03_07 クローリスの防具購入
「プラントハンターの皆様ですね。ヨハネス商会よりお話を伺っております。本日は当工房にお越し下さりまことにありがとうございます」
フルト甲冑工房に入ると、スーツの上下を着た黒髪の女性に出迎えられた。
この工房は銀級や金級の冒険者も利用するらしいので、店員の教育もしっかりされているんだろう。
冒険者産業の従業員の多くは元冒険者だけど、この店員さんは物腰からして、結構高い位階までいったようにみえる。
「恐れ入りますが、本日ご所望される品はすでにおきまりでしょうか?」
それにしても、なんだかここまでかしこまられると落ち着かないな。
「すみません、僕らまだ銅級になって日も浅いので、こういう雰囲気に慣れていないんです。もう少しフランクにしてもらえますか?」
「わかりました。では普通にご案内しますね」
店員さんの口調が一気に柔らかくなった。
「まずは彼女の防具を買おうと思っています。戦闘スタイルは曲刀と……弓です。よろしくお願いします」
「おねがいしまーす」
クローリスが愛想良くお辞儀をして先を行く店員についていった。
とりあえず一番時間がかかりそうな彼女の装備から決めてしまおう。
「なぁ、リオン。僕らの防具はどうする? 予想外に早くグランベイについたから、ちょっと今の装備だと不安じゃないか?」
「本来ロターで活動するつもりだったからね。かといって無駄遣いはしたくないし……妥当なのは追加装備じゃないかな。ザートは腕が露出しているからジレに合わせたチェインメイルがいいとおもう」
「後は、そろそろ頭部も気にしなきゃな。鉢金以上は必要かな……」
店員からなにやらレクチャーを受けているクローリスを見ながらそんなことを話していると、リオンがちょっと近づいてきた。
「ねぇ、それなんだけどさ……ザートきいてる?」
変な声がでそうだったのでだまってうなずく。
近いし、ちょっとそのハスキーめにささやくのやめてくれない?
わざとか?
「クローリスの付与魔法スキルがけっこう高いんだよ。銅級相当の疑似ヘルムならできるって」
む、クローリスめ、自分だってそうとうすごいじゃないか。
そういえばあいつの髪の毛って魔道具で変えてるんだったな。
「素材は僕が持ってるから、三人とも頭部防具は要らないか。じゃ、そろそろクローリスの所にいくか」
試着室の前には、店員に着せ替え人形にされているクローリスの姿があった。
「二人とも! さっきから呼んでたのになんで来てくれないんですか!」
こういうのは一通りプロに任せるのが良いと思ったんだけどな。
「向こうじゃ装備をえらぶ事はなかったのか?」
「ありましたけど、前衛に出る事が無かったので見栄え重視で選んでました」
あー、そういえばそうだったか。
前衛の実戦も買い物も未経験なら迷っても仕方ないか。
「クローリス、この防具は好き?」
おもむろにリオンが指さしたのはクローリスが持っていたコートオブプレートだった。
「はい。あまり鎧っぽくないですし。軽装で弓主体、だとそれがおすすめだそうです」
「じゃあ、こういうのはどうかな?」
リオンが少し離れた場所から、丁度今クローリスが着ている巻きスカートをそのまま袖なしのワンピースにしたようなデザインのコートオブプレートを持ってきた。
「ああ、ティルク系のデザインですね。多少重量がありますが、腰も絞るので動きやすいです。それも弓兵には人気があります。スカートにもボトムにも合いますよ」
店員さんの後押しでクローリスの意志は固まったようだ。
「じゃあ、あの、どうしようリーダー?」
クローリスが遠慮がちに意見をきいてきた。
いつもみたいに「ごちそうさまでーす」みたいに言わないのか。
店員さんに値段を聞くと二十五万ディナだった。割と想定内だ。
この後僕自身の鎖篭手、鎧下やインナー、夏用の日よけ用マントを買った。
調整は三時間もあればできるというので、また来るといって店を出た。
「さ、次はウーツ工房だな」
「だね。いよいよロングソードかぁ」
リオンと二人で話していると、先を進んでいたクローリスが振りかえって急に頭を下げてきた。
「あの、二人ともありがとうございます!」
唐突に頭を下げられたので固まってしまった。
もちろん感謝されていることは理解できている。
ただ、クローリスがこんなに素直に感謝してきたことに驚いただけだ。
「……気にしなくていいぞ?」
いや、ほんとに。
と言おうとしたらクローリスががっつり目を合わせてきた。
「いや、さすがにウチもここまでされてへらへらできません。戦闘スキルが使えるかわからないですけど、頑張らせてもらいます!」
こいつってたまに熱いなぁ。
この場合、僕がいくらいっても終わらない気がするぞ。
(たのむ)
リオンにアイコンタクトをおくると、苦笑いしつつもうなずいてくれた。
「クローリス、私達は君に恩を売っているわけじゃないんだよ。君の魔道具作成のスキルで元が取れるから装備を買ったんだよ」
クローリスは、リオンの説明にわけがわからないという顔をしている。
「え? でも私の髪留めみたいな高位クラスの魔道具には灼炎石とか魔鉱がいるんですよ? 今魔鉱は価格が高騰してて、とても元なんてとれませんよ」
困惑気味に答えて来たけど、原因は材料費なわけだ。
そういう事ならこれを出せば話がまとまるな。
「はいこれ」
「はい?」
書庫の中からこそっと魔鉱の石塊を次々とクローリスの前にのぞかせた。
「これがあればその髪留めも作り放題だ。戦闘もできる生産系パーティとしてフェアに折半しような」
これならクローリスも納得だろう。なんと言っても対等な関係でいられるんだから。
ん? クローリスが震えている。
「そんなら文句はないですけど、早うゆってください! どんだけ驚かせれば気がすむんですか!」
怒られた。天下の往来で。結構恥ずかしいなこれ。
多分、グランドルの鉱山が閉鎖された事に僕もからんでいると知ったらもっと怒るんだろうな。
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