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02_13 シルト、探し人と再会する

 一雨ふりそうな空の下、シルトと僕らはフランシスコ商会長と合流し、白いブロックが運び込まれている倉庫に到着した。

 等間隔にある倉庫の扉が開け放たれているので、薄暗くても、灯りを付けるほどではない。


「先方が来るまでまだ時間はある。三人とも分かっているだろうが、積み荷の量が減り、時間も遅れた。先方の機嫌は悪いだろうから、わしが何か言うまで極力静かにしてくれ」


 つまれた荷の横に用意された書類作成用の無骨なテーブルを前にして、商会長が確認をしてくる。

 商会長は先代の頃からの取引だから問題は無いと言っているけれど、その丸顔は緊張してこわばっていた。


 ここに来るまでにいくつか仮説を考えている。

 その中で最悪なのは『シルトが、ここに、おびき出された』というパターンだ。


 これから現れる依頼者が『血殻』を何かの目的で長年集めてきたというなら、同じ『血殻』でつくられているシルトのガントレットは依頼者と関係があるかも知れない。


 もし依頼者がシルトのガントレットを狙っていたとしたら?

 シルトがどんな理由で女性を探しているのかは知らないけど、依頼者がシルトの女性に会いたい事情を知っていれば、女の噂をながすだろう。

 シルトが耳にすれば、ほぼ確実におびき寄せることができるからだ。


 そうなると当然、シルトに女の情報を教え、ここに護衛としてつれてきた商会長も怪しく思えてくる。


 嫌な予感を覚え、椅子に座った後ろ姿を見ていると、おもむろにその身体が立ち上がった。


「おお! サイモン様 このたびは大変な事になり、お詫びのしようもございません」


 暗がりから現れた、フードの集団の中心を歩く依頼人らしき人物に対し、商会長があいさつもせず、身を投げ出すように謝罪を始めた。


「いいえ、こちらの発注量にも問題がありました。むしろ襲撃を受けた状況で我らの荷を優先していただいた事に感謝いたします」


 フードの男は二ジィ近い身長だけど、巨漢という印象はなく、どちらかと言えばやせている。

いや、痩せているというより、この体付きは種族特性だろう。


 腰を低くした商会長に勧められた椅子に座り、男は書類をみるために雨よけのフードをとった。

 白銀を思わせる銀髪がフードからこぼれ落ち、曲線に乏しい、つくりもののような青白い顔と長い耳が現れる。


(ハイ・エルフか……)


 ある伝承によれば、この世界に魔法をもたらしたのは異世界から渡ってきた者達だという。

 その者らはこの世界の中つ人の王族と交わり、高貴な血に美と新たな力をもたらした、らしい。


 伝承はバルド教といって、王国とティランジア諸侯の多くが国教に定めている、エルフと貴族の権威を支える宗教だ。

 貴族に縁の無い庶民は真実かどうかに感心はなく、形だけ信じている。

 貴族かつ血が濃いエルフほどすぐれた魔法スキルを持つので、ある程度本当らしさはあるけれど、平民にも優れた魔法使いはいるのだから当然とも言える。


「最終便がこの量とは……だいぶ少ないですね」


 後ろに何人もの魔法使いらしいフードをかぶった部下を従えている、銀色のメガネをかけたサイモンと呼ばれたハイ・エルフが、書類に目を通しつぶやいた。


「は、はい! 申し訳ありません。ティランジアだけではなくアルドヴィン王国の沿岸に流れ着いた分は残らず回収しました。ですが……」


「やつらに食われたので仕方が無い、と?」


 サイモンの無表情な問いかけに商会長がさらに身を固くする。


「申し訳ありません! ただいま帝国から集める準備を急がせております。ですから不足分も半年の内にお納めするようにいたします。何卒、ご容赦くださいぃ……」


 頭を深く下げる商会長を放置し、ハイ・エルフは書類をめくっていく。


 ハイ・エルフはこの世界の中つ人の血が入っていないらしいため、純血のエルフとも呼ばれる氏族だ。

 彼らがバルド教の母体であるため、このハイ・エルフもバルド教の指導者層と考えていい。


 つまり、バルド教は凝血石のカラである『血殻』を長年集めていた、という事だろうか。

 魔法に長けたハイ・エルフなら何らかの用途があってもおかしくはないけれど、今までそういった話は聞いたことがない。


「良いでしょう。それでは荷を確認させてもらいます。すみませんが、そちらの護衛の方にも手伝ってもらえるでしょうか?」


 商会長に顔を向けるとしきりにうなずかれたので、護衛の二人に目線を送った。

 馬車を用意するためか、依頼者側の部下のほとんどがテーブルを離れていく。


「印を付けるのでそれを床に置いて下さい」


 一人残った小柄な女性が箱に印をつけていった。

 まずリオンが箱を引き出し、テーブルの横に置く。

 

 続いてシルトがマントを肩に上げて箱に手をかけた瞬間、


「貴方、そのガントレットは!」


 女性の驚く声に、シルトが跳ねるように振り向いた。


「ミラ!?」


 フードをとった女性が首に束ねた漆黒の髪をなびかせてシルトに抱きつく。


「ガレス、やっとみつけた!」


「よかった、ミラ、よかった……!」


 抱き合う二人を前にして、呆然とする商会長と無表情のハイ・エルフ。


 その視界から逃れるようにリオンが僕のそばに来た。

 ミラと呼ばれた美女の驚きが早すぎたように見えたのは、僕が今回の取引を疑いの目でみていたからだろうか。




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