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03_31 ザートの選択

《ザート視点》


 リオンを射出した直後、水煙の中からリヴァイアサンが首をもたげてこちらをにらんでいた。

 今までの砲撃の間隔はブラフだったか。

 向こうだってバカじゃない、敵が近づいてくれば罠くらいはるということだ。

 食いしばった歯の間から熱い息を漏らす。

 こっちの手札が少なかった、なんて泣き言を言っても始まらない。

 ここからまた最善を尽くすだけだ。


『落城の岩!』


 これも”飛び石”と同じくリオンに名前をつけられた奴だ。

 ネーミングセンスについては、何も言わないでおこう。

 僕の速度に落下速度を上乗せして、古城のがれきがリヴァイアサンに向かっていく。

 これでリヴァイアサンは岩をかわすか攻撃するはず。


 ただ問題なのは、僕にもう大楯を展開する魔力が残っていないということだ。

 敵がさっきまでと同じ砲弾による攻撃をしてきた場合、僕が収納することはできない。 

 収納することができない以上、射線から外れるのが取るべき行動だ。


 でも僕の後ろにはクローリス達が乗る戦艦がある。

 砲撃が当たれば、戦艦は破壊されるだろう。

 それこそ、海底の残骸と同じく、原型をとどめないほど粉みじんに。

 そんな攻撃を受けて、クローリス、アルバトロスの皆、大使、皇国軍部隊で誰が生き残れるのか。


 戦いに犠牲はつきものといって、生き残った人は多分僕を許すだろう。

 味方の誰がしくじって、誰がその割を食ったかなんて、言い出せばキリが無い。

 他人に許されるのは当たり前だと頭ではわかっている。


……

……

……


——戦いにおいて、人が死ぬ原因は、結局のところ迷いだ。


 異界門事変で部下を切り捨て生き残ったという学院の教官は言い切った。


「攻撃か防御か。進軍か撤退か。……味方と心中するか見捨てるか。選べず迷うものはなにも得ることができない。なぜなら土壇場で迷うという事は自分が欲しているものがわかっていないからだ。そして”迷い死”していく」


 迷い死という言葉はこの教官がよく使っていた言葉だった。


「迷った者はたとえ偶然勝ちを拾っても、何が欲しいか分かっていないため、喜びに浸れず、一生喪失感を抱えて暮らすことになる。何かわからないけど、何か失ったかもしれない。そういう不安に苛まれて暮らすことになる」


 けれど教官は切り捨てたはずの部下への罪悪感からか、教官の職さえ辞した。

 まるで自らを罰するように、古い異教の修道僧となったという。

 他人は許しても、自分が許さなかった。

 彼みたいに切り捨てたものに一生しばられるなら、それも”迷い死”じゃないのか。


 切り捨てようが切り捨てまいが死ぬのなら、僕は最初から選ばない。

 傲慢でも、その先が途切れていようとも、全員が生き残る道を選ぶ!


 瞬時の走馬灯から目覚めた僕は首元のエアバレルを身体強化した指で破壊した。


——今回贅沢な道を選べるのは、勝ちが見えている手段があるからだ。


 飛び出した六個の圧縮凝血石を収納してバックラーのチャンバーに転移装填。


——この先勝ち筋がみえない場面がでてくるかもしれない。


 減速ヴェルサスでリヴァイアサンの目の前で止まる。


——それでも僕は選ばない、切り捨てない道を選ぶ。


『大楯!』


 まるでコトダマのように全力を願いながら書庫の取り込み口の名を叫ぶ。

 大楯がかつて無い厚さになったせいで、見上げても先は見通せない。

 ブルーモーメント色の空を見上げている錯覚を覚えていると、リヴァイアサンの銃口の奥が、暁の明星の様に光るのが見えた。


 体内魔力が通る流脈への負荷が一気に高まり、激痛が身体を襲う。


 一瞬だけど、確かに僕の目の前には大楯を突き破ろうとする巨大な砲弾が見えた。

 魔素か質量か他の何かか、一度に収納できるものにもやはり限界があるのか。

 かろうじて収納した砲弾の代わりに現れたのは、首をもたげかけたリヴァイアサンの苦悶の表情だった。


 リオンのマガエシがリヴァイアサンの身体を貫いたのだろう。

 さっきのソードロブスターのように、リヴァイアサンの身体が翠色にひかりながら砂になっていく。


 その中に、巨大な赤黒い塊がいくつもあるのがみえた。

 サイモンはともかく、グレンデールも凝血石はおとしているからリヴァイアサンも持っているとはおもったけど、複数なのはなぜだろうか。

 

「考えても仕方ない、迎えに行くついでにしまっていくか」


 エアバレルの濃縮凝血石でふたたび余裕ができたので、加速しながら凝血石も、翠色の光もまとめて回収していく。

 行けども行けども続く光は、リオンが切り開いていった道だ。


 父であるミツハ少佐の志をついで、異界門事変の痕跡が残るブラディアの地で冒険者となり、皇国の駐留軍が撤退する時になっても、なお皇族の義務としてこの地の臣民を助けようとしてきた。


 偶然に助けられた所もあったけれど、スキルを手に入れ、実質牙狩りになれたのは彼女が諦めなかったからだ。

 そして、これはパーティの、クランの活動の始まりにすぎない。

 リオンが切り開く光の道がこれからも続いていく事を願いつつ、僕は視界の先にいるリオンを見上げた。


 こちらを見下ろすリオンは剣をだき、銀髪をはためかせながらエアバレルを外す。

 両手を差し出すその表情は一つの仕事を成し遂げた喜びに満ちて、今までで一番の笑顔だ。

 

『ゲイル!』


 落下する身体を下からの突風で一瞬浮かせ、そのまま右手で肩をひきよせ、左手で膝をすくい上げた。

 一瞬驚いたリオンだったけど、そのまま身体を小さくして腕の中に収まった。


「お待たせ」


「待ってないよ」


 右腕の中のリオンは先ほどとは表情を変え、ぐっと眉根を寄せ、口元をぎゅっと結んでこちらを上目遣いに見ていた。

 その表情は怒っているようにも、何かを我慢しているようにも見えていた。

 その表情を見て、つい目元がゆるみ、無意識に言葉が口をついて出た。


「頑張ったな。これで父さんと同じ牙狩りになれたな」


 口にしてから少佐の事を父さんと言って良かったのか考えていると、意表をつかれたように見開かれた目は潤み、リナルグリーンの瞳は輝きを一層強くさせた。


「っ! 頑張ったよ私!」


 リオンが遠慮のない力で首にひしとしがみついて、僕の肩越しに海に向かって大声で泣き声を上げている。

 泣かせてしまったけど、多分悪い涙ではないと思う。

 笑っていても泣いていても、結局彼女には素直でいてくれるのが僕は一番嬉しい。

 だから、今は心のままに泣いてくれていて安心している。


 もっとも、この涙を他の人にも見せたいか、といえば見せたくはない。

 だから、こちらに近づいてくる皆の待つ船には少しだけゆっくり戻ることにしよう。

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