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03_05 生産職(ポーション作成)


 二日ほど休暇をとった後、グランベイでの冒険者活動をはじめた。

 たった今、記念すべき最初の依頼をこなしてきた所だ。


「今日は助かったよ。細かい作業をする時は人手が足りなくてね」


「いいえ、こちらこそリフレッシュさせてもらいました」


 ここは日当たりの良い北岬の中腹にある薬草園だ。

 人の良い薬草園の管理人とリオンがあいさつをしているのをながめながら、僕は両手にかかえた薬草をゆすりあげる。

 これらは薬草の枝や間引いた株で、本来は捨てるものらしいのでもらってきた。


 実はこれらは乾燥させればポーションの原料になる。

 ポーション作成の依頼も複数受けているので、それに使うつもりだ。


「よかったなクローリス。ポーションの素材がただで手に入ったぞ」


「そうですね! ようやく生産職としての仕事ができるから今から楽しみです」


 真新しい作業用ズボンとエプロンを着たクローリスが嬉しそうに答える。

 今日の髪は暗緑色の髪を高めに結い上げたポニーテールだ。

 これも作業するためだろう。やる気は十分である。


「さ、次の場所に行きますよ!」


 クローリスを先頭に、戻ってきたリオンと僕は、次の場所に向かった。


   ――◆◇◆――


「ありがとうございました!」


 笑顔の店員に見送られ、僕らは北西商業区の雑貨屋を後にした。


「これで三軒目です。やー、ザートのアレはすごいですね!」


 クローリスは上機嫌で両手に抱えた荷物を掲げた。

 今僕らが持っているのはここの店で買ったポーションの瓶だけだ。


 ここに来るまでに手に入れた素材は人目が無い場所で書庫の中に入れている。

 拠点をもたない冒険者が生産系依頼を受ける場合、原料や製品を運ぶのが一番大変だけど、その点うちのパーティは僕の書庫があるから楽だ。


 話し合った結果、生産系依頼はクローリスをリーダーとして、プラントハンター全体で行うことにした。


「宿にもどって作業をする前に何か食べたいな。二人とも何か希望は?」


「それならバルケ・クメイにしますか? ここグランベイでは甲乙つけがたい十本の指に入る店がこの先の広場にありますよ?」


 バルケ・クメイはクメイというあぶらがのった魚を炭火で焼き、ハーブやリナルなど柑橘が入ったティランジア風パンにはさんだものだ。

 ここグランベイの名物料理で、陸の料理に飢えた沖の帆船に薬草をいれた食事を売りだしたのが初めといわれている。


 トップテンがもつれ合うなんてさすがは名物料理、美味い店の層があついな。



   

 脂の多いバルケ・クメイは至福の味だった。

 今は宿のバルコニーで食後茶のメティを飲んでいる。

「日差しの当たらない、夏の木陰に囲まれたバルコニーで昼食とか、日本で学生していた頃なら考えられない贅沢ですよ」


 クローリスはカウチに身をもたせかけている。


 でも、受注した依頼の量を考えたら休んでばかりもいられない。


「さ、クローリス。そろそろ仕事を始めようか」


「うー、仕方ありませんね」


 だるそうに起き上がるクローリス。

 しっかりしてくれリーダー。


「じゃあこれから依頼にあったSP回復ポーションを作ります。早速ですみませんが、ザート。書庫をつかってトキの葉とエフェスの根を乾燥させてください。


 書庫のタブレットを見て、それぞれの表示を操作して、素材から水分を分離した。


===

【素材】

・トキの葉(乾燥)  ……500ルム

・エフェスの根(乾燥)……800ルム

・蒸留水       ……1ディルム

===


 とりだすと確かに乾燥している。


「うわチートぉ、何度見ても便利ですね」


 もう聞き流すことにした。

 チートはクローリスの鳴き声だと思う事にしよう


「さて、じゃあはじめますよー」


 クローリスがバルコニーの一角に出した錬金器具の前に立つ。

 コンロでフラスコの水を過熱しつつ、素材を刻んでいく。


 いつの間にかリオンが起き上がってそわそわとこちらを見ているけど、今日は出番はないからね?


 クローリスのポーション作成スキルは練度が高くないらしい。

 だから失敗リスクが少ないSP回復ポーションを作る。


「あれ? 魔力がうまく混ざらない」


 作成の仕上げに、小さな凝血石の欠片を入れて、溶かすように自分の魔力をそそぐんだけど、うまくいっていないみたいだ。


「そういう時はこの棒をフラスコにさして」


 器具一式から一本の棒を取り上げてクローリスに渡す。

 このミスリル合金の棒は魔力伝導率が高く、魔力を注ぎ込む時の補助として使われる。


「あ、楽に出来た……ザートって実はポーションつくれるんですか?」


「スキルはないよ。知識だけ」


「むむ、ザート、意外にハイスペックですね。それならそうと言って下さいよ。一緒に作って下さい。これで作成スピードが二倍です!」


「嫌です。僕はあくまで補助」


 興奮するクローリスには悪いけど、ここはきっぱり釘を刺しておく。

 作れるけど、僕のやり方じゃ品質を一定にすることはできない。

 品質が一定じゃないポーションは買取のときに嫌われるのだ。

 

「ケチじゃないですか? チートなのに」


 緑の瞳で上目遣いににらまれた。少しクセのある暗緑色の髪が目の前で揺れる。


「対等でいたいって言ったのは誰だっけ?」


 ぐぬぬ、と喉を鳴らしてクローリスは作業にもどった。


「言っとくけど、知識はチートって奴じゃないからな」


「わかってますよ。自分で勉強したんでしょう? 努力まで否定したら私が嫌な奴みたいじゃないですか」


 わかってるならいいんだ。僕はそのままクローリスの後ろで見守ろうと後ろに下がった。


「……とりあえず、もらった薬草の苗でも植えるか」


 プラントハンターの看板を掲げている以上、やっておきたいところだ。

 苗、植木鉢、おけに入った水、桶に入った土をとりだして作業を始める。

 しばらくするとリオンが気づいて寄ってきた。


「苗作りしてたの? 言ってくれれば一緒にやるのに」


「うん、お願いするよ。できあがったらバルコニーの外側に並べていくから」


 程なくバルコニーはトキやエフェスなど、薬草の鉢植えで賑やかになった。

 グランベイには当分の間いるつもりだし、別の場所に拠点をうつしても書庫に入れれば簡単に持ち運べる。

 成長すれば各種ポーションの原料が取り放題だ。


 グランベイを発つまでに何度つみとる事ができるか楽しみだな。


   ――◆◇◆――


「えっ! 一日でこの量をつくったんですか?」


 ギルド・グランベイ支部の受付に、前日に作成したポーションを百本ほど持って行くと、ウサギ獣人の受付嬢の声がフロアに響く。

 昨晩遅くまで絵を描いていたらしいリオンが大声にビクッとして、またまぶたをとじる。


「品質は並みですけど、安定していますね。全部同じSP回復ポーションですか?」


「いえ、SP回復が五十、MP回復が四十、治癒が十です。品質は全部並みです」


 しばらく箱の中を確認していた受付嬢だったけど、ため息をついてカウンターの向こうで依頼完了の手続きを始めた。


「はぁ……ザートさんは領都本部からの報告書以上に規格外ですね」


 ん? 俺の報告書? 本部からってことはリザさんが作ったのかな。

 もしかして鉱山と古城の件はもうギルド内では共有されてるんだろうか。


「あの、ポーションを作ったのはザートじゃなくて私なんですけど?」


 クローリスが割り込んで自己主張を始めたけれど、それに対して受付嬢はうろんな目を向ける。


「クローリス、貴女が生産職を自称していたのは知ってるけど、さすがにこの量を一人で作るには一日じゃ足りないわ」


「でもつくったんですよ、信じてくださいよぅ」


 すがりつくクローリスが元同僚にあきれられている。

 自称生産職って、クローリスは信用なかったんだなぁ。


「嘘じゃないですよ。クローリスのスキルで作れるポーションは並みですけど、手際は良かったです。僕とリオンがしたことといえば、瓶を並べてフタをしたくらいですよ」


 僕とクローリスを交互に見比べる受付嬢だったけれど、本当らしいと判断したのか深いため息をついた。


「はぁ、また追い出されて、今度こそ受付嬢の研修を受けるだろうとみんなで話してたのに」


 どうやらクローリスは僕らが来なければあのまま正式に受付嬢にされる所だったらしい。


「えへへ、わかればいいんですよ」


 自分がようやく認められたことにご満悦のクローリスの横で書類を交わして報酬を受け取る。


「それじゃ、残りの依頼も期待して良いのかしら?」


 残りというと、ポーション系はまとめて終えたから、スクロール作成と魔道具修理、それから彫金だったか。


「ええ、期待してください。なんなら明日にもまた来ますよ」


 昨日の集中した様子で、クローリスの真面目さは分かった。

 ここは断言してクローリスの株を上げておいてあげよう。


「ちょ、ハードルあげないでくださいよ!?」


 クローリスが驚いているけど、大丈夫、君はやれる子だ。 



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[一言] クローリスは日本出身らしいから、名前もあわせて多分異世界モノが流行った異なる時代の日本から召喚された模様。 鳴き声とまで言われている所からかなり異世界用語に汚染されてると推測される。 〉「う…
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