そのままでいて
「君が好きだ」この言葉はなんて罪深い言葉なんだろうか、、、
この言葉を言ってきたものは世界で何人いるのだろうか、言葉は違えど全世界でこの言葉は毎日使われているかもしれない。こういう言葉はいくつもあるが、どの言葉よりも罪深い言葉だろう。
あの時言っておいてよかった。そうじゃないと僕はずっと後悔に悔やまれたことだろう。一生あの優しく、美しく、どの音よりも心地よいあの声を、、、僕はもう聞くことはできない。
謎の涙と覚悟
あぁ、あの天井だ。いつもと変わらない。起きた瞬間鼻の奥を突き抜けるように渋い、でも落ち着く木の匂いがする。起きた時一瞬だが何か違和感があった。よくわからないが別に体調が悪いわけでもなさそうなので気にしないでいた。
「秋起きた―?ご飯できたよー」
「起きたー今いく」
階段を降りていくと母親が顔をひょこっと出して
「秋どうしたの?目の周りが赤いよ?」
「え?ちょっと待って鏡見てくる。・・・ほんとだ赤くなってる。なんでだろう?」
「泣いた?それとも擦った?」
「多分擦ったんだと思う。濡れてるところなかったし。」
「そう、まぁ顔洗って歯磨きしてからご飯さっさと食べちゃって。お母さんそろそろ行かないといけないからあとよろしくね!鍵ちゃんと閉めてからいきなさいよ」
「わかってるよ。いってらっしゃい、気をつけてね」
「はい、いってきます」
僕の家は母子家庭だ。父は僕が中学一年の時に病気で亡くなった。そこから母は長時間仕事をするようになり、顔を合わせる機会など一ヶ月に三回もあるかわからない。だけど僕は不満などはない。父が亡くなってから体が壊れそうになるまで働いてるお母さんが「高校は必ず出なさい。大学はどっちでもいいけど高校ぐらいは出ておきなさい」と言われたので一生懸命、勉強を頑張っている。早く卒業してどこかに就職してお母さんの負担を少しでも減らしたい。そういうことを学校にいる時も、家にいる時も、勉強している時も、ずっと考えてる。だけど時間は皆並行に進んでいる。早くてもあとニ年経たないと職につけない。もちろんバイトはしている。だがそのお金はせいぜい雀の涙程度。到底生活を助けれるような額ではないのだ。
だから早く職に就きたい、今のうち社会に出た時に恥ずかしくないように勉強をしないといけないと思っている。
下校時、ふと斜め前を見ると横断歩道を渡っている小さい子供とベビーカーを押しながら携帯を触っている母親がいた。僕は感じた。あの親子どこか自分に似てる気がする、いやこれから似たような人生になるのだろうと、直感がした。僕は急いで周りを見た、そこで見つけたのだ。正確にはわからないが二百メートル以上あるかわからない距離から走ってくる車がこちらに向けて猛スピードで近づいてくる。
「そこの親子!危ない!早く渡って!」
この声は聞こえていないようだ。それもそうだろうここはたくさんの車が走っているためちょっと声を大きくしても他の車の走る音やバイクのエンジン音でその声は届く前にかき消されてしまうのだ。
「いけない!このままだと轢かれてしまう、、、」
今までで1番はやかっただろう、風を切るような速さであの親子の元まで近づいた。近づいたのはよかったが同時に猛スピードでこちらに向かってきている車はこちらには気が付いていないようだ。まずいこのままでは3人とも轢かれてしまう。そこで左手をべビーカーを押してる母親の背中に向けて伸ばし、右手は歩いてる子供の脇近くに伸ばして、左手で母親の背中を押した瞬間に右手に抱えている子供の頭に直接地面に当たらないように両腕で庇いながら猛スピードで向かってくる車を避けた。
「きみ!大丈夫?痛いところはない?」
「うわああああん」
抱き抱えた子は大号泣してしまった。傷はなさそうだ。傷があるか確認したあとすぐに子供を連れてこの子供の母親に急いで近づいた。
「大丈夫ですか!痛いところはありますか!」
「いいえ、ありません。すいません助かりました。」
とても丁寧にお礼を言われた。しかし母親の方からすごく不思議な顔をされている。
「どうしました?何かありましたか?お子さんならこちらにいますよ!」
「い、いえあの救急車呼びますね、、、このタオルでここ抑えててください。絶対動かないでくださいね」
「はい?わ、わかりました」
僕はなぜ救急車を呼ばれたかわからなかった。誰も怪我は見つからない。もしや運転手が事故ってしまったのかと想像したが、それにしてもぶつかった時には地面が少し揺れるような衝撃があるはずだ。ではなぜ救急車を呼ぶのだろうか。考えてる時に自分の左頬に何か伝ってきた。
「ん?汗か。え?」
汗だと思ったものはとても赤く脂のようにヌメッとしたものでその時自分が怪我をしたのだと理解した。
子供が泣いたのはこの傷を見たからだろう。
「ああ僕が怪我したのか。でも痛みが感じない。」
出血が酷かったのだろうだんだん意識が遠のいていく。サイレンの音が聞こえてきたところで瞼が閉じた。
あれ?いつも見る少し色褪せてる茶色系の天井と違う。なんだここ?真っ白で綺麗な天井。何か聞こえる、何か周りが動いてるような雰囲気は感じる、だけど確認できない。自分がどうなってるのかさえわからない。
「きみ、名前と歳言える?」
「上条秋、十七歳です」
「はい、脳には何もなさそうだね。どう?頭痛いとか何かある?」
「頭は別に痛くないです。頭以外に怪我したところとかありますか?」
「君結構重症だったよ、転がったところの奥に塀があってねそれにあたり悪く切りながら頭を強く打っちゃったらしくてね、打撲、擦り傷、あとは頭を強く打って脳震盪だね。まぁ意識障害はなさそうだからよかったね。」
「そうだったんですね、そういえばあの親子は無事に帰れましたか?」
「ああ、あの親子ね一緒に救急車に乗って事情話してくれてね、無事帰ったけど母親の方は帰ってきたね。」
「え?」
「鈴木くん入ってきな」
「一昨日は本当にありがとうございました」
「いえいえ、、、一昨日!?」
「そうだよ。君二日間寝たきりだったよ」
「本当にすいません私がちゃんと周りを見てなかったから」
「ニ人とも無事でよかったです」
二日間も目を覚まさなかったことに驚いた。二日間寝てる間夢のようなものを見た覚えがない。一瞬だったとはこのことなのだろうか、よくわからなかった。
「あ、学校には連絡行っていますか!?」
「それはこちらから連絡させてもらって説明などして事情は理解してるよ」
「よかった、それでもう帰れるんですかね?」
「いや、まだ帰れないよ。まだ完治してないし、歩いてみたらわかると思うけど多分クラクラしてまともにまっすぐ歩けないと思うよ」
「それもそうですね、現に今クラクラしてます」
「まぁ完治までゆっくりしてて」
「はいお世話になります」
さていつまでこの生活が続くのだろうか。あの親子が目の前で轢かれなかっただけでもよかったかと思いながらこれからのことを整理していった。
一ヶ月後
「お世話になりました」
「まだ傷が完璧に塞がったわけではないのであまり過度な運動などは控えてくださいね」
「わかりました。本当にありがとうございました」
「私からも子供と私を助けてくださり本当にありがとうございました」
「いえいえ!これからは気をつけてくださいね!」
「じゃあ秋行こっか!」
「うん、仕事途中なのにありがとう!」
「何言ってるんだい、子供のために働いてるのに子供に何かあった時にこない親にはなりたくないからね!」
「母さんらしい」
ニコニコと笑顔で家まで送ってくれた。
幸福と不安
退院後またあの渋い木の匂いがする部屋に戻ってきた。戻ってきてから病院にいた時のことを思い出した。病院には計五週間近く入院していた。入院中のあのベットはとても寝心地が悪かった。わしゃわしゃと音を立てて寝返りを打つだけでもものすごい音がし、それを抑えようとするととても慎重になってしまってとても寝にくかった。リハビリは週にニ回ほどで移動には車椅子を使ってリハビリの先生がリハビリ室まで往復で押してくれた。リハビリといっても一緒に歩く程度だったが結構大変だった。二日も寝っぱなしだっただけでも少し歩くだけでだいぶ息切れがした。今ではだいぶ怪我をする前と近いぐらいまで回復した。
「さて、帰って来れたし学校の勉強でもしようかな。だいぶみんなと差が開いちゃったから急がないと。」
入院した時、8月の終わりで夏休みが終わってすぐだった。秋桜や紅葉が綺麗になっていく秋に入った。
入院中、見舞えに同じクラスの人やバイト先の先輩、店長、社員さんがきてくれた。バイト先の人が来たのはバイトをしているところに同じクラスの男友達がいてその子が教えてくれたらしい。その男友達の名前は遠藤春樹と言って、入学時に一番最初に声をかけてくれた子だ。春樹は一緒にバイトに応募して一緒に働けることになって今では1番長く時間を一緒にしている友達だ。春樹は入院中大半いつも学校終わりに来てくれた。だがいつも晴れてる訳ではない。雨の日、風が強い日など入院してる時一週間に二日ほどはあった。だけど春樹は時間がある時はいつも雨の日でも、風が強い日でも、雷が鳴っていても見舞えにきてくれた。
その度にその日にやった授業のプリント、授業内容、携帯で撮った授業を送ってくれた。授業の撮影は堂々と教室の真ん中にスタンドを立ててそこに固定して撮ってるらしい。「春樹、先生に許可とったの?」と聞いたら「取ってない!でも先生から何も言われたことないぞ?」と言われた。なぜだろう。しかしこの破天荒なことをする友達だ。頭のいいことをするはずがない。だが考えてもわからず「どうしてだ?」と言った時春樹は声を抑えつつも楽しそうに笑いながら、「秋が入院中でも先生の授業を受けれるように撮影しますって紙をカメラが隠れないようにセロハンテープでスタンドに貼ったんだよ!」と言った。
「さすがだね」と笑いながら言った。これには笑わずにはいられなかった。
「俺天才だろ」と言いながら春樹も笑った。
笑うのが治ってきたら春樹が「そうそう今日はもう一つお知らせがあるぞ!」といってきた
「ん?学校関係か?」
「んーどっちだろ!」
「彼女でもできたか?」
「あぁ彼女はまだできてない」
春樹は笑いながら否定した。
「じゃあなんだ?」
「それはな、転校生がきた!」
「へーそれはよかったな」
「なんだ興味なさそうだな」
「だってまだ会えるまで1ヶ月もあるんだよ?喜んでもすぐに忘れるから退院近くになったらまた教えて」
「いやそんなこと言っても、、、」
「何?どうしたの?」
「つれ、て、、」
「なんて?」
「連れてきちゃった、、、」
「え、連れてきたってそのままの意味だよね?」
「うん、物理的な方の連れてきた。呼んでもいい?」
「だいぶ待たせてるから早く入ってもらお」
「ごめん、お待たせ入っていいよだって」
病室の扉が静かに音を極力出ないようにしているのか開くのが遅かった。
多分他の人がいることを気にしたのだろう。静かに入ってきたのは女の子だった。彼女はゆっくりとこちらに歩いてきて自己紹介を始めた。
「失礼します。先日転校して同じクラスになった清水夏凪と言います。よろしくお願いします」
「上条秋です。よろしくお願いします。と言ってもまだ一緒に活動などはできないけどね。ところでナツナの漢字は季節のなつに菜の花のな?」
「いえ、なつは季節の夏であっていますが最後のなは水面などが穏やかになったりすることを意味する凪の方です」
「そうなんだね!綺麗な名前だね!春樹もそう思わない?」
「俺は人の名前の漢字のイメージが掴めないからなんともいえない」
「春樹は漢字に興味がないんだね、そうだもう同じクラスということだし敬語ではなくタメでいこ」
「い、いきなりは難しいので少しずつそうします。慣れるまでこちらに伺ってもよろしいですか?」
「夏凪がいいなら来ていいよ!」
「わかりましたそれでは明日から伺いますね。今日はこれで失礼します」
「気をつけて帰ってね」
「ありがとうございます」
「春樹はどうするんだ?夏凪と一緒に帰るか?」
「うーんどうしよ」
「一緒に帰ってあげて」
「秋はいいのか?」
「別に春樹は明日か明後日にはまた来るでしょ?その時にまた話してよ」
「そういうなら送っていくわ、清水さん一緒に帰りましょ」
「はい・・・」
「夏凪は春樹が苦手なのかな?まぁここに来るらしいし会ったら3人で仲良く喋れたらいいな」と春樹と夏凪を見送りながら心の中で思った。
春樹に夏凪を紹介されたのを〇日目とすると一日目から学校終わりにきた。
「失礼します。秋君こんにちわ。」
「夏凪こんにちわ。外寒くなかった?」
「少し寒か、った」
「そうなんだね、ゆっくりあったまってね」
「ありが、と、う」
ぎこちないが少しずつタメ口で喋ってくれてるように頑張ってくれてる
「夏凪今日の学校は楽しかった?」
「えっとね、授業以外は楽しかった。昼休みは春樹君が色々な人と一緒にご飯食べてトランプで遊んだりしたよ」
「楽しそうだなぁ。いいね、早く戻りたいよ」と笑いかけた。彼女は微笑んでくれた。
「秋君は今日は何したの?ずっとベットにいる感じなの?」
「今日は読書がメインだったね」
「何を読んでるの?」
「今はね昔書いた人の本を読んでるよ」
「私この人知ってる。有名だよね」
「そうらしいね。有名な作家の作品を今のうちに読んじゃおうって思ってね食事とか以外はずっと読んでるよ」
「だんだん食事中とかにも読んでたりしてね」と初めて夏凪が微笑んだ。僕はそれを見て一瞬ドキッとした。なんて綺麗で美しいと思った。
夕方と夜の間の時間彼女が席を立った。
「夏凪、昨日今日でタメで喋れるようになったね」
「秋君と喋るのは楽しいからかな」
「お世辞でも嬉しいよ」
「お世辞じゃないよ。明日もくるね」
「うん、気をつけて帰ってね。」
「ありがとう、じゃあまたね」
「またね」
夏凪が扉を閉めてから心の中であの子の声について考えた。
「あの子の声優しくて綺麗だけど何か別の感じがするんだよなー。」声の謎を解くために今日の会話を思い出していた。寝る前まで考えた。しかしその謎は考えれば考えるほどに深く深くに遠くなっていき一向にわからなくなる。ただあの子の笑顔と声はとても美しいというのはわかった。それだけだった。あの不思議に感じさせる声の謎はなんなのかわからない。だが、それを解くのは多分この先一生無理なのだろうと今日の会話を振り返りながら思った。
月日が流れ退院二日前にほぼ毎日来ていた夏凪がいつもより早く、額に汗が見えるか見えないかぐらいでドアを静かに開けて入ってきた。
「おっ今日は早いね。もしかして急ぐ予定がこれからあるの?」
「ううん」彼女は首を小さくだがわかるぐらいに横に振って否定してた。
「そっか。汗を少し掻いてるね、水飲んで。」と言って、ベットの横にある冷蔵庫から五〇〇mlのコンビニで売られてる百円の水を取り出しながらキャップを開けてから彼女に渡した。
「い、いいの?秋君のためにあるのに」と息を切らしながら言った
「いいよ。別に百円で売ってるやつだし自分のお金だから気にしないで」と気にさせないように笑顔で夏凪に言った。
「ありがとう」と言って渡した水をゴクゴクと飲んだ。
とても喉が渇いていたらしい。
「はぁ、はぁ、ありがとう」と言ってキャップを閉めて椅子の横にある荷物置きの中に置いてる鞄の上に置いた。
「どうしたの?そんなに息を切らすぐらいできたってことは何かあったのでは?」
「い、いや今日は何故か走ってきちゃった」とまだ息が整っていない中で笑いながら言った。
「そうなんだね!早くきてくれたから今日は長く喋れるね」
「そうだね、それであの話があるんだけどね」
「うん、ゆっくりでいいよ」と落ち着いた声で言った。この時の声はおじいちゃんやおばあちゃんが持っているあの魔法のようなあの落ち着いた声が出た。
「えっとね、私とつき、、ってほしい」
「ごめん、最後らへん聞き取れなかったからもう一度言ってもらえない?」
彼女の耳が顔と明らかにわかるぐらい赤いのが確認できた
「私とつ、付き合ってください」
彼女はものすごく赤くなって目から涙が涙袋に収まらず静かに流れおちそうなぐらい目の中に涙が溜まっていた
「えっと、付き合ってくださいというのは、恋愛的な方だよね?」
罰ゲームというわけではなさそうだ。というのも罰ゲームならこんなにも一生懸命言わなくてもいいというのが一つ、そして彼女と自分に接点があると他のクラスメイトは知らないはずだ。会ったことがあることを知っていても一回しか会ったことないと思っているクラスメイトに流石にやってこないだろう。最後になぜ今日あんなにも息をあげて汗を掻くぐらい走ってきて告白してきたのだろうかというのを考えると真剣に言ってると考えれた。
「う、ん、、、」
真面目に耳を澄ませて聞いていないとわからないほど小さい声で返事をしてくれた。
「こちらこそよろしくお願いします。」と言ったら彼女は顔をあげ目から静かに涙がこぼれながら微笑んだ。
「夏凪嬉しいんだけど一つだけ聞いてもいいかな?」
「なに?」涙を拭きながら夏凪は言った。
「何故僕を好きになったの?」素朴な質問を投げた。
「秋君といると素の自分を出せて落ち着けるからかな。」
「そっか。答えてくれてありがとう」と優しく微笑みながら言った。
退院一日前で一ヶ月もの間通い続けてくれた夏凪から告白された。この時には自分でも夏凪が好きになっていることを気づいていた。しかし言い出せなかった。「この関係が壊れるかもしれない」これが頭の中を横切った瞬間言おうとしてたことが急に言い出せなくなった。「君が好きだ」このすぐ言い終わるこの言葉を一瞬で言えなくなった。彼女の勇気ある行動のおかげで進んだ。しかし心の中では自分から言えなかった後悔が日が経つごとに体に感じる負担が膨れ上がってきていた。
過去と今
退院後春樹と夏凪を家に招待した。
『お邪魔します』春樹と夏凪が一緒にきた。
「いらっしゃい。二階に上がってすぐ横が僕の部屋だから先に入ってて」
「秋も一緒にいかないのか?」
「お茶用意してから行くから先行って待ってて」
「そういうことなら。お先にお邪魔しておくわ」
この2人とは退院後から昼休みを一緒に過ごすようになった。僕が学校に毎日行けるようになってからは帰りは僕の家に寄るのが日課となっていった。春樹にはまだ夏凪とカレカノになったことを言っていない。そのことを話すために今日僕から誘ったのだ。あの二人はいまだに少し距離を感じる。そこについても聞きたいと考えながら、お茶とお菓子を折敷に乗せ二人が待っている自分の部屋までゆっくりと階段を上がった。
「お待たせ。あ、ごめんね座布団出しておくの忘れてた。よかったらこれ使って」僕は布団などを入れてるところから座布団を二つ取り出し春樹と夏凪に渡した。
「別に座布団なんかいらなかったのに。けどありがとう。俺長時間座るの無理でさクッションか何かないと無理なんだよね」春樹は笑いながら言った。
「秋君別にそこまでしなくてもよかったのに。だけどありがとう、使わせてもらうね」夏凪も遠慮していたが使ってくれた。
「今日は来てくれてありがとう。今日呼んだ理由は二つあるんだ。」
「一つはわかったぞ」自信ありげに春樹が言った。
「私も一つはわかったよ」夏凪も自信がある雰囲気を出している。
「まず一つは僕のことなんだけどね、夏凪と恋人になりました」
「お前裏切ったな!?」
「なんのことだよ」春樹が勢いよく飛びかかってきたのを必死に耐えてる時、突然夏凪が横から『私が告白したの!」とご近所さんに聞こえてるかもしれないというほどの大きさで言ったのだ。
「だと思った。ちゃんと夏凪ちゃんが秋に伝えたんだね」
「うん」
「春樹どういうことだ?知ってたの?」
「いや?知らなかったよ。ただそれを聞いた時に一瞬でどっちが本気だったのかなぁって知りたかったから秋に飛びかかったんだよ。そしたら夏凪ちゃんが横から大声で言ったから、この子が言ったんだなぁって思っただけ」
「春樹もう少し別のやり方を覚えようよ」
「私もヒヤヒヤした。二人仲良いのに急に喧嘩みたいなことするから怖かった。」
「ごめんごめん。ただおめでとう!二人が話してる時二人とも楽しく笑顔で話してたからそうかなぁって思ったけどその通りだったな」
「春樹は人の表情とか考えてることとかには鋭いよね」
「なんでだろうね」と春樹はいつもの笑顔で言った。
「それでもう一つは?」
「それはね、春樹と夏凪についてね」
『え、、、』二人とも少し姿勢が伸びたのがわかった。
「な、なんでそんなこと聞くんだ?」春樹の話すスピードが少し早くなったように感じた。多分何か心当たりがあるのだろう。
「ど、どうしてそんなこと聞くの?」夏凪も何か心配してるような雰囲気を出している。
「二人はさ、ずっと前に会ったことある?それか幼馴染とかそんな感じかな?」
「はは、秋こそ人のことよく観察してるよ。そうだよ、俺と清水さんは幼馴染なんだよね」
「まぁそうだろうね。そこは予想できてた。ただ僕の中で不思議に思ってるのが春樹と夏凪が二人だけの時二人とも気まずそうだけどそれはどうして?」
『そ、それは、、、」
「今日はそれを聞けるまで一歩も動かないからね」
「じゃ、じゃあ俺から話していいかな?」
「いいよ、、、」
二人の関係のことを質問した瞬間二人から笑顔が消えた。
「秋の言う通り俺と清水さんは幼馴染で幼稚園の時に知り合ったんだ。家が横でいつも幼稚園から帰ってきたらインターホンを鳴らして夕方の鐘が鳴るまで公園で二人で遊んでたよ。小学校中学年まではずっと遊んでた。ただ小学校六年になってから急に遊ばなくなった。いや、俺が避け始めたんだ。何がきっかけで避け始めたかは覚えてないけど急に逃げたくなって逃げた。中学では一度も同じクラスにならなくて、登校時、昼休み、下校時、三年間一度も顔を合わせて会話をすることがなかった。これは清水に聞かないといけないけど中学上がる時には多分引っ越してたと思う。清水のご両親に会うことが三年間一度もなかったから」
春樹は緊張しているのか顔を下に向けながら淡々と今までの経緯を話した。
「夏凪は引っ越したの?」
「うん。小学校を卒業してすぐに東京に引っ越した。中学は三年間はずっと東京だったけど高校進学してからすぐお父さんの仕事場がこっちの方に戻ることになってそれで一ヶ月前にこっちに引っ越してきた。その時は懐かしさがあって思い出に浸りながら学校に来たんだけど、その転校先に春樹がいたんだ」
「じゃあ二人が気まずそうにしてるのは小学六年生の時に春樹がなぜか避け始めて、夏凪のお父さんが転勤するタイミングがちょうど悪くてすれ違いのようになって春樹はずっと理由がわからないけど逃げ続け、夏凪は春樹から避けられていると思っていた。いや、避けられていたと言った方がいいかな」
「そんな感じ。この場で申し訳ないけど謝らさせてほしい。清水本当に遅くなったけど小六の時急に避けて、話しかけてくれようとしたけどずっと避けてしまって申し訳なかった。本当はずっと一緒に遊んでいたかったし、ずっと一緒に居られると思ってた。だけどずっと一緒に居られるって考えた時に急に怖くなったんだ。清水がいなくなりそうな気がして。それが怖くて清水をずっと避けてた。本当にごめんなさい」
「ほんとだよ」夏凪は目に涙をいっぱい溜め込んでいながら必死にその涙をこぼさないようにしながら言った。
「これからは逃げずに秋君と一緒に3人で歩いていこ」
「はい、ありがとう」
「よし、これで三人ともスッキリだね」
「秋ありがとう。これでまた一歩進んだよ」
「本当に秋君には感謝だよ」
「それはいいんだけど、、、」
『どうしたの?』
二人が同時に言ってきた。
「夏凪が僕に告白した理由聞いてなかったんだけど、、、もしかして春樹お前なんか夏凪に言っただろ」
春樹と合っていた視線が聞いた瞬間合わなくなった。
「いや、少し秋のことを夏凪に話しただけだよ」
「その少しは何を言ったの」
「あ、秋は優しくて誰に対しても分け隔てなく接してくれる良い奴でつい最近は母子ともに助けて入院したことを話しただけだよ」と早口で言った。
「ん?それで僕に告白する理由にはならなくない?何がきっかけ?」
「入院して直ぐに清水を病室で会わしただろ、そこで話すのが苦手って清水が言って「時間ある時くる?」って秋が言ってからほぼ毎日いってたのかな?詳しいのは分からないけど毎日通ってる時に秋の何かに惹かれたんでしょ」
「本当?」
「えっとね、、、だめ恥ずかしくて言えない」と夏凪は顔を赤くしながら言った。
「この話はこれからゆっくり聞き出していこうかな」ともう夜になるという時の暗いけど微かに明るい時間の空を見上げた。
蝋燭の火
あの二人の仲が前より良くなったのは嬉しいが春樹と夏凪が仲良くしているのを見ると少しモヤっと感じることが多くなった。
学校の帰り道、修了式で学校にあるものを全て持って三人で帰っている時気づいたら二人とは百メートルぐらい離れているところで春樹と夏凪に呼ばれた。
「秋ーお前もこっちこいよー」
「秋くーんきてー」
あの二人は会話が弾むと周りが見えなくなるらしい。その話に入れない僕は置いて行かれていた。
「医者から激しい運動するなって言われてるの。急かさないでー」
大きい声を出すと少し傷が痛む。
「そうだったー忘れてたよー」笑いながら春樹が言った。
「ん?春樹なんか秋くんの様子変じゃない?」
「え?そんなことなくね?清水の気のせいだろ」
「ちょっと、二人と」僕はそこで力が入らなくなった。
「秋?どうした!」春樹が荷物をその場に置いて急いで走ってくる
「秋君!?」夏凪も春樹の背中を追いかけるように走ってこっちにきた。
「ご、ごめん体が言うこと聞かなくて」
「え?どう言うこと?」春樹がよくわからないから簡単に言えみたいな顔をしながら言ってきた。
「多分出血してるどこか、意識がどんどん遠のく感じがする」あの事故の時の感じに似ているのは明白だった。
「俺は何をすればいい?」
「わ、私は何を、、、」夏凪も春樹と同様に混乱していた。
「は、春樹は僕の体を見て異常があるところを教えて。な、夏凪は救急車、よ、呼んで」
僕は夏凪に血を見せたくなかった。
『わかった』二人とも指示通り動いてくれた。
「もしもし、」夏凪が慌てながら事情を話してる。
「あ、秋見つけたぞ」
「ど、どこの傷?」もう意識が途切れそうで目が閉じかけてる時に春樹が大声で報告してくれた。
「頭の傷が少し開いてる」
「そっか、、、ありがとう」なぜかありがとうと言う言葉が出た
「あ、秋!秋!目閉じるな!救急車すぐくるからそれまで頑張れ!」春樹が大声で言ったため夏凪も状況が少しわかったのだろう。近くに息をあげながらきた。
「あ、秋君!だ、だめ。め、目を閉じないで。す、すぐ救急車来るから!頑張って!」
「秋サイレンが聞こえてきたぞ!もうちょっとだ頑張れ!」
「は、はる、きありが、とう。楽しかった。けど嫉妬、もしてる。幸せにして。な、夏凪。君が好きだ。幸せになって」二人に辿々しい声で感謝と好きだと言うことを伝えた。伝え終えた瞬間力が一気になくなって目を閉じた。僕は言えた。最後の蝋燭の火が消える瞬間、僕の伝えたいことを伝えられた。「君が好きだ」この言葉を言えなかったら後悔していただろう。だが言えた。それだけでもう十分だった。彼女の、夏凪のあの優しくて、美しくて、どの音よりも心地よい声はもう聞けないのだと。彼女の声の謎が火が消えかかる時にわかった。あの声の謎はもう出ていた。それはずっと頭の中に残り続ける声が謎の正体だった。
「あ、ああ、あ、秋、、、」春樹が泣きながら体を揺すった。夏凪は声が出ないほど涙を流していたが救急車が来るまでずっと強く抱き締めていた。
エピローグ
本棚を整理している時懐かしい写真が出てきた。私が今まで生きてきた中で唯一私を救ってくれた人と幼馴染の彼。あの日のことは忘れることはない。転校してきた初日に幼馴染に連れられ病院へ行った時写真だ。
「秋君、、、」もう泣かない、笑って生きていく。助けてくれた彼が私の笑顔を好きだと言ってくれたから。
今年もこの日がやってきた。幼馴染と一緒に神奈川県の南側にある山の麓に向かった。
「もう何年経つんだろうな」
「前回来た時も同じこと言ってたね」
「そうだっけ?昨日のことのようにあの日のことは覚えてるからな」
「私も。荷物持ってね。あ、そのビニール袋は貸して」
「これか?はい」
「ありがとう」
ビニール袋から線香を取り出し、線香に火をつけて線香皿に火が左側になるように置いた
「秋君、ただいま。最近は忙しくて戻って来れなくてごめんね。また落ち着いたら帰ってくるね」
「秋まだそっちに行く予定は無いから俺たちが行くまでゆっくり休んでな」
二人が帰ろうとしたらさっきまでなかった風が一瞬強く吹いた。
私には聞こえた。
「君が好きだ」と言った彼の声が。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
私は今回恋愛ジャンルを書いてみました。どうでしたか?
今回初めて小説を書かせていただきました。もっと心情の移りや物語のつながりを意識すれば綺麗な話運びができるのでしょうが流石に難しかったです。今回の話は私が小さい頃に言葉にできなかったものを一部表に出した作品です。恋愛作品を読んだことがなかったものでどう言うものが綺麗で感動的な話になるのか分かりませんでした。しかしわからないなりにもやってみることにしました。また執筆できる機会があるのであれば今回の作品よりも完成度が高く、わかりやすく、感動させられる作品を作れるようこれから精進していきます。