たにし na ミリオネア
昔々、ある村に、貧しい米農家であるアラサーの夫婦がおりました。
夫婦には子どもが居ませんでしたが、とても仲が良く、二人とも誰からも好かれる人柄でした。
また、夫婦の日課は、新婚の十代の頃から、一緒に田んぼの側にある水神様の分社に、朝と夕方にお参りすることでした。
一方、社越しにヒトの世界を見ていた水神様は、そのように夫婦が長年お参りしていることに、大変感心していました。
「ふむふむ……。では、加護でも与えてやろうかの」
そう言ったのは、ヒトの姿にもなれる、美魔女風のセクシーな白蛇の女神様でした。
ヒトの世界に話は戻りますが、ある日、信じられないようなことが起きたんですって。
夜に寝ていた時に、いきなり妻が産気づいたんです! そして、元気な赤ちゃんが産まれました。
……まあ、なぜか小さな『たにし』だったんですけど、ね……。
「諦めていたのに、奇跡としか思えないわ……。『たにし』だったなんて、流石にビックリしちゃったけど」
「でも、俺たちの子には変わらねーよ。きっと、神様からの贈り物に違いない」
そうして、夫婦は『たにし』に佐吉と名付け、大事に大事に育てました。
とはいえ、夫婦は一年ごとに歳を取っても、『たにし』はずっと、たにしのままでした……。
しかし、二十年経った、ある日のこと。
『たにし』の父親が腰をさすりながら、馬に米俵を乗せていた時、突然、馬の耳の辺りから声がしたんです。
「父さん、辛そうだね……。俺が代わりに、庄屋さんとこまで運ぼうか?」
声の主は、何と息子の『たにし』だったんですっ!
父親は腰が抜かしそうになるくらい驚きましたが、自分の仕事を息子に任せてみることにしました。
すると、佐吉は上手に馬を操り、見事に庄屋の家まで米俵を運びました。
庄屋には礼儀正しく丁寧な挨拶をしたので、庄屋も非常に驚きました。そして、「なかなか賢い奴だな」と庄屋は感心し、佐吉のことを大変気に入ったのでした。
数日後、庄屋は佐吉に、自分の娘との縁談を持ちかけました。佐吉は喜んで、すんなりと承諾しました。
一方で、庄屋の一人娘、十六歳の清も、佐吉との婚姻をあっさりと受け入れたのでした。
清は、「男と張り合ってチャンバラばっかしてる、色気の無い奴をもらってくれるなら、超々ありがたいじゃんっ!」と言っていたそうです。
まあ、そんなノリで、結婚した佐吉と清でしたが、結婚した後はラブラブらしくて……。
特に、清の変化はすごくて、まずは自分の身なりを気にするようになりました。苦手な家事も、積極的にするようになりました。
そうして佐吉に尽くして尽くしまくって、少しはお淑やかになったそうです。
そんな清の姿を見て、庄屋を含めた周りの人々はドン引きしていましたが、佐吉は彼女の奮闘を微笑ましく感じていたのでした。
それから、一年くらい経った村の祭りの日。
祭の帰りに、佐吉と一緒に出かけた清は、水神様の本殿がある神社に寄りました。
(佐吉くんが人間だったら、いいのにな……)
清は、そのように心の奥の奥で呟きながら、とても丁寧に参拝しました。
またまた別の世界から、水神様は清の日々の努力をずっと見ていました。それ故、妙案を思いつきました。
そして――
神社に居た清は、肩に乗っていた佐吉が急に消えたので、ものすごくパニックになってしまいました。
……と、その時!
「清ちゃん……」
聞き覚えのある声がして、清は後ろを振り返ると、なんと、知性漂うクールビューティーなイケメンが立っていたんですっ!
「嘘ぉっ!? も……もしかして、佐吉くん、なのぉっ?」
「……そーだよ」
その後、あまりの嬉しさに号泣してしまった清を、佐吉は優しく抱き締めたのでした。
さらに、奇跡は続きました。
それぞれの家庭の畑で、お茶をイチから作っていることから、商いを閃いた佐吉は、山の麓に広い茶畑を整備し、貧しい村を少しでも裕福にしようとしました。
清も快く協力したおかげなのか、商いは大成功し、二人は村の人々から大変感謝されたのでした。
今までよりも村が豊かになった後も、いつまでも佐吉と清は幸せに暮らしたそうです。
……めでたし、めでたしっ♪
〈おしまい〉
最後まで読んで頂き、ありがとうございましたm(_ _)m