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03_03 スパイ疑惑



 クローリスの絶叫を伴った指摘で、この武器が銃というものだと判明した。

 そして同時に疑問も浮かんだ。


「これってクローリスがいたバーゼル帝国では普通の武器……というわけじゃないよな?」


 悪目立ちするのでバックパックにしまった後、クローリスにきいてみた。


「当たり前ですよ。さんざん探してもなくて困ってたんですから。それで、これはどこで手に入れたんですか?」


「あー、それは、まぁ、拾った」


 出所はきくな、とばかりに小声で答える。

 こんな場所だけど、熱心なバルド教徒がいないとも限らない。


 バルド教のサイモンは六花の具足を量産するといっていた。

 この武器もサイモンのオリジナルを模倣した試作品と考えられるから、地位が高い教徒なら識っているかも知れないのだ。


 そこで僕は大事なことに気づいた。


 クローリスはなぜその物の実在を前提に話しているんだ?

 銃なんて名詞は幻想物語用語でもきいたことがない。

 

「まて、クローリスはどこで”銃”って言葉を知ったんだ?」


 酔っ払いのフォークが皿とこすれる音、女冒険者の歌声とはやし立てる男達の拍手、夜店の呼び声、喧噪が急速に遠のいていく。



——クローリスがバルド教の関係者なら、名前を知っていてもおかしくない。



「ちょ、ちょっと!? なんや怖いんですけど! ウチなにかやらかしました?」


 クローリスが慌てふためく。口調もなにかおかしくなってるし。


「ザート、早とちりかもしれないし、そんな怖い顔したらだめだよ」


 そんなにか? リオンに指摘され慌てて眉間をもみほぐした。


「悪い、これを手に入れた時の事を思い出して、もしかして仲間かも、と思った」


「ふぇぇ、ろ獲品ですか。さすが異世界ですねぇ……」


 だいぶ怯えさせてしまったらしい。後ろからも複数の視線を感じる。

 場の雰囲気を悪くしたな。


「ここじゃあ話しづらいな。続きは僕達の宿で話そうか」


 ピッと鳴き声をあげてクローリスが固まってしまった。


「ザート、その言い方もどうかと思うよ」


 リオンにため息をつかれてしまった。


   ――◆◇◆―― 


 地図を頼りに、わずかに上り坂になっている通りを登る。

 宿はグランベイに来るまで護衛を請け負っていた商会に、世話をしてくれるよう頼んでおいたのだ。

 静かな住宅地が拡がる山すその道を上る間、人影はない。


 先を行くリオンの後ろをクローリスがビクビクしながらついていくのを後ろから見ながら考えを廻らせる。

 クローリスはギルドで活動していた。当然僕らが銅級の新人という事も知っている。

 銃の存在を知るほど上位のバルド教関係者なら銃を奪われた重大さを知っているだろうからすぐにでも取り返そうとするはずだ。


 彼らは戦う力をもっているか、もっていなくても仲間に常に護衛されているとシルトから聞いた。

 今の状況は銅級の新人冒険者を襲うには十分な状況だ。


「ザート、宿についたよ」


 考えている内に宿についてしまった。

 やはり襲ってこなかった所をみるとやはりクローリスはバルド教関係者では無いと考えるのが自然か。

 

 窓が大きく切られた木造の建物の中に入り部屋に向かう途中、水夫や冒険者ではなく、交渉人や航海士のような人達とすれ違った。それなりの宿なんだろう。


 僕の部屋は二つの部屋が縦につながった部屋だ。

 扉を開け、中に入ると手前にリビング、奥にベッドと月光が照らすバルコニーがあった。


「じゃ、そこにかけて」


 僕はバルコニーじゃなく、手前のリビングに置かれたカウチソファをクローリスにすすめた。


「外からの攻撃を警戒するなんて、やりますね」


 さっき怯えていたほどではないけれど、クローリスの笑顔に力は無い。


「たまたまだよ。仲間がいたらここに来る前に仕掛けるだろ?」


 ため息をつきながら僕とリオンも浅くソファに座った。

 バックパックから目の前のローテーブルに”銃”を置く。


「で、さっそくさっきの続きだけど、クローリスはなぜこれを”銃”と呼ぶんだ?」


 クローリスはソファに深く座った。

 小柄なので足が若干浮いている。本当に何かするつもりはないのか、観念したような顔でいる。


「実は私、異世界から来たんです」


「うん」


 真剣に、前をみすえて発された言葉にこちらがうなずくと、クローリスがびっくりしたのか、文字通り跳ねおきてこちらに向き直った。

 スプリングきいてるなぁこのソファ。


「うん、て! なに受けいれとぅ!」


 なんだかクローリスが期待した反応と違ったみたいだ。


「ハイ・エルフは異界から来た、ってバルド教の教典にも書いてあるしな。別に信じているわけじゃないけどさ。とりあえず最後まで話を聞かせてくれないか?」


 というかこの反応で”クローリスがバルド教徒”という線はなくなったな。

 安心した様子のリオンとうなずきあった。


「うわぁ、今まで隠してきたウチのストレスかえしてぇ……」


 ローテーブルに頭を預けているクローリスに続きを促すと、ゆるゆると起き上がり、目の前にあるものを指さした。


「前の世界ではこういうものを”銃”って呼んでたんです。私がこれを銃と呼ぶのは、つまり、そういうことです」


 そしてクローリスはまたローテーブルに突っ伏した。




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