第10話 九州平定
1573年から始まった九州平定はこれまでの戦とは一線を画す戦争だった。
これまでの集団で弓矢で撃ち合い、槍を突き合う戦闘は戦場から消え失せ、代わりに現れたのは陸海に限らず轟音と硝煙であった。
数は少ないながらも重巡洋船が主力の幕府海軍は薩摩水軍に対して圧倒的な勝利を収め、薩摩国沿岸地域に対して砲門を向けた。
河川に撤退した水軍に対しては軽巡洋船が追撃を行い、薩摩水軍は再建不可能なレベルの損害を被る。
はっきり言って壊滅を越えて消滅と言った方が正しかった。
不足する重巡洋船の数はポルトガルの援護で補填した。
この戦役にはインドのゴアから遥々やって来た熟練の水兵を載せたポルトガル式ガレオン船2隻の援護もあった。
ガレオン船は重巡洋船を更に重武装にしたものだ。
重巡洋船が多くとも20門程度しか大砲を積んでいないのに対し、ガレオン船は少なくとも20門、多くて80門を搭載する超重武装の船だった。
これほどの重武装を達成した理由として、重巡洋船よりもさらに積載量が増え、多段構造となり、その一段一段に砲門が列を成していた。
船体の比率は4:1とかなりスリムになっており、横波には弱くなったが代わりに機動性は向上した。
武装重巡洋船で問題となっていた重心の高さもこの多段構造によって解決しており、戦闘面であれば日本海軍では到底敵わないと誰もが理解出来た。
その砲撃は正に圧巻の一言で、戦闘艦というものが何たるかを教えてくれる。
日本の軍船が精々武装商船程度の戦闘力しか有さないことをまじまじと見せつけられる形となった。
沿岸には砲台が点在していたが、その多くがハリボテ同然の紛い物だった。
薩摩は砲台に偽装したそれっぽい石を設置するなど涙ぐましい努力をして威圧を放とうと画策したが、そもそも仮に本物の大砲であっても砲撃していただろう。
砲台はあっという間に沈黙する。
幕府軍は巡洋船の砲撃支援を受けながら上陸し、鉄砲隊による射撃が数々の場面で薩摩国軍を一掃した。
流石の薩摩人たちも這う這うの体で逃げることしか出来なかった。
これに呼応してか、九州北部のキリシタン大名も参戦し、越境進軍を始める。
薩摩国はこれではどうしようもなく、開戦から年を跨ぐことなく、島津氏は泣く泣く交渉の席に着いた。
だが、意外にも薩摩国の処遇は軽かった。
理由は既に最も遠国に位置しているため、これ以上外様になり得ないことなのだが、それはあくまでも表向きの理由に過ぎない。
実際に幕府としては蝦夷地に島津一門を送ることもできたが、開戦と同時に占領された菱刈鉱山を除いて、ほとんど領土は安堵された。
その代わりに艦砲射撃によって被害を被った沿岸地域の補償は行わないとしたが、その被害は台場に集中しており被害はあってないようなものであった。
逆に北部のキリシタン大名に対する処罰が重かった。
処罰内容はキリスト教を捨てることであった。
処罰の理由は「惣無事令の違反」である。
彼らは幕府が許可を出していないにも拘わらず軍を派遣し、幕府が手に入れるはずだった領地にふんぞり返っていたのだ。
対薩摩国戦では早期終結により出番のなかった大砲も九州に顔を覗かせており、例えキリシタン大名で束となって襲いかかっても勝率は1割以下と言われたが、それでも抵抗を示した。
そのため、幕府は彼らに全財産没収の上追放処分を下した。
空いた土地には九州平定で活躍した大名を安堵して、イエズス会の息がかかった者から刷新された。
この翌年、伴天連追放令を全国に布告。
宣教師たちはキリスト教の布教を禁じられた。
幕府にとっての真の敵は薩摩国ではなく、北部のキリシタン大名を裏で操っていたイエズス会だったのだ。
これには宣教師も寝耳に水で嘆願が届いたが、幕府はこれを黙殺。
抵抗するも空しく、宣教師は国外追放の憂き目に遭う。
ただし、日本に在住することや貿易目的で日本にやって来ること自体は禁じていない。
これもあってか、貿易商に紛れて宣教師がやって来ることも多々あり、伴天連目付が発見しては、宣教師を追い出すいたちごっこが続いた。
幕府は民衆の信仰する宗教を調べて宗門改帳に記録し、キリシタンがいれば摘発するなどして徹底的に弾圧した。
密告が奨励され、キリシタンかどうかを確かめるために絵踏によって確かめられる。
キリシタンであることが発覚した場合、棄教するまで拷問は続いたという。
このようなキリスト教徒への過剰な政策は後に大規模な反乱に発展する。
それはともかく、九州平定によって識者の間では一先ず全国が完全に統一され、戦乱の時代は終わったと言われるが、やや語弊がある。
正確に言えば、「内乱の時代が終わった」である。
この後、海外の領地をめぐって欧州各国と鎬を削るのだから、戦いはまだ終わっていない。
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