03_11 銃剣の完成
書庫内の弾丸についてはあっさり取り出すことができた。
活躍したのはクローリスだ。
「まさかこの世界でダブルタップとかすることになるとは思わなかったです」
クローリスの世界では一人一台、タブレットを持っていたらしい。
収納機能などはないけれど、主に情報をやりとりするのに使っていたという。
クローリスが書庫のタブレットを操作した結果、弾丸が
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名称:火属性弾丸
状態:飛翔
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このように表示され、『状態:飛翔』を分離できるようになった。
分離のほかにもいくつか出来るようになったことがあるので、順次つかっていこうと思う。
「弾丸表面の紋様の解読はリオンに頼むよ」
「うん、まかせて!」
クローリスの見つけた操作『状態分離』をした弾丸を書庫からだしてテーブルの上にのせると、リオンが楽しそうにうなずいた。
「じゃあ私もリオンの手伝いをしますねー」
「いや、魔道具修理が先だろう? 手伝いはそれが終わってからな」
歯ぎしりするクローリスにため息まじりに釘をさし、工房の書棚から魔法陣用例集を取り出して広げる。
オリジナル法具と思われるサイモンの銃と僧兵から得た六丁の銃に入っていた魔法陣と比較するためだ。
プレートは書庫に入れて鑑定もして、分かったことをノートにまとめていく。
結果、オリジナル法具の銃は、やはり魔法陣も古代のものだった。
弾丸を飛ばす理屈も今の僕にはまったく想像出来ず、未知の部品もあった。
もしかしたらこれが魔力制御転換装置、というものかも知れない。
あとでパーティ全員で考えようと思う。
そして法具の銃にくらべれば複製品の方はわかりやすかった。
プレートの魔法陣も用例集の亜種程度なので、研究者の意図と銃の中でどんな現象を起こしていたのか、あるていどは理解できた。
例えば一番単純なもので言えば、土属性魔法陣と火属性魔法陣の組み合わせだ。
ある種の土は加熱するとはじける事が知られている。
狭い筒の中で土を生み出し、加熱して爆発させれば弾丸を押しだす事は可能だろう。
他にも風属性魔法陣をベースにしたものや、同じ現象を連続させるもの、水蒸気を利用したもの、などがあった。
けれど、ロター港で体験した限り、法具銃の威力が段違いに強かった。
研究者はなんとかオリジナルに近づけようと試行錯誤していたのかもしれない。
「当分は背伸びしないで、弾丸が完成したら試射して、一番安定している立体魔法陣を再コピーするのが妥当か」
研究者が今までできなかった事をいきなりやろうとしてもしょうがない。
我ながら普通の結論に落ち着いたな。
振りかえると二人が熱心に作業に打ち込んでいた。
よし、もうすぐ昼だし、リクエストを聞いて何か軽食を買ってきてあげようかな。
銃の機関部の方にめどがついたので、午後は銃剣の外側に取り組むことにした。
弾丸の解析・複製作業をしているリオンとクローリスに一言いって、僕はギルドにあるもう一つの工房に移動した。
重い外開きのドアを開けると、広い石造りの半地下の空間があらわれた。
設置された複数の魔道具に凝血石を入れて起動する。
危険な毒がたまらないように風が起こる。
必要な水が得られる水桶に水が張られる。
おき火程度だった炉の炎が赤々と広がる。
「さて、準備はできた。本当はクローリスに頼みたいところだけど、一回くらいはやっておかないとな」
買っておいたインゴットを使い、書庫の合成能力で銃身とおなじ配合の合金をつくる。
そして合金をベースに銃の各部品を複製していき、銃を一丁をくみ上げた。
これをベースにして銃剣を作る。
僕は書庫からクローリスに描いてもらった長巻付き銃剣のイメージ図を取り出してみた。
「ええと……銃身と銃床の先端にホウライ刀の鞘を渡して、折りたたみナイフみたいに出るようにすればいいのか。銃口をまたぐはどうすればいいんだ?」
やたら精巧なイメージ図だけど、肝心の刀身の固定方法がぼんやりとしている。
「銃身の外側にレールを張り出して、溝に沿わせてスライド反転させる構造をつくればいいか」
炉の前に座り、ホウライ刀の根元を打ち延ばし、銃口にはめるための円筒をつくった。
さらに銃口周りにも細工をほどこし、刀がついた円筒を前にスライドさせ、銃口の前でクルリと回転させて再び銃口にはめる方法で、刀身を銃身に固定した。
長さや角度はイメージ図に合わせているけど、後はクローリス次第だろう。
――◆◇◆――
半地下の工房の窓から、石壁や石畳をはねかえって届いた黄昏色の光が射し込んでいる。
弱々しいその光の中で道具の洗浄などをしていると、工房のドアが開く音がした。
「ザートおわった? なかなか来ないからこっちからきたよ」
振りかえるとリオンとクローリスが入ってきた。
「ごめん、ちょっとのめり込んでたよ。これどうかな?」
二人の前にできあがった試作品の銃剣を見せるとクローリスが目を輝かせて両手で受け取った。
「ふ、おぁ……、これは格好いいですねぇ……」
自分のイメージ通りのようで満足しているっぽい。よしよし。
「ギミックの所が曖昧だったけど、こっちで勝手につくったぞ」
ホウライ刀を一瞬で抜刀して銃口に付けるとまた歓声があがって気持ちいい。
そうだろう、このギミックはちょっと自分でも自信があったんだ。
「早く試したいです! 今からでも試し撃ちに行きませんか?」
「機関部と弾丸の量産ができてないんだ。実証実験は明日にしよう……そういえば紋様ってどうなった?」
はしゃいで銃剣で構えを採っているクローリスからリオンに向き直ると、リオンも何かやりとげたような顔をしていた。これは期待していいか?
「解析できたよ。紋様も間違った部分を修正した石版を用意してあるから、あとはザートが”血殻”を石版で加工して、各属性の魔鉱をはめてくれれば弾丸が作れるよ」
この様子なら渡しても大丈夫そうだな。
「早いな……それじゃ、これはリオンの分」
「えっ?」
書庫から一本のロングソードを取り出して渡すと、リオンは戸惑いの声をあげた。
「リオンのロングソードの使い方は王国流じゃないだろ? 一応、そっちが使いやすいように柄とつばを再加工してみたんだけど、どうかな? 良ければ前の一本を店に返すよ」
昼食の買い出しの時にウーツ工房まで行って買ったものをさっき加工しておいたものだ。
スキル不発の件の後、リオンが元気になるものは何か考えて、考えついたものがこれだった。
スキルの事は知らないけど、僕は戦って、改めてリオンは強いと思った。
王国流の剣術じゃない武術も洗練されていて、スキル取得にとても努力したんだろうと思う。
だからロングソードをリオンの武術にふさわしいように改造して贈った。
不発のスキルだって、ロングソードがだめでもまた他を探せば良い。
僕がつくっても良い。だから元気出せよ、と。
でも、今考えると、なんか脳筋バカみたいな発想だな。
やっぱり新しい画材とかのほうが喜んだだろうか。
「うん、使いやすい。ありがとう!」
リオンが今日一番の笑顔を見せてくれた。
となりではクローリスも笑っている。
「良かった、じゃあ帰ろうか。二人とも、鞘を用意するまで僕が預かるよ」
左手を前に出し、バックラーの上に大楯を出す。
二人に物を入れてもらうときのポーズだ。
「お、ちょっとまってください。これって良くないですか?」
クローリスが射し込もうとした銃剣をふと止めて、バックラーの上に掲げた。
続けてリオンの改造ロングソードを引き寄せて交差させる。
「パーティの紋章って事? じゃあ後で見せにいくよ」
新しい装備を手にいれてはしゃいでいる二人。
なるほど、パーティの旗とかに良いかもね。
でもね、それだと僕のメイン武器バックラーになるじゃない?
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