この力は
宝石の国として知らない者はないと言われるー
女神エル・ティアを主女神としたこの国エル・ティアは他国からの交易で栄えている。
エル・ティアの王国の大臣の娘であるティアは生まれながらにしてある能力があるーー
宝石の声を聞き、宝石に呪いがあれば解呪が出来るというものだ。
正直言って、煩わしい。
この能力のせいで聖女と呼ばれているが聖女等こっちからお断りなのだから…
青の髪に水色の瞳をし、軽くウェーブがかかっている髪はサファイアの加護を受けていると分かるーー「あら?今日も来たわね」
そう言うと扉をノックする音が聞こえた為、入室を許可する。
「失礼します!本日も良い天気ですね!」
「えぇ、本当に良いお天気だこと……それで何か用かしら?」私は笑顔で対応する。
すると彼女は頬を赤めさせ、私を見つめるのだ。
その様子にため息が出る。
(またか……)
毎日のように私の元に来る彼女だが、毎回同じ事を言うだけなのである。
そして彼女が口を開く前に扉の方へ視線を向けると、そこには彼女の侍女の姿があった。
私が目配せをするとその侍女は一礼し部屋を出ていく。
これで暫くすればお茶の準備をして戻って来るだろう。
その間だけでも我慢しようと彼女に向き直ると、いつもより真剣な表情をした彼女と目が合った。
「どうしたのかしら?」
「あのっ……実はお願いがありまして……」
「ふぅん……。貴女の願いなら叶えてあげたいけど、内容によるわねぇ」
「あぁ良かった!!ありがとうございます!!」
「まだ何も言っていないんだけど?」嬉しそうな顔を見せる彼女を呆れたように見返すと、彼女は慌てて姿勢を正す。
そんな仕草を見て思わず笑みを浮かべてしまう。
相変わらず面白い子だと感心していると、再び彼女が話し始めた。
「あの……この宝石なのですけれど……」そう言いながら懐に手を入れ取り出した物は、綺麗に輝く小さな石だった。
それを見た瞬間、ゾクッとする感覚に襲われる。
これは良くない物だと直感的に感じ取ったからだ。
しかしそれを表には出さず、平静を装う。
彼女はこれをどこで手に入れたのか分からないらしいのだが、最近になって頻繁に起こる頭痛の原因はこの石のせいではないかと心配していたようだ。
確かにこの石を見ていると頭が痛くなる気がするが、それはきっと気の所為だろうと否定しておいた。
「まぁそういう事もあるでしょうね。でも大丈夫よ、これくらいの石ならばすぐに治せると思うわ」
「ほ、本当ですか!?」
「えぇ勿論よ。少し待っていて頂戴」
「はい!宜しくお願い致します!」元気よく返事をする彼女を見ながら立ち上がると、先程出て行った侍女がお茶を持って来てくれた。
それにお礼を言い受け取ると、早速作業に取り掛かる事にする。
さっきまで座っていた椅子に再び腰掛け机の上にお茶を置くと、目の前にある小箱を手に取る。
中には様々な色の宝石が入っているが、その中から一つを選び出すと手に持ちじっと見つめる。
すると不思議なことにその色は徐々に薄らいでいき、最後には透明になってしまった。
これには理由がある。
私は呪いを解く事が出来るが、その代償として魔力を消費する事になるのだ。
その為に自分の中の魔力を少しずつ消費しながら解呪をしている訳なのだが、今回はかなり強力な呪いだったので普段よりも多くの魔力を消費してしまった。
その為にこうして休憩が必要になったと言うわけだ。
因みに何故こんな事をしているかというと、以前までは呪いを掛けた相手からしか解く事が出来なかったからである。
それが今では呪いを受けた本人からも解除出来るようになったのだ。
ただその代わりと言っては何だが、その呪いの強さによって必要とする魔力の量が違うらしく、強い呪いであればあるほど大量の魔力を必要とする為に疲労してしまうという欠点もある。
「はい、終わったわよ」
「わぁ!凄いです!あっ……もう痛みはないみたいですね!」
「えぇ、これで安心ね」
「本当に有難うございました!」
「いいえ、気にしないで頂戴」
笑顔を見せお礼を言う彼女に微笑むと、侍女に目配せをして退室を促す。
すると侍女は一礼すると静かに部屋から出ていった。
二人きりになると途端に空気が変わる。それまでは普通に会話をしていたのに、急に黙り込んでしまう彼女の様子を伺っていると何やらモジモジとしているのに気づく。
一体どうしたのだろうかと思っていると、意を決したようにこちらを見つめてきた。
「まるで、聖女様のようですね」唐突に言われた言葉に一瞬思考停止してしまった。
(今……なんて言ったのかしら?)
聞き間違いでなければ私の事を指して言っているのだろうけど…… いや……まさか…… そんな事を考えながら恐る恐る彼女を見る。
聖女なんてものは存在するのだろうか?
私はそんなのは必要なのだろうか…と思うのだーー私の家は代々続く宝石商である。
父も母もそのまた両親も同じ仕事をしており、私の家系はその仕事を継ぐ事になっている。
だから私の代になってもそれは変わらないと思っていたのだが、ある日突然父は新しい事業を始めると言い出した。
私のこの宝石の解呪や声を聞く能力を使い新しい事業を始めた父の地位は揺るがないものとなったのだ。
声を発するというよりは直接頭に響くという感じである。
強力な極わずかな宝石がそれに当てはまるーー
「頼まれても、聖女にはならないわ」
…… どんなに権力のある者だろうと…… 私が従うべきなのはただ肉親である父のみで。
ゆくゆくは歳が近い貴族の男性と婚約するのだろうーー
「…………そう……ですよ……ね……」
「……?」
「あ……あの……すみません……変なこと言ってしまって……」
「いえ……」
「あのっ!ありがとうございます!!そろそろ失礼します!!」
そう言うと彼女は勢い良く立ち上がり頭を下げると、逃げるように帰って行ってしまった。
そんな彼女の後ろ姿を見送りながら、先程の彼女の言葉を反すうする。
彼女は何か勘違いしているようだ。
確かに私はこの宝石の力を使って解呪をしたりしているけれど、別に私は聖女ではない。
他の誰でもない、この世界に生まれ落ちた瞬間から、私は私なのだから。
解呪から数日が経ち、貴族達が集まるパーティーに私も参加しなければならないのだ。