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04_07 クラン結成パーティ前


 今僕らはビーコにのり、第三長城の真上を飛んでいる。

 長城を挟んで右は、色とりどりの丘陵地帯が広がるグランベイ領、左は一面緑の放牧地が広がるロター領だ。

 内陸に行くに従って風が夏の潮風から、かすかに秋を感じさせる軽い涼風に変わっていく。


「真竜ってなすげぇな。七人が乗っても全然余裕だぜ?」


 翼を広げた長さは二回りほど小さくなったけれど、ビーコの体型は鳥形から尻尾を持つ四足獣型になったので、身体の長さがかなり長くなっている。


「かわりに大飯ぐらいになったがな。定期的にグランベイで食いだめしなきゃならん」


「俺たちはその間竜の巣で昼酒でも飲むか!」


 なにか後ろでよからぬ企みが進んでいる。


「うちのクランはティルク人保護が目的だから、招集に応じてもらう以外は基本自由だけど、報告書はあげてもらうからな」


「冗談だ、心配すんな。これからガンガン活躍して銀級の階段を駆け上がってやるぜ」


 ショーンが今までのどこかヘラヘラした笑いから、芯が入ったかのようなたのもしい快活な笑い声をあげて宣言した。

 今までのアルバトロスにはビーコが本来の力を発揮できないため、上昇欲があまりなかった。

 ビーコが回復どころか真竜になり、竜使いのパーティとして本格的に活動できるようになった事はやはり嬉しいのだろう。


「第三十字街が見えて来たわよ」


 先頭でビーコを操るオルミナさんから弾んだ声がする。

 プラントハンターは十字街は初めてだ。

 倉庫街、というイメージしかないけど、どんな所なんだろう。


   ――◆◇◆――


 オルミナさんは十字街から少し離れた所にビーコを下ろした。

 地上からだと野生の竜と竜使いの竜は見分けがつかないので、きづかいというものらしい。

 十字街真下の獣舎にビーコを入れるというのでアルバトロスとは一時別れ、僕らは先にジョージさんに用意してもらったクランの拠点に向かうことにした。


 倉庫街というだけあって、普通の街のように道が入り組んではいない。

 敷地は十字に伸びる長城が対角線になるようにひし形につくられている。

 整然と伸びた道路の両隣に倉庫がならび、その一階には運送業者のための店が入っていたりする。


「この赤いレンガで作られた建物がどうやら私達の拠点らしいですね」


 ギルドなどの施設にほど近い、長城十字路に面した建物を見上げてクローリスが弾んだ声をあげた。

 大きさだけなら領都の大規模ギルドの邸宅に引けを取らない。

 一階部はすぐに出入りできるようにするためか、折りたたみ式のサッシが連なっている。


「ザート、なんだか中が騒がしくない?」


 どこの倉庫が騒いでいるんだと思ってたら目の前の自分達の倉庫だった。

 サッシの窓をのぞくと、確かに中にいるのはバスコ隊の連中だ。

 もしや僕達が到着するのが我慢できなくて勝手に宴会を始めたのか?


 これはさっそく、僕のクランリーダーとしての資質が試される時がきたようだ。

 

「二人とも、中に入るぞ。とにかく話をきかなきゃな」


 頭ごなしというのもよくない。

 ここは一発冗談からはいってみるか。

 僕は喉の調子を確かめてからドアノブに手をかけた。


「おまえら! 宴会を始めるにはまだ早いぞ!」


 一階に響き渡る僕の声でバスコ隊の面々が耳を寝かせてこちらをみた。


「やっべ、クランリーダーだ!」


 それまで騒いでいたメンバーが一斉に壁際に整列した。

 そのおかげで彼らの中心にいた何かが僕らの目に飛び込んできた。


「え、マスター!?」


 割れた人垣の向こうには、グランドルでお世話になったコロウ亭のエンツォさんが大小二刀のホウライ刀を掲げ、バスコ小隊長が壁際でよろめきつつ両端に刃をつけた短槍を構え直そうとしていた。



「お、ザート久しぶりだな。ちょっとまってろ」


 エンツォさんはチラリとこちらを見ると、小隊長の右半身からの鋭い突きを半歩さがってかわした。

 そのまま伸びた小隊長の右腕に左の短い刀を振り下ろす。

 対する小隊長は右手を下げ、そのまま縦に回転するように槍のけら首を持った左手を振り下ろす。


 ちょっとでは終わりそうにない攻防からいったん意識をそらし、壁ぎわでこちらを手招きしている人に再会のあいさつをした。


「フィオさん、お久しぶりです」


 ベージュの光沢があるブラウスに白いタイトスカートをはいたフィオさんが立っていた。

 スリットから伸びる太ももがあいかわらず目に毒だ。


「ひさしぶりぃ、ごめんね、我慢できない二人が一足先にはじめちゃったのよ」


 フィオさんは苦笑いし、腕組みしていた左手をヒラヒラさせた。

 奥さんが静観しているならやめさせる必要はないか。

 事情は終わってから聞けばいい。


 小隊長、バスコさんの双頭短槍は槍にもかかわらず、殆ど穂先をしごき出す動きをしていない。

 長さが両手を広げたくらいしかないあれは槍ではなく、使い方からしてティランジア僧兵が使う杖だろう。

 刀でも槍でも、打ち込みに対して杖は半身になって制し、近接から突くのを基本とする。

 バスコさんは杖の両端に槍の穂先をつけ、双頭短槍とすることで、杖に殺傷能力をつけているわけだ。


 けれどエンツォさん、マスターは、ほぼ零距離から繰り出される穂先をことごとくよけている。

 あせったのか、それまでカウンターを狙ってきたバスコさんは柄を手の内で滑らせ、穂先を回して打ち込みはじめた。


「くっ、ロートル(老兵)がっ!」


 『連打』、『スイッチ』といったスキルを使い、短槍の両端で上下左右に打ち分けるバスコさんの動きはかなりのものだ。

 それでもマスターの十字受けは崩せない。

 それどころか十字でそのまま切りつける攻防一体の打ちに対してバスコさんが受けにまわり始めた。


 まだしばらく打ち合いが続くかと思ったけれど、終わりは唐突だった。


「もらった!」


 バスコさんは浅く入った右手打ちを外に受け流し、左の槍穂をエンツォさんの左肩にたたき込もうとした。

 けれどその右手は長柄の下をかいくぐったエンツォさんの左刀の柄により極められ、引き落とされた所で伸びた首元に右の刀をつけられてしまった。


「終わったな」


「ぐ、うぅ」


 バスコさんが地面に組み伏せられた所で小隊から歓声が巻き起こった。

 小隊長がやられても彼らとしては問題ないらしい。


 得物を手放したバスコさんをエンツォさんが引き起こして抱き合う。


「くそ、全然つえぇじゃねぇか。あんた本当に引退してんのか?」


「引退した人間と戦うのは初めてか? 引退した冒険者っていうのは、戦う理由がなくなっただけだ。スキルだってそのまま残っているから、一時的なら全盛期の動きはできるし、鍛え続けていればスキルの練度だって上がる」


 一応ハグして戦いはやめたけど、バスコさんは渋い顔をして文句をいっている。

 なんで戦ってたのかわからないけど、とりあえず場は収まったみたいだ。

 そろそろ事情を聞いてもいいかな。

 そんなことを思っていた僕の横を豊かな狐の尻尾が追い抜いていった。


「エーンツォ。クランリーダーをほったらかして何のんびり説教してるのかしらぁ?」


 ……おぅ、次は奥さんの説教タイムか。

 マスターと小隊長の耳が寝ちゃってるよ。

 これ僕が割って入る必要ないんじゃないか?




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