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03_14 グランベイ 発掘調査結果発表


 ジョアンの書庫のタブレットを浮かべて、そのすぐ上に手の平をかざして風を送り続けている。

 日課の魔法収納だ。


「……」


 あんな刺激の強い光景を見せられたので、とうぶん悶々として自己嫌悪と人間不信になりそうだ。

 今だと何を言っても恥ずかしくなりそうなので黙って日課を続けている。


「ザート、ごめんね」


 今、リオンはユカタという服を胸元まできれいに閉じて着ている。

 コルセットのような太い布のせいで身体のシルエットが出ているけど、これが本来の着方らしい。

 本当に心臓に悪い。


クローリスも着方を直している。


「ごめんなさい。ちょっとからかいすぎました。これザートのです」


 日課の魔法収納をやめてクローリスに向き直った。

 無言のやめどきがわからなかったけど、丁度よかった。

 クローリスから水着だというものを受け取る。


「ありがとう……それで、三人分の水着を作ったっていうことは海で泳ぎたいんだよな?」


「そうです。海を東に進んだ先にラバ島っていう島があって、きれいらしいんですよ! ……冒険者の仕事を休むことになるのでプレゼントするつもりで水着をつくりました!」


 またしょうこりもなくユカタを開こうとするのをやめさせる。

 なるほど、受付嬢の娘達がバカンスにいくと言っていた島か。

 たしか島の南半分にラグーンが広がっているから一日中明るいとか。

 砂州が長く伸びていて貝殻拾いが楽しいとか。


 漂着物も多いだろうし、行かない手はないな。

 しかしさっきの色仕掛けに乗って、行くのに賛成した風になるのもしゃくだな。


「わかった。今からふところに余裕があるか一緒に確認しようか」


 ちょうど地下すくいの説明もする必要があるし、結果的に手間が省けるだろう。


「やった、そろそろだと思ってたよ」


 リオンがソファの前のローテーブルの上に布をしいて準備を始めた。

 リオンもこの楽しさにすっかりはまったようだ。


「え? パーティ資金なら数字だけ教えてもらえれば済むんじゃないですか?」


 L字ソファの曲がった所にすわり、クローリスを左に座らせる、リオンが反対側に座る。これで三人でタブレットを囲めるだろう。


「まぁ、ザートの仕事のついでというか、プラントハンターの隠れた収入源だよ」


 確かに、地中のものを収納する本来の目的は、魔法を使うのに必要な魔砂の回収だからな。間違ってはいない。

 ジョアンの書庫のタブレットを目の前に出し、三人で見れるようにする。



【武器】

【魔法】

【貨幣】

【凝血石】

【装備品】

【料理】

【食材】

【薬草】

【道具】

【消耗品】

【魔道具】

【素材】

【特殊魔道具】

私物リオン

私物ザート

私物クローリス

【思い出の植物】

【売却予定品】

【新規収納品】


「今書庫はこういう風にしているな」


「うん、前にいじらせてもらった時と同じですね」


「一例を見てもらった方が早いな」


 ここで、【新規収納品】のフォルダを選ぶ。

 ”フォルダ”とかそういう名前はクローリスに教えてもらった。


【新規収納品】

【道具】

古代の壺:アルバ魔法文明の一般的な壺


「古い壺? もしかして骨董市の掘り出し物が収入源? ほう、なるほど。鑑定チートの定番ですね」


 何やらクローリスがしきりにうなずいている。

 骨董市か。書庫の鑑定は普通の鑑定とは違って一度収納する必要があるから、人前じゃ無理かな。

 まあそれは今はおいておこう。


「これは買った物じゃなくて、グランベイの海岸の砂の下に埋もれていたのを収納で回収してきたものなんだ。そしてこれも埋もれていた」


壺を再び収納してタブレット画面を見せる。


【凝血石】

凝血石(魔砂)×3000

凝血石(低位)×20

凝血石(中位)×15

凝血石(高位)× 8



「凝血石がこんなに……高位凝血石を持つ魔獣なんてこの辺りにはいないはずなのに」


「いないものは倒せない。これらは倒さずに砂浜に埋もれていたんだ」


 クローリスが食い入るように画面を見てくる。

 暗紫色にした髪のせいで白さが際立つうなじが目に毒だ。


「ザートは普段から地面の下に書庫の入り口を開けて歩いているからね。無作為に地中のものを発掘してるんだよ」


「普段から……なるほど、トロール漁法ですね」


 異世界ではこういうのをトロール漁というのか。

 今度から地下掘りはそう呼ぶことにしよう。

 向こうの世界には漁をするトロールがいるんだろうか?


「地中から凝血石をとっていたからザートは魔法を気軽に使ってたんですね。魔素が有限な世界ではこれもチートですね」


 他の魔術士は常にコストパフォーマンスを気にして魔法を使っている。

 その点僕は地中から魔砂という形で直接魔素を回収しているから、魔法を気兼ねなく使っている。

 チートといわれれば確かにそうかもしれない。


「ねぇ、もう待ちきれないから早く他の品も見ていこうよ」


 唇をとがらせたリオンに促されてしまった。

 確かに、クローリスへの説明に時間を取られてしまった。


「まあ、そんなわけで、売れそうな物が今書庫に入っているはずなんだ。早速見ていこう」



 さくっと宣言を終わらせて発掘品の内容を見ていくことにする。


「ラバ島でのバカンスもかかってますからね!」


 ぐっと小さい手で拳をつくるクローリスの鼻息はあらい。

 さて、見ていこうか。ソートっと……


【武器】

さびた広刃刀

さびたエペ

スピアの穂先

……


「みんなさびてましたね……」


 クローリスの沈んだ声が痛い。

 出足をくじかれた。最初に出すカテゴリを間違えたか。

 一応数本ずつリオンにも目利きをしてもらったけど、やはり錆が深くて使い物にならなかった。


「ま、まあ僕らは武器を新しくしたばかりだし、こいつらは鉄塊にでもして何かに使おう。次」


 しかし武器でケチがついたのか、その後の品も語るに値しない平凡な品か、ガラクタだった。


「うーん、こんなものだったかなぁ……うん?」



……

【道具】

船箪笥(破損)

浮きトランク(破損)

抱え柩(破損)

……


 道具の項目を流し見ていた時、違和感を覚えて指を戻した。

 ここに表示されたのは、いわゆる宝箱の破損した残骸……ということは!


……

【貨幣】

金貨 ×二十八枚

銀貨 ×四十五枚

小銀貨×二百三十五枚

……


「お……おおおおー!」

 

 クローリスが先ほどまでのがっかり感を吹き飛ばしてテーブルの布に出した時代も国もまぜこぜな貨幣の山を見てテンションが上がっている。


「詳細情報によれば、つぶせば王国貨幣に換算して九十四万ディナになるらしい……」


 どんな理屈なのか、鑑定による詳細情報がより親切になっている。

 うーん、経費なしでこの金額が入ってくるとちょっと怖いな。


「ザートのビーチコーミングって正直エグいですよね……」


 数字をきいて実感が湧いてきたのか、クローリスが冷静になってきた。


「まあ、な。でも金級なんてこの金額の何倍も月に稼ぎ出すからな。狩人をめざすなら驚いてもいられないぞ」


「今の銅級冒険者の身には過ぎた金、ですね」


 なんだろう、クローリスが冷静になった、というより落ち込んできたな。

 あからさまに肩を落としてうなだれてしまった。


「どうしたのクローリス?」


 心配するリオンの声にクローリスが力なく微笑む。


「ええ、帝国でクランにいた頃を思い出してました。元の世界で一般市民だった人達が成金になった時、色々嫌なもの見てしまいまして……さっきの凝血石や金貨はザートが稼いだお金なのに、バカンスにいけるってはしゃいでた自分も同類なんじゃないかって恥ずかしくなってしまいまして……」


 ああ、なるほどな。

 ブラディアの冒険者は等級と活動できる領地がそろっているから、あまり一攫千金の成金は生まれづらいけど、グランベイで大きな山をあてた小商いの商人が嫌な奴になったという話はあったな。

 その、同郷人の嫌な奴らの事を思い出したのか。


「そうか……」


 しかたない。誤解というか、不安は取り除いておこう。

 そんな顔をされるとせっかくの調査結果が楽しめないし。


「クローリスはパーティにしっかり貢献してるんだし、同類じゃないと思うぞ。それにラバ島にはやっておく仕事があるからな」


 最後まで結論は引き延ばしておきたかったけど、仕方ない。

 

「え? 依頼ですか?」


 自己嫌悪と予想外の宣言に戸惑っているのか、クローリスはどうもピンときていないみたいだ。


「ザートはラバ島の海岸も掘るつもりなんだよ。それで収支が黒字なら行っても問題なし……ってことでしょ?」


 リオンが確認してくる。


「そう、むしろ僕だけ行って目立つのは困るし。私的な冒険者活動だからね。周りにはバカンスってことにして一緒に来て欲しい」


 アシストしてくれたリオンに乗っかって口裏も一緒にあわせる。

 書庫を周りには秘密にしている以上、僕達がラバ島にいく理由はバカンスにするしかないのだ。


「じゃあ最初から行くつもりだったんじゃないですか! なにが”財布に余裕があるか見てみよう”ですか!」


 クローリスはユカタの袖をつまみ、膝を詰めて怒ってくる。

 昔の嫌なことを思い出させてしまったし、結果的に悪いことをしてしまった。

 

「もったいぶりたかったんです。ごめんなさい」


 素直に白状して許してもらった。

 サプライズって難しいな。






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