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02_15 戦闘一時撤退


「一族郎党皆殺し」


 僕の口からでた言葉にミラが顔をゆがませ再び刃を振りかざしてきた。


 短剣の間合いの外から斬りかかってきたのを避ける。

 風の刃を剣にまとわせる高位魔法のウィンドエッジだ。

 強力だけれど、見破るのはたやすい。

 剣の技能がそれなりにあれば、刃がみえなくても体捌きで相手の狙いがわかるからだ。


『ミスト』


 下位魔法のミストで風の流れを可視化してしまえばアドバンテージは消える。

 彼女の場合、エッジの長さは一ジィといった所だ。魔力量はそこまで多くない。


「血を見る事は、予想できたんじゃないですか?」


 やはり僕は冷静じゃないのだろう。

 曲刀とバックラーで刃をさばきながら、とがめるような言葉をなげかけてしまう。


「黙りなさい! 私だってあんな事望んでいなかった! けれど血族を守るためなんて矮小な目的のため、世界を救うことができる法具を手放さなかったあの人達が悪いのです!」

 

 ミラがバックステップで間合いをとる。

 言葉とは裏腹に、短剣を振るう腕はふるえ、前髪にかくされた顔は怒りにみちていた。


 自分に忠実なはずの者達が反抗した時の事を思い出したんだろう。

 世界を救うなんて大義に心酔していればなおさら許せなかったに違いない。


「サイモンさん、その法具をすべて手に入れれば、世界が救えるんですか?」


 構えを解かず、目だけ向けてサイモンに問いかける。


「魔素を吸収する機能をもった六花の具足を量産できれば間違いなく良い方向に向かいますよ」


 余裕の表情でこちらの戦いを見ていたサイモンは肩をすくめて苦笑した。


「凝血石のため魔獣を討伐する今のシステムは不完全です。冒険者は魔素にさらされ短期間しか活動できない。せっかく強くなっても大規模な討伐に失敗すれば一気に数を減らしてしまう。冒険者の貴方ならわかるでしょう?」


 海難事故で銅級が大量死した件の事をいっているのか。

 でも彼がなげいているのは冒険者の命のはかなさじゃない。


「我々は危険で不安定な魔素の供給を変えたいのです。量産した六花の具足をまとえば、冒険者は魔素に身体をおかされません。さらにスキルにたよらず強化された身体で魔獣を討伐できます。凝血石の供給量は増加し、安定するのですよ」


 たからかにうたい上げるサイモンだけど、世界を救うか、という質問に答えていない。

 凝血石が増えて世の中が便利になろうと、”世界を救う”という言葉にはつながらない。


「その甲冑はバルド教徒しかつかえないでしょう? バルド教徒じゃない冒険者はみんな失業してしまいますね」


 あえて断定的にいう。

 ミラがつい漏らした”世界を救う”という言葉は、凝血石の安定というサイモンの言葉通りの意味じゃない。

 エネルギー供給の独占による異教徒の排斥の事だろう。

 鎧一つで解決しなくても、最終的に凝血石の供給を独占できるようになれば、ティランジア地方以外のバーゼル帝国などほかの地方の国家も従えることができる。


「バルド教徒が凝血石を独占するつもりですね」


 はぐらかされる前に核心に踏み込んだ。


 サイモンの笑みから余裕が消える。

 静かな殺気が漂う中、微笑んだ口元の表す意味が、苦笑から嗜虐へと変わっていく。

 それが答えだ。


「そうかも知れませんね。まあ、あなたは失業する前に死ぬかもしれませんが」


 嗜虐の笑みとともにサイモンが片手を上げる。すると背後の闇からサイモンの灯りに照らされた泥色の甲冑の一団が現れた。

 形は六花の具足に似ている。中身はさっきの部下達だろう。


「これね、形は似せていますが、肝心の機能が弱いんです。やはりすべてそろったオリジナルの魔力循環を解析しないといけないようなんですよ。そのためにはガレス君のガントレットが必要なんです。腕ごと、もぎとってでもね」


そういってサイモンが示した攻撃目標は僕じゃなかった。

泥色の甲冑をきた信徒が、リオンとまだ放心状態のシルトに殺到する。


『ファイアアロー・デクリア』!


 一団に向けて真横から炎の矢を射かけるが、信徒達はひるみもしなかった。


「魔法が消えた!?」


 予想外の事態で一瞬反応が遅れてしまう。


「無駄ですよ。たとえ劣化コピーでも、六花の具足は魔素、つまり魔法自体も吸収する」


 サイモンはミラとともに高みの見物をしている。

 完全無効化とは性質がわるい。


 せまる敵の一団をリオンがむかえ撃とうとする。


「リオン、炎刃はだめだ!」


 魔法が効かない以上、炎属性をまとう炎刃はリスクがある。


「分かってる! 『空堀モート』!」


 リオンは素早く古城の名剣を抜くと同時に土魔法を発動した。

 石でできた倉庫の床が一気にへこみ、リオンと敵を分断する。 

 敵が堀に落ちる前にかろうじて踏みとどまった。


「追いついた! シルトを起こしてくれ!」


 使い慣れたショートソードで最も近い敵の剣をはじき、鎧の隙間をつく。

 どうやら敵自体が強者というわけじゃないみたいだけど、SPを削るかわりに障壁ではね返される。


 痛みで止まっている敵に追い打ちをかけるけど、仲間がフォローに入ってきた。

 人間相手の戦いだとこれがやっかいだ。SPを削りきるほど強力な攻撃か、致命の一撃じゃないと傷付けることができない。


 SPの恩恵があるのはこちらも同じだけど、こちらは味方のフォローがない。

 痛みで足止めを食らうのは致命の一撃を受けるのとあまり変わりがない。


『ロックニードル・デクリア』!


 十のとがった岩を集団に打ち出すけれど、それらも消えてしまう。


 念のためか、敵は後ろに下がったけれど、魔素で起こした現象なら質量すら消すなんてやっかいすぎる。


 古城の時のようにがれきで押しつぶす事はできるけど、人間相手にその手を使えば特殊なマジックボックス持ちというのがばれる。

 奥の手は相手を絶対殺せる時まで出せない。


「ザート! 何か射かけてくる!」


 敵と対峙していると真後ろからリオンの声がした。

 目の前では膝立ちになった敵の集団がボウガンのような武器を構えている。


(射線を重ねられた!)


 どんな攻撃か分からない以上、よけるのはリスクがある。


『ロックウォ——』


——バウッ!


 幾重にも木が爆ぜるような音と同時にロックウォールを貫かれた。

 腹に朱い光とともに重い痛みが走る。炎魔法が貫通したか、なら——

 

「ザート! 追い打ちが来る!」


「『デクリア』!」


 ロックウォールをバラバラに十枚並べる。

 何かが再びロックウォールに突き刺さった。


「ほぅ。重ねてとめるか」


 これで敵の中距離攻撃は防いだ。後はあの鎧だ。

 魔素を吸収する、凝血石のカラでできた鎧。


「なら、『ファイアアロー・エクェス』!」


 敵の一人だけに十本のファイアアローをたたき込む。


「あ……が、ぁぁああ!」


「なに……?」


 倒れた敵の鎧が泥色から漆黒に変わった。

 同時に中身が膨れ上がり、隙間から赤黒い肉がはみ出ている。

 明らかにファイアアローの効果じゃない。

 『血殻』だって無限に魔素は吸えないだろうと思って火力を集中させたけれど、なんだこれは?


「チッ……やはり欠陥品か」


 サイモンが吐き捨てるように悪態をついた。

 不安要素はあるけれど、このまま戦力は削るべきか。


『ファイアアロー・エクェス』!


 一人一人、敵が倒れるまで矢をたたき込んでいき、速攻で合計四人の敵を倒した。

 書庫にストックしてある魔法の消費が激しいけれど、倒し方自体は単純だ。


 残りは六人の信徒と、ミラとサイモンか。


「——えっ?」


 追撃しようとした瞬間、敵の一団の後ろにいたミラが、赤黒く膨れ上がった敵に、次々に短剣を突き刺していった。


「「「「ヴァァァ!!」」」」


 耳障りな悲鳴をあげた敵の鎧から赤黒い泥が流れ出していった。

 ミラがピンク色の液体がついた短剣を振って鞘に収めて背中を向ける。


 唐突な展開につい足をとめてしまった。


「撤退します、試作品は回収しなさい」


 サイモンが残る信徒達に命令し、立ち去ろうとする。

 けれどシルトはグリーヴとガントレットをつけたままだ。

 体勢を立て直してまた襲撃をかけてくるつもりだろう。このままたたみかける!


『ファイアアロー・ケントゥリ——』


——ガァン!!


 敵の背中に百の火矢を浴びせようとした瞬間、サイモンがひるがえしたローブの下に手槍のようなものが見えた。

 瞬間、三度大きな音が鳴った。


 武器を向けた先は僕じゃない。後ろの二人だ。


「——シルト!」


 振りかえると、シルトが左腕を押さえていた。ガントレットがついさっき死んだ敵が着ていた鎧の様に黒くなっている。


「ガ、ァァアアア!」


 リオンが押さえ込もうとしているけど、シルトは七転八倒し続けていた。


「彼はじきに魔人となり、形が保てなくなります。みさかい無く襲ってくるでしょう。しばらくしたらまた来ます。彼が魔人になる前に、腕を切り落とす事をおすすめしますよ」


 顔は相変わらず整ったままだったけれど、どこか狂気を感じる動きでサイモンはミラ達とともに立ち去っていった。

 



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