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03_19 沈没船内部探索


 沈没船の処理から戻った僕らはギルドに完了の報告をした。

 タイラントオルカがいた件も一応報告したけど、ギルドが出来る事は船への警告くらいしかない。

 海棲魔獣はこちらから出向いて討伐できるものではないからだ。

 被害者も僕以外出ていないし、これについては一旦忘れよう。


 小さな岩を踏み、大きな岩を登り、プラントハンターの三人はグランベイの丘陵地帯から少し外れた、南岬の延長にある崖の下の谷を進んでいる。

 この辺りの岩崖に囲まれた地形は隠れるにはもってこいで、今年の冬あたりまで冒険者くずれの盗賊がねぐらにしていたらしい。

 けれど彼らがすでに討伐されているので、利用する人は誰もいない。


「この辺でいいんじゃないかな?」


 リオンが周囲を見回し、人が隠れる場所がない事を確認していった。

 横幅十五ジィ、縦幅五十ジィといった所か。広さも十分すぎるだろう。

 ここに昨日回収した沈没船を書庫から出す。

 なぜなら、タブレット上の沈没船をあれこれしてみても、中身を取り出す事ができなかったからだ。

 だから一度外に出してみようという話になった。

 

「そうだな、じゃあここに沈没船を固定する台をつくってくれ」


 リオンの土魔法により、谷底にV字型の土の台座ができていく。


「じゃあ、船を乗せるぞ」


 台座に沿うように大楯を動かしていき、巨大な沈没船をゆっくり書庫から取り出した。

 終えて見てみると、でかい。海中ではわからなかったけど、こんなに大きな船だったのか。

 こんなの人目のある場所で出せないな。

 横八ジィ、縦三十二ジィの堂々とした姿が現れると、三人とも無言になってしまった。


「この辺りで見る船と少し違いますね」


 あごに手を当てたクローリスのつぶやきで我に返ったので改めて眺めてみると、確かに少し角張っているというか、曲線が少ないような気がする。


「そういえばギルドマスターが、この船はホウライ皇国の武装商船だっていってたな」


 帝国の船と艦隊戦をやって、港に入れたのはこの船だけだったというけれど、乗員はどうなったんだろうか。


「えっ、初耳ですよ! それじゃこの中って貴重なホウライ皇国の交易品が入ってるんじゃないですか!? ラバ島の漂流物もまだ終わっていないのに、また増えるなんて……。これ、今年の夏は魔獣討伐をせずに終わりませんか?」


 これからの作業の多さを予想してか、クローリスがよろめく。

 さすがにそれはないぞ?


 飛び級をしまくった自分達がいうのもアレだけど、魔獣を倒して凝血石の納入することでギルドに貢献することが位階を上げる条件だ。

 しかし流されていることも事実。

 この件が終わったら積極的に魔獣狩りに出よう。


「わかった。定期的に魔獣討伐の日を設けよう。今日の所は船内から品物を取り出してしまおう」


 近づいて船の壁を叩いてみる。

 フジツボなどで覆われているけれど、木自体はまだ全然腐っていないみたいだ。

 これなら崩れる心配も無いな。


「なるほど、そういうことならやっちゃいましょうか! ……で、どうやって入るんです?」


 銃剣から外したホウライ刀を片手に、足取り軽く船尾から船の左右を見たクローリスだったけれど、船の周りに人が入れるような穴がなかったらしい。

 この船は戦闘後、ゆっくりと沈んでいったらしいからな。攻撃で開いた穴も小さかったか。


「リオン、悪いけどもう一回土魔法を使って、今度は船の甲板に上がる階段をつくってくれないか?」


 横が駄目なら、入るのは順当に甲板から入るのがいいだろう。

 そう思い、上を見上げていたリオンに呼びかけたんだけど反応がない。

 また珍しい物をじっと見るクセが出たんだろうか?


「リオンー、きこえてます?」


「うわっ! ごめん、もしかして呼んでた?」


 クローリスが近くで手を振ってようやく我に返ったみたいだ。

 相当集中していたな。


「呼んでましたよー。ザートが、船の中に入るから階段をつくってくださいって言ってます」


「う、うん。わかった」


 リオンは返事とともにコトダマを唱え、船の左側に船の台座と同じ土でできた階段をつくった。


「よし、じゃあ行ってみようか」



 甲板からまず船長室に入ったけれど、めぼしい物はなかった。

 当時、船はゆっくりと沈んでいったらしいから、船長が貴重品を持ち出す時間は十分あったのだろう。

 とはいえ、船長室は貴重なものの宝庫だ。

 隠し棚とかあったかもしれないから、念には念を入れておこう。


「大楯で上から下までまるごと収納ですか……細かいゴミの仕分けなんてしませんよ?」


 クローリスが呆れたようにジト目で釘を刺してくる。


「船長室だけだよ。他の船室は選んでもっていくさ」


 ちょっとだけ申し訳なく思った。

 たしかに、これ以上作業時間を増やすのはまずいな。


「じゃ、船室をみながら最下層の船倉を目指そう」


 交易品は港に着くまで動かさないので、重石であるバラストと一緒に最下層にあるのが普通だ。

 ただ、そこまでは他の厨房や船室などを通っていく必要がある。


 船長室のある船尾楼から下に降りる階段を進んでいく。

 まっすぐのびる廊下にはドアが並んでいる。

 殆どは脱出時の混乱のせいか、開け放されている。

 蝶番もかんぬきも、金具は腐食してボロボロだ。

 今日が曇りということもあって、陸の上でも船内は暗く気味が悪い。


「うぅ……おばけ屋敷って苦手なんですよねぇ……魔獣が出ないのが救いですけど」


「クロウ、魔獣じゃなくてもスケルトンやゾンビは出るからな?」

 

「なんで出るんですか! 魔素だまりでもないのに!」


 クローリスの勘違いを訂正してやると、僕のせいじゃないのにキレられた。


「なんでもなにも、死体や骨には”起き上がる”奴がいるんだよ」


 こればかりはそういうものとしか言えない。

 骨や死体の一部はスケルトンやゾンビになる。

 人が近づけば動き始め、ある程度動き回ったら力尽きるように死体へと戻る。

 だから葬儀において内側から開けられない棺桶なんてものが使われるのだ。


 異世界人で葬式に出たこともないだろうクローリスは知らなくても当然だ。

 ちなみに戦争などで大量に死体がでた時には燃やすか首を切っておく。


「だから気をつけていくぞ? 船室から不意打ちを食らってけがをするかもしれないからな」


「スケルトンは首をはねれば平気だよね。私がやってもいいかな。それと、遺体なんだけど……」


 クローリスに説明をしていると、リオンがいつの間にか前にでて精霊の炎刃を手にしていた。


「ああ、もう一度収納してどこかに埋めてあげよう。首を切った後なら起き上がらないからな」


 遺品を取っていくのに礼儀も何も無いけれど、埋葬くらいはやっておきたい。

 方針を伝えるとリオンはほっとしたようにうなづいた。


「じゃあ、さっそくやってくれ」


 僕がドアを開けると、そこにはいきなりスケルトンがいた。


「ひぃ!」


 クローリスが驚きつつもバックステップで間合いをとる。

 リオンは落ち着いて精霊の炎刃を斜めに切り上げ、スケルトンの頭部を身体から離した。


「ザート、お願い」


「わかった」


 僕は船室に入り、スケルトンの欠片と、ついでに目に付いたたばこ入れを収納した。


   ――◆◇◆―― 


 船室を順調にめぐり、白骨死体、時々スケルトンを収納していき、ついに船倉に到達した。

 もうクローリスもスケルトンになれて、船倉に残っていたスケルトンの首を飛ばしている。


「それにしても、ちょっと予想以上ですねぇ」


 スケルトンを倒し終わると、クローリスがため息をついた。

 目の前の空間にはホウライ刀を初めとする大量の武器やスケイルメイルの材料らしい鉄片、そのほか多くの防水処理がされた壺や木箱が転がっていた。

 例えばこんな感じだ。

==

・防水壺(顔料・香料・粉末薬・茶・火薬)

・防水櫃(扇・漆器・蒔絵・真珠・螺鈿)

==


 遠慮無く回収させてもらったけど、こんなものがいくつも転がっているのだ。

 そりゃため息もでる。


「さて、細かい確認は後にしよう。目的も果たしたし、出ようか」


 船の横腹に近づいて魔法の準備をする。


『ロックパイル』


 数回岩の杭を木の壁に打ち込み、開けた穴から外に出た。


   ――◆◇◆――


 帰り道の途中、人の背丈ほどの大きな石が落ちている場所を見つけた。

 丁度いいのでここを墓にしよう。

 大きな石を祭壇にして、両脇に穴を掘ってスケルトンの骨を埋めれば格好がつくかな。


「できれば故郷のやり方で葬ってあげたいけど、皇国式なんてしらないからなあ」


「皇国が私のいた日本と同じなら骨壺に入れるんですけどねぇ……」


 埋葬方法をどうしたものか悩んでいると、それまでだまって土魔法をつかっていたリオンが顔を上げた。


「皇国式なら、今クローリスが言った方法であってるよ。壺に入れて大きな石の下に入れるんだ」


 そうなのか。

 料理の食べ方だけじゃなく、埋葬方法まで知っているなんて、リオンは本当に博識だな。


「さすがリオン、よく知ってたな。壺はないけれど、丸いくぼみを作って入れてあげよう」


 僕が一体ずつ骨を入れていき、リオンが土をかぶせていく。

 墓標として回収しておいたバラストの石をのせた。


「よし、これで皇国の人達も安らかに眠ってくれるだろう」


 手を合わせて冥福を祈る。


「埋葬方法は別でも、祈り方は皇国もバルド教も変わらないんですね」


 目を開けるとクローリスが僕の手元を見ていた。


「いや、正式なバルド教の作法だと両手で腕を抱え込むようにするんだ。僕のは……家に伝わるマイナーな方法だよ」


 もともとこうしていたけど、冒険者になってエルフとバルド教と対立するようになった今、なおさらバルド教の作法をする気にはなれない。

 それにしても、シルバーグラス一族の作法は皇国と同じなのか。

 奇妙な縁を感じながら、今度こそ僕らはグランベイへの帰途についた。



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