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03_27 鞘の回収


「なんですと? 確かに、牙狩りには帝より三刃さんじんの鞘が下賜かしされますが、それ自体がマガエシに必要だったとは……」


 今僕らは工房に戻り、テーブルをかこんで情報交換をしている。


 三刃の鞘というのが例の鞘の正しい名前らしい。

 大使は本当は同盟破棄の報告と一緒に、リオンを皇国に連れ帰ろうとグランベイに立ち寄ったという。

 けれどリオンがマガエシを使い、牙狩りの要件を満たすとなれば話は別らしい。


「交渉が決裂したといっても、元々同盟に反対だった第一王子派の力が強まったためですからな。殿下が牙狩りとなれば完全に同盟が崩れる前に交渉も再開されるでしょう。そもそも、同盟は帝国との戦争を避けるためのもの。どちらがより得をするか、という話ではないというのに……」


 あの外交音痴めが、と大使が愚痴をこぼす。


「ムツ、交渉は苦労したでしょうけれど、宰相はそんなに強硬に同盟破棄を申し入れてきたんですか?」


「はい、まるで今までは同盟を組ませてやっていたと言わんばかりの態度でした。いつのまにあそこまで増長したのやら」


 大使は大げさな身振りでため息をついた。端正な外見に似合わず激情家らしい。

 そして皇国の姫にあたる”候主”の立場のリオンの口調ってこんな感じなのか、と妙な感慨を覚えてしまう。

 大使からもたらされた情報をかみ砕くように、リオンが長い指を口元にあて、考え込んでいる。


「まるで王国だけで帝国に対抗できるかのような口振りだけど……もしかしたら皇国なしでも対抗できる見通しがたったのかもしれない」


「殿下、なにかお心当たりでも?」


「ザート、ロター港で見たあの装備が大量にあれば、王国は単独で帝国と戦えると思う?」


 なるほど、バルド教が準備しているという法具のコピーの事か。

 王国にはエルフ降誕の聖地に建てられたカテドラル・アルドヴィンがあるように、バルド教と関係が深い。

 王国がバルド教の装備を使う可能性を考えているのか。


「銃と甲冑だけでは帝国に勝つのは難しいと思う。ただ、他にも量産法具をもっているなら戦える可能性は十分にある。バルド教と王国が深くつながっているなら、魔法考古学研究所の法具を借りられる。もしかしたら研究所自体が法具のコピー、量産に関わっているかもしれない」


 僕とリオンがロター港でバルド教と対峙した経緯を話すと、大使の顔がみるみる赤に染まっていった。


「バルド教が凝血石の流通を独占しようと考えていたとは……そのような事になれば、どの国もバルド教の言いなりになってしまう!」



「異教徒のティルク人は今よりもっと立場が悪くなるわね……」


「信徒になって冒険者を続けられても、そうとうお布施をふんだくられるだろうて」


「くそっ、異界門事変の時は凝血石を出し渋ったくせによ!」


 アルバトロスのメンバーも冒険者を待つ暗い未来に危機感を抱いているようだ。


 僕も、頭の中で状況を整理した。

 今回の同盟破棄には、バルド教とその信者である宰相がかかわっている。

 同盟を破棄させ、帝国との軍事的緊張が高まった所で法具のコピーを”神聖なエルフの武器”と称して王国軍に貸し出す。


 弓矢より強力な銃だけでも、軍の戦力は大幅に向上する。

 終戦後にバルド教は自分達が神聖な武器で国を守ったと宣伝するだろう。

 さらにはその武器は信者だけが使えるようにすれば、バルド教は生活に欠かせないエネルギー資源を独占することができる。


 自分達が権力、権威を手にするために戦争をしたい。

 そのため、皇国との同盟は邪魔になったということだ。


「これは私の裁量の範囲を超えております。皇国にもどり主上に奏上いたさねばなりますまい。往復するまで半年前後はかかります。駐留軍はまだ残してありますが……」


 そこまでいって言いよどむ。

 その前に戦争が始まれば、皇国人やその他のティルク人がどのような扱いになるかわからない。


「ムツ、分かっています。もとより私が言い出したことです。万が一の時の邦人保護はこれから作るクランで協力します。そのためにも、三刃の鞘はどうしても手に入れなくてはなりません」


 リオンの言葉に大使が即座に反応する。


「かしこまりました。それでは、これより鞘を海中より回収するため動きましょう。船はいつでも出せます」


 出発は明朝にきまった。リオンの悲願がいよいよ叶うのか。

 



 グランベイ港を出発してから四日がたった。

 今遠くにみえるのは、王国のあるアルバ大陸とティランジア諸国があるレビ亜大陸を分けるバフォス海峡だ。

 バフォスの街は海峡の両岸に広がっている。

 そこから三デジィ西に行った場所に、今僕らを乗せた皇国の軍艦が錨を降ろしている。


「水深は三十ジィといった所ですね。かなり深いですが、大丈夫ですか?」


 船艦から下ろした小さなボートの上で、測量をした船員が不安そうな目を向ける。

 船乗りでも、趣味でなければ潜水するのは五ジィくらいだ。不安になるのも当然だ。


「ザート、敵にあった時の想定の確認をしっかりしていってね」


「エアバレルの残量は常に見ておいて下さいね。魔獣に閃光弾を使った時は念のため、一度海面に上がって下さい」


 リオンが、不安からか手を白くなるまで握っている。

 クローリスも自分が作った魔道具について何度も説明してくる。


「油断はしないけれど、ここに来るまでの間に水深四十ジィも経験している。水魔法での水圧管理も問題ない。魔道具も、エアバレルの交換も含めて練習した通りに使うよ」


 いよいよ本番なんだという実感が湧いてくるな。


「それじゃ、行ってくる」


 僕は水上で手を振り、海中にもぐった。


   ――◆◇◆――


(おぅ……)


 海底が白い砂だからか、思ったより見通しは良い。

 周囲の砂には船の残骸がそこかしこに転がっている。


(それにしても、あれが竜骨だろ? 船が原形とどめてないって、どんな海戦したらこうなるんだよ)


 マストらしい円柱の向こうに、ゆるくカーブを描く木材が海底に横たわっていた。


(沈没船は二隻あるんだ。まずは片っ端から回収していこう)


 クローリスから、”難破船の場合、海流の上流には重いものが、下流には軽いものがおちているはず”ときいている。

 確かに、足下には小さな木片が散らばっていて、竜骨に向かって残骸が伸びている

 周りに何かあるんじゃないかと思い、大楯でまとめて回収してしまう僕は貧乏性かもしれない。


 こうしていくうちに、次第におちているのは大きな破片、食材の入った樽、チェスト、鉄製の武器となっていった。

 

(竜骨は……ハズレか)


 竜骨の周辺を回って、ついでに竜骨自体も収納もしたけれど、”三刃の鞘”という名前のものは回収出来なかった。

 となると、イカリか。

 クローリスの世界にも、同じような状況で、イカリに身体をくくりつけて沈んだ騎士がいたらしい。


(一隻目はハズレだな)


 イカリはみつかったけど、なにもついていなかった。

 仕切り直しだ。


(と、バレル交換しなきゃな)


 口元の、ラバ島で使ったエアバレルより大きな凝血石カートリッジをカチリと回す。

 凝血石を6つ、リボルバー形式で交換出来るようにした改良型のエアバレルだ。


 一度海面近くまで上がって残骸を探すと、右側に一筋、残骸の帯が続いていたので回収していく。

 さっきのものより豪華な品が多い気がするな。

 だとすると、こっちが本命の旗艦か。


 海底を進んでいくと、ゴツゴツした岩が目立ちはじめ、とうとう岩の上に残骸が乗っている状態になった。

 残骸の帯を見失わないように慎重に進む。

 岩にはさまったホウライ刀を回収していると、水流が変化したような気がした。


(なんだ?)


 風上に向かうように水流に逆らって進むと、岩に幅十ジィほどの裂け目があって、そこから大量の水が吹き上がっていた。

 書庫からさっき回収した木片を数個取り出し、水流にさし込んでみる。

 木片は複雑な軌跡をえがき、二個はあっというまに上っていき、一個が裂け目に吸い込まれてしまった。

 こんな複雑な水流を大楯でさばけるだろうか?

 いや、やめよう。

 岩の裂け目に吸い込まれるなんてぞっとする。


 興味本位で崖下をのぞき込むと、暗闇が口を開けていた。


(海ってこわいな、こんな所もあるなんて……ん?)


 ふと対岸をみると、崖の中腹に不自然な人工物が見えた。


(おいおい、うそだろ?)


 見つけた。

 堂々としたイカリと、それにくくりつけられた皇国の鎧がある。

 あの亡骸の人物が二人目の牙狩りで間違いなさそうだ。

 それにしても、この水流の中どうやってあそこに落ちたんだ。

 あれじゃ敵も味方も取りにいけないだろう。 


 目標を目の前にして壁にぶち当たってしまった。

 大楯を手の平と平行にしてイカリまで届かせようとするけど、僕が今出せる大楯は十五ジィ四方だ。全然届いていない。

 なにか手はないかと考えるけど、名案が思い浮かばない。


(くっ、いっそ大楯が伸びれば)


 悔し紛れにそう考えた瞬間、大楯が拍動し、大楯の幅が狭くなっていき、大楯の先がずいと伸びていった。

 これなら届く。上から下に腕を振るうとイカリと鎧を収納することができた。

 大楯にまた新しい機能が追加されたな。

 急いでたった今収納した物を確認しよう。


==

・イカリ

・皇国の鎧(所有者:コトガネ)

遺骨コトガネ

・三刃の鞘(※※※)

==


(よしっ!)


 三刃の鞘を手の中に取り出すと、0・3ジィほどの、模様が打ち出されている鮮やかな緑色の半鞘だった。

 静かに握りしめ、目的のものが確かに手に入った事をかみしめる。


 けれど、喜びは船にもどってリオンに渡すまで取っておこう。

 大楯を延ばすという使い方も覚えたし、成果は十分だ。

 このまま何もないうちに帰ろう。


 そんなフラグを立てたのがいけなかったのか。


 三刃の鞘をしまった所で、暗い海の底から白くて長いなにかが上がってくるのが見えた。


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