともに受ければ粉々だ」


「私の魔法の前では無意味だけどね」


「俺、始めて会った時からマギナさんは優秀で頼りになるって気付いてた」


「幸人さんは馬鹿ですが、その意見には同意です」


 俺はバリアの中から、外側の惨状を見て、恐怖のあまり腰が抜けた。

 アメッコですら、恐れからがマギナにぎゅっと抱きついている。


「しかし、奴の短気には付き合ってられん。少し痛い目に遭わせて大人しくさせるとしよう」


 そう言うとオッカスは手を振りかざす。


「ーー逢魔(おうま)鏖戦(おうせん)鬼哭(きこく)せよ『英緋色(はなぶさひしょく)』」


 するとオッカスの手に、炎を纏ったデカいスナイパーライフルの様な銃が顕現した。


「そ、それでルトラを打ち落とすのか?」


「ああ。何、奴のタフネスは生物界でも随一。万が一当たりどころが悪くても問題ない。殺すつもりでいく」


「マジか……」


 元々は俺の失言が火種なのに殺してしまう事になっては流石に申し訳ない気もする。

 何とか穏便に済ます方法はないだろうか。


「『ラフ・メーカー』」


「ひっ!?」


「ひゃっ!?」


「大丈夫です。感情があればドラゴンにも有効です」


 俺が『ラフ・メーカー』の名を出すと、オッカスとマギナは軽く悲鳴をあげるが、アメッコは俺の意図を読んでか補足してくれた。

 流石の一言に尽きる。


「オッカス、先に俺がルトラと話して謝って許して貰えないか試してみるからさ、実力行使はその後で頼むよ」


「……まあいい。幸人がそう言うなら従おう。ああなったルトラに聞く耳があるかどうか分からないが」


「そうよ幸人ちゃん。きっとひと暴れしないと収まらないかも」


「うん……やっぱそういう感じか? アメッコ、どうしたらいいと思う?」


 正直、どちらがいいか判断つかない所。

 俺はアメッコの方を見るとーー。


「幸人さんは穏便に済ませたいのでしょう? であれば今言った事を実践してみてはいいではないですか」


 アメッコは背中を押してくれる言葉をかけてくれた。

 本当に流石、女神様。

 心の拠り所になりまくってくれている。


「ありがとうアメッコ。よし、まずはルトラをラフっとくか」

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