夏祭りとライオン
例年通りに行われた夏祭りは大盛況で、老若男女、そしてライオンも、みんな晴れやかな笑顔で場の空気を楽しんでいた。
「ちょっと待て」
「ライオンだと?」
行き交う人々が振り返る。二度見した。しかしライオンは浴衣を着て、二足歩行している。誰もが自分の思い違いをそれぞれに訂正した。
「ああ、人間……か?」
「人間……だよな?」
ライオンの名前はゴゴ。ユニコーンの島からやって来たアーニマン。動物の姿をした人間だ。つまり確かに人間ではある。が、体はまんまライオンなので、人を喰う。
ゴゴと並んでひょろ長い西洋人が歩いていた。ヘビメタ頭にサングラスをかけ、口の下にへんなチョビ髭を生やしている。
彼の名前はスティーブ。ゴゴの保護者ともいうべきニートである。
「ゴゴっち、楽しんでる?」
「ああ、楽しいぞ。ここはうまそうな匂いがいっぱいだな」
ゴゴの鼻がヒクヒクと動く。イカ焼き、たこ焼き、焼きそば、綿飴……そんな匂いを集めて、口からよだれが糸のように垂れた。
「何食べたい?」
「ゴゴは肉が好きだ」
牛肉串500円を10本買った。スティーブはアメリカの大企業の社長の息子なので金持ちだ。
10本の牛肉串を一瞬で食べ切ると、ゴゴは言った。
「スティーブ……。腹が減った」
焼きそばを1パック買うと、啜ることなく大きな口に全部入れた。
「足りん……。厶?」
六歳の女の子がひっそりと泣いていた。
灯籠の陰で、可愛い浴衣に葉っぱをいっぱいくっつけて、リンゴ飴片手に途方に暮れたように泣いていた。
「どうした?」
いきなり顔を現したゴゴを見て、女の子が悲鳴をあげる。
「ひゃあっ!?」
「迷子かな?」
スティーブが後からやって来て、女の子に聞いた。
「キミ、お母さんどこ?」
「浴衣を汚しちゃったの」
女の子はべそをかきながら、答えた。
「ママに叱られるから……」
「それで隠れてたか」
ゴゴは笑い飛ばした。
「ならば綺麗にすればいい。それだけだ」
ゴゴはざらざらした大きな舌を出すと、女の子の浴衣も、汚れたほっぺも、ベロンベロンと舐めた。
それを眺めながらスティーブが呟く。
「ライオンはいいね。ボクがそれやったら変質者ですよ」
「由絵!」
得意の鼻で、浴衣についていた匂いを辿って送り届けた。ママは泣き顔で女の子を抱きしめた。
「ありがとうライオンさん。お礼にこれあげる」
差し出されたリンゴ飴をゴゴは大きな口を開けると、一口で食べた。
「うまい」
そして笑った。
「なんか腹がいっぱいになったぞ」
イラストは空原海様
https://mypage.syosetu.com/2037360/
より頂いたものです♡