03_04 異世界召喚の理由
「異世界には銃があった」
「クローリスは異世界人だ」
「だからクローリスは銃をしっている」
三段論法的にいえばこんな話だけど、僕らは異世界に銃があるかは知らない。
けれど、クローリスが異世界人なのか確認するのは簡単だ。
「クローリス、前の世界からこっちに持ち込んだ物ってなにかあるか?」
「持ち込んだもの……、これでいいですか?」
ごそごそとクローリスが取り出したのは、書庫のタブレットに似た光る板だった。
「じゃあ、ちょっと借りるぞ」
そういってバックラーの裏に隠すように書庫に収納し、同じ場所にタブレットを表示した。
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【名称】タブレットPC
【詳細】異世界でクローリスが授業で使っていた情報端末。魔素を使用しない。バッテリー切れ。
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異世界で製作された、か。これでクローリスが異世界人、というのか確定かな。
それにしても、タブレットか。
ファンタジーの単語をここで見るとはおもわなかった。
ふたたび書庫から取り出してクローリスに返すと、怪訝な顔で受け取られた。
「……リオン、どうやらクローリスは本当に異世界人っぽいぞ」
「うーん、未知との遭遇だねぇ」
「人を新大陸みたいにいわないでください」
こちらが信じた事で余裕がでたのか、クローリスの口から軽口がでた。
「それで、そもそもなんで異世界からこっちに来たんだ?」
クッションを抱いてソファに座っているクローリスに訊く。
彼女はしばらく目を閉じた後、クッションを背中に回して話し始めた。
「やっぱり、そこからですよね。私は前の世界で寝ていたんですけど、気がつくとバーゼル帝国の山の中にいました。そして目の前に、『私が召喚した』とかいって自称神様が現れたんですよ」
へぇ。神様ね。
「私の他にも数十人、同じ世界から召喚された人がいました。皆不安でしたけど、神様は協力してくれれば元の世界にも帰すといってきたんです」
リオンが水を三人分持ってきてくれたので受け取って一口飲む。
召喚しておいて一方的に依頼をするって、勝手な神様もいたものだな。
「何に協力しろって言ってきたんだ?」
「この世界と神界を隔てる扉をあけること、らしいです。詳しいことはバルド教教主が知っているので訊けという事でした」
バルド教ということは、やっぱりその神様は主神バーバルなのか?
「クローリスたちは依頼を受けたのか?」
「受けるしかありませんでしたよ。だって受けるならスキルを与えるけど、拒否するなら与えないって言うんですよ? スキルが無きゃこの世界じゃすぐ死ぬって言うし選択の余地ないじゃないですか」
クローリスが悔しそうに新しいクッションを叩く。
この様子だとクローリスは神様の依頼にむかついているみたいだな。
「皆がもらったスキルは、生活に必要なスキルと、依頼を遂行するのに必要な戦闘スキルでした。でも実際は前の世界で得意だったことがスキルになったみたいです。だから私は銃剣道……」
なんでよ! とクローリスが再びクッションにあたり始めた。
怒りの矛先がどこに向いているのかわからない。
「召喚された私達はしばらく、召喚されたバーゼル帝国で冒険者をしながら一緒に暮らしていました。ほとんどの人はもらったスキルのせいで最初から強かったんです。一番強い、使命を果たすのに積極的な人がリーダーだったので、クラン名も『新約の使徒』なんて名前でした」
言い終わってクローリスの身体がソファに沈んでいく。
新約、新しい約束か。なるほどね。
「うーん、リオンどう思う?」
「……そうだね、そのクランとバルド教が内紛する、という可能性はあると思う」
そうなんだよな。預言者をかたった新興宗教家はこれまでの歴史の中にもいた。たとえ正しかろうと、新しいものは必ず古いものと対立する。
できればそのクランとは関わり合いになりたくない。
「で、クローリスは今そのクランとは別行動をしているんだよな? 抜けてきたのか?」
この問いには当然、とばかりに即答された。
「抜けてきましたよ。神様がうさんくさかったので最初から信じていませんでした。クランにいたのは生産系のスキルをあげるためです。でもだんだん戦闘にむかない人が下僕扱いされるようになってきたので、拠点を移すタイミングでランナウェイしました」
そしてその足でグランベイに来たということか。
クランを抜けてきたなら内紛にも巻き込まれないか?
「なるほど、だいたいわかったよ。異世界人、というのはびっくりしたけど、僕らにとって困る立場の人じゃないみたいだ。とりあえず、改めてよろしく」
こちらから手を差し出したけれど、クローリスはその手をとらずにじっと見ていた。
あれ? 異世界には握手の習慣がないとか?
「その前にこちらからもいいですか? さっき私のタブレットPCを『鑑定』しましたよね? しかもスキル以外の方法で」
クローリスは不敵に笑っている。
どういうつもりだろう?
「確かに、鑑定はした。そのタブレットの詳細に”異世界製”ってあったから君が異世界人だと信じたんだ。スキル以外の方法を使った根拠は?」
「タブレットをバックラーの後ろにかくすそぶりをみせたからです。そのバックラーが鑑定をする法具だから、とか理由があると思いました」
法具だろう、ということまで推測するか。
なかなかの観察眼だけど、なんでここまで踏み込むんだ?
冒険者は訳ありなのが常だ。
そしてお互い危険が無い限り、余計な詮索はしない。
クローリスはそれを簡単に破ってくる。
なぜそうするのか理由がわからないと、ちょっと今後が不安になるな。
「僕に秘密があったとして、それを暴こうとする君とパーティを解消したくなるとは考えなかった?」
軽く牽制してみる。
「うーん、解消するというならしかたないです。秘密を共有して対等な関係を結べないなら、異世界人でつくったクランの時の二の舞になりそうで怖いんです」
困ったように眉尻を下げながらクローリスが首をかしげた。
なるほど、クローリスがあえて秘密に踏み込んできたのはこちらが対等を許すか試すためか。
対等じゃなかった時の経験がよほど嫌だったんだろう。
もう一度クローリスを見る。
はっきり言えばクローリスの考えは駆け引きですらない。
良くて捨て身の虚勢だ。それは本人も分かっているだろう。
でも、リスクを負った上で、なお結果をつかもうとしているのは僕も一緒だ。
「リオン、リーダーとしては事情を話そうかと思うんだけど、どうかな?」
「うん、いいと思うよ。私と同じようにクローリスに接して欲しいな。パーティだもの」
リオンが微笑んでくれた事が最後の一押しになった。
クローリスがよからぬことを考えていないなら、いずれ法具については明かすつもりだった。
リオンの時みたいに、クローリスを危険にさらしてしまったら、僕は後悔しない自信はないし、リオンに後悔させない自信がない。
だから僕はバックラーと指輪という一対の法具「ジョアンの書庫」について話した。
鑑定だけではなく、マジックボックスなど複数の機能をもっていて、まだ他にも機能があるかもしれないとも話した。
クローリスは大体おとなしくきいてくれた。「チート」という言葉をたまにつぶやいていたのは些細なことだろう。
「以上が僕の秘密だけど、これで対等な関係になれるかな?」
「はい。試す様な事をしてすみませんでした。これからよろしくお願いします!」
三人の顔に笑みがうかぶ。
ようやく「プラント・ハンター」に新メンバーを迎えられた気がする。
それからはクローリスが宿にもどるまで和やかに雑談をした。
引退後の庭に植える植物を集める、というパーティ共通の目的についても話したけれど、「うわ、天然甘味料!」とよくわからない感想を言われた。
リオンが無言で叩いてきたけど、同じように接して欲しいっていったのはリオンだろう。
時々理不尽な事もおきるけれど、それもパーティで活動するなら甘受すべきことなのかもしれない。
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