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02_17 友との別れ


 夏の日差しに照らされた帆が鮮やかな青空に映える。

 昨夜の内に嵐は止んでいるけれど、空を流れる雲の足は速く、地上の風も、船が出せないほどではないけれど、強めに吹いていた。


 今朝、フランシスコ商会から支所長が宿にやってきた。

 昨晩の捜索で、倉庫の内外から合計九つの変死体が確認されたらしい。

 何か魔獣に食われたのか、すべての死体が原型をとどめていなかったそうだ。

 そして、戦闘後姿をみていなかった商会長も未だ行方不明、だそうだ。


 その辺りは商会内の事情なのでうなずくしかない。

 他人である僕達としては、こちらに火の粉が降りかからなければ文句はない。

 すべては商会内で事をおさめる、といって支所長は去って行った。


 ただ念のため、僕とリオンはフランシスコ商会とは別の船に乗ることにした。

 行き先は、本来の目的地だったブラディア第三港、グランベイだ。


 今僕らは見送ってくれるシルトと一緒に、出航準備に忙しい水夫達の邪魔にならない、少し離れた人気の無い場所で帆船を眺めている。


 そろそろ準備しないとな。

 書庫の中身で、取り出すべきものを確認する。


===================

【名称】六花の具足

【詳細】

着た者に吸収した魔素を送り込み、擬似的に魔人化させる。

この具足は魔力操作が未熟な依頼者のため、作成者は補助する部品として女の髪をよった糸をつかっていた。

時を経て髪糸が自我をもち、浮遊する魔素を自力で吸収して動くようになった。


【名称】九十九髪の糸(血殻内に格納中)

【詳細】

六花の具足についていた女の髪をよって作った糸。

いまだ物ではあるが、魔物になりかけており、大気にふれれば自動で魔素を吸収する。


【名称】ウェインの右手

【詳細】

不明

===================


「シルト、もう返しても良いか?」


 シルトの心の整理がつくまで一晩預かっていた物だ。

 うなずかれたので、書庫の光の板を操作して純白の甲冑、朱いひものつまった血殻の塊、それと遺骨を取り出した。


「まったく、呪いをとく法具なんてとんでもないよな。あ、その呪いの糸はやるよ」


 甲冑をまとって遺骨をしまうシルト。さらりと呪いの品を押しつけないで欲しい。


「シルトはやっぱりブラディアには戻らないのか?」


「ああ、フランシスコとは別の商会で、帝国の属国に行く船があるから、そこに乗せてもらう。当分バルド教から身を隠すつもりだ」


 シルトの話では、六花の具足を知っているのはサイモンの他にまだいるらしい。

 確かに、具足を狙う集団のネットワークはバルト教、王国軍、魔術学院、魔法考古学研究所にまで拡がっていた事がサイモンの話ぶりからうかがえた。


 彼らの勢力圏外で力を付けるとシルトは息巻いている。


「力を付けるっていっても、もう十分な気がするんだけどな」


 素直に疑問をぶつけると、シルトが一瞬驚いた顔をしてからにらみつけてきた。


「いやみか!? 魔人化した俺を強引に締め上げて、左篭手から魔素を吸い出しただろう。部分的とはいえ、魔人を押さえ込めるお前の身体強化は異常だし、おなじく魔力操作なら俺よりよっぽど具足の性能を引き出せる」


 そういってふてくされたシルトだったけれど、ふと何かに気づいたようにマルチベルトのポーチをあさり始めた。


「そういえばお前達、植物の種を集めてるんだっけ?」


 唐突に話を切り替えてきたな。

 そういえばシルトには再会した初日にパーティが植物を集めている話はしていた。


「俺の故郷で生えているエパティカの種だ。この花の根にできる塊根かいこんから、魔人を体内から破壊する毒がとれるぞ。魔人とやり合う事があれば毒は役に立つはずだ」


「シルト、これって貴重なものじゃないの?」


 反射的に受け取ってしまったリオンがあわててシルトにたずねる。


「まだたくさんあるし、すぐ増えるから気にすんな。さあ、船がでるみたいだぞ」


 乗る予定の船の船鐘がゆっくりと鳴り響く。

 ここは風待ちの港だ。

 船荷はとうに積み終わっていて、今舷梯(げんてい)の上を歩いて船に乗り込んでいくのは商会関係者や護衛の冒険者しかいない。

 だれも別れを惜しまずに、次の目的地の事を考えている。


「じゃあ、僕らも行くよ」


「ああ、バルド教には気をつけろよ」


 バルド教とは敵対することで僕ら三人の意見は一致していた。

 お互い法具を見せ合った事もあり、時がくればパーティをくむ約束もしている。

 今からじゃダメか、と一応誘ってはみたけれど、しばらくは一人で頑張りたいということだった。


「シルト、大丈夫かな」


 甲板を歩きながらリオンがつぶやく。

 シルトが昨日知った真実は到底一晩で消化できるものではない。


「大丈夫、ではないだろうな。今は僕らが次の場所に行けるように振る舞っているだけだと思う」


 僕らが見えなくなった後、泣き崩れるかもしれない。あるいは錯乱するかもしれない。

 それでも僕らは、今は彼が望む通り、一人にするべきなんだと思う。

 再会したときに、仲間になれるように。


 夏用のサーコートをまとい、白いガントレットを付けた右腕を振るシルトの姿を、船尾楼から見ながらそう、思った。




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