04_03 ギルド本部への出向
ここはギルド受付……ではなくて説教部屋、もとい小会議室。
ソファにみっちり座るのは僕、リオン、クローリスのパーティメンバー。
対面のソファに座り、こめかみを指でほぐしながら書類を見ているのは主任受付嬢のアンジェラさんだ。
「……除隊した元軍人をまるごとクランに入れたので最低構成員人数もクリア、アルバトロス加入の際の使役獣登録もクリア、複数拠点等の用件もクリア、不動産権利書その他申請書類にも抜けなし……」
書類をめくる手を止めてため息をついた。
「領都のギルド本部に元皇国軍人がくれば自動的に”白狼の聖域”の銅級中位の冒険者にしろという子爵様の無茶振りも領都本部が了承済みか……」
「なにか迷うことあるんですか? 私の時みたいな特例を適用すればいいじゃないですか。私は本当にパーティを組みましたけど、経験者が実力を見るっていうなら書類上、ザートとリオンがパーティをローテーションで組んで確認したって書類をちょちょっと書けばすぐですよ」
さらりと書類偽装を提案するクローリス。
元職員としてその発言はどうなんだ。
「私は貴方たちの風評を心配しているの。所属すれば貴族のコネで簡単に昇級できるクラン、だなんて噂がたてばたちの悪い輩がいくらでも寄ってきて困るのは貴方たちなのよ?」
あ、書類偽造には突っ込まないんだ。
アンジェラさんが心配している事態は確かに考えられる。
何か対策を考えないとな。
「要は書類上じゃなくて”実力がある”と周囲が認めればいいんだよなぁ」
風評の問題なのだから、クランには実力者しかいないとわからせればいいわけだ。
加入希望者には特に厳しい入団試験とかしてもらうとかかな。
「軍と冒険者では違う所があるから座学は受けさせる。書類上でも銅級冒険者になれば第三長城外、つまり海側のグランベイ領と山側のバーベン領の魔獣を狩れるようになるから、そこで一番難しい依頼をこなして実力をまわりにみせつける。こういう方針はだめかな?」
リオンの提案は正論だ。
「すごいな。皇国の軍人は銅級上位くらいの実力をもっているのか」
正直王国の兵士とは比べものにならない。
「うーんどうだろ。隊伍、つまり平均的な冒険者パーティと同じ五人で訓練するけどスズに勝てる組はなかったね。でも大丈夫、皆ならすぐ出来るようになるよ!」
五人がかりでもスズさんに勝てない……。大丈夫なのか?
いつもの楽天的なリオンの笑顔が、今は無性に恐ろしく感じる。
でもそれができれば文句をいう輩はでないだろう。
軍人なら危なくても撤退の見切りができるだろうし。
「じゃあその方向で。アンジェラさん、今の話でどうでしょうか?」
「それが一番よさそうね。それにしても、さっきまでアルバトロスのビーコが真竜になったっていうので大騒ぎになったっていうのに、今度は三百人規模のクランがいきなり立ち上がるなんて、私達の仕事をどれだけ増やすつもりなの貴方たちは。猫の手も借りたいくらいよ」
そう言いながらクランのプレートを作成していくアンジェラさん。
ちなみに僕らのプレートはさっき更新してもらった。
「やだな、猫獣人ならノエルさんとブランちゃんがいるじゃないですか。みんなで頑張ればいけますよ!」
認可証に魔術加工をしているアンジェラさんにクローリスがぐっと拳を握って笑いかけた。
君はまたそういうあおるようなことを……
「……そうだわ。クローリス戻ってこない?」
ふと、書類をまとめる手を止めてアンジェラさんがつぶやいた。
虚を突かれたのか、クローリスは”ふぁ?”と変な声をあげて固まった。
「我ながらいい案だわ。大丈夫、書類を”ちょちょっと”書けばすむんでしょ? 」
アンジェラさんがにっこりと営業用スマイルを向けてきた。
さっきの”書類ちょちょっと”発言は根に持たれていたようだ。
「え、さすがに自分のクランの認定書類を書くのはちょっと……」
クローリスの腰が引けているけれど、今更おそい。自分の失言を悔いるがいい。
「どうせ特例案件なんだから今更よ。大丈夫。本部のリザの下につけるよう紹介状書いてあげる」
あの切れ者のリザさんの下につくのか……
かなりしごかれそうだな。
……いや、でもクランとしてはアリじゃないか?
クランになれば書類仕事も増えるようになるだろう。
それらをクローリスに任せるのはどうだろう?
「よしクローリス、ギルドに出向だ。クランが出す書類の書き方も学んでこい」
「それって、クランにもどっても書類仕事押しつけられるってことですよね!?」
クローリスの暗赤色の髪がぶんぶんと振られて顔にあたるけど気にしない。
「もちろん。頑張って、クロウなら出来る!」
「その根拠のない出来るって言葉、ブラックですよ! ウチのクラン名、白狼じゃなくて黒狼に変えちゃいますよ!?」
クロウがそんな脅しをしてくるけど、残念、プレートに刻んだクラン名は変更不可だ。
対面ではアンジェラさんが三日月型に口を開け、リザさんへの紹介状をつまんでいた。
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