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02_09 血殻を集める商人


 眠りの中でカモメの鳴き声と人が行き交う音を聞いていた。

 まだ寝ていたいと抵抗していたけど、少しずつ意識がはっきりしてくる。


 目を開けると、まだ薄暗い部屋の壁が見えた。


「そういえば港の朝は早いんだったな」


 あくびをしながらバルコニーに出ると、夜明け前にもかかわらず、街灯の下で動き回る船乗りと船荷を運ぶ冒険者達の姿があった。


 昨日ギルドで聞きかじった話では、ここの鉄級冒険者は割の良い荷運びの仕事でかせいで装備をととのえ、タリム川河口付近か、その上流の湿原で魔獣を狩って位階を上げるそうだ。

 ただし、荷運びの仕事の割が良いため、魔獣と戦うのをやめ、けんかに明け暮れる者も一定数いるらしい。

 治安が悪いので気をつけろと受付嬢から教えられた。


   ――◆◇◆――


 ギルドに到着すると、予想通り、もう仕事を終えて戻ってくる冒険者がちらほらいる。

 やはり荷運びの仕事をする冒険者の方が多数なんだろう。

 今も一人、一仕事終えたらしい冒険者が受付に向かっている。


 達成証明を渡す時に、透明な凝血石も一緒に渡している。

 専門の業者が回収しているらしいけど、どういう仕組みなんだろう。


「荷運びの仕事がしたいなら、早朝のまだ暗いうちに来ないとダメですよぉ」


 依頼票を張りに来た受付嬢に白いブロック状の血殻を見せる。


「そうみたいですね。でも今日はこれを拾う仕事を受けに来たんですよ」


「ああ、そっちですか! それならいくらでも受けて下さい。何日たっても終わらないんですよ」


 機嫌よくカウンターに戻っていく垂れ耳のウサギ獣人の後について行き、受注手続きをする。


「ところでこのブロックってなんですか? 普通に触ってますけど、毒とかないんですか?」


「何かは知りませんが、今まで冒険者の皆さんが体調不良になったとかはないみたいですよぉ。拾ったものはギルドの搬入口にもっていってくださいねぇ」


 やっぱりゴミ扱いか。

 ギルド職員もこれが元は空になった凝血石だという事は知らないんだな。

 回収業者は凝血石をブロックに加工して、船便でどこかに運んでいた。

 航海の途中で荷が海におちて海岸に打ち寄せられた。

 今わかるのはこれくらいか。


 そんなことを考えているうちに、リオンが待つ砂浜に着いた。


「お待たせ。じゃあ行こうか」


 港近くの砂浜のブロックはすでに拾われていて、同業者はけっこう遠くにいた。

 リオンにごみ袋を渡しながらさっきギルドで確認したことを話す。


「ふぅん。それならギルド以外で回収しているものなのかな?」


「そうか。例えば凝血石をブロックにしてから専用の魔道具のエネルギー源にしていた、とかありえるかもしれない」


 当然だけど、凝血石はブラディア以外で使われる割合が圧倒的に多い。

 個人が魔法用に使う以外にも、水道など公共インフラに大規模に使われている。


 ブロックが落ちている場所に着くと、10人くらいの冒険者がバラバラに作業をしていた。


「あれ? お前ザートか?」


「ああ、チャド……だったっけ? ひさしぶり」


 フードをかぶっていた男が声をかけてきたのでみると、ブートキャンプで一緒に講習を受けたやつだった。


 僕とチャドは作業は続けながらお互いの近況を伝え合った。

 チャドは女の子と二人でパーティを組んでいるらしい。

 ふだんは湿原の方で討伐をやっているけど、今日はその子の体調がちょっと悪いからブロック拾いの仕事をしているという。

 そのショートカットの女の子はここより陸の方でリオンと一緒に作業をしていた。


「ひまだからって酒を飲める身分でもないしな……って、お前はなんだか羽振りよさそうだな」


チャドが僕の格好をみて言った。


「ちょっと鉱山の方で一山当てたからな。装備に優先的に金を回した。命あってのなんとやら、だ」


 羽振りがいいのは外見だけだ。という事にしておく。

 冒険者証は、まあ訊かれればこたえればいいか。

 グランドル古城の件はおおやけにできることじゃない。

 いらない嫉妬を買わないためにも多少の嘘は許されるだろう。


「一山か、いいなぁ。こっちではシルトが調子よく位階を上げていたけど、なんかトラブルにあったっぽいからな。まあ訳ありな奴だろうとは思っていたけど」


 シルトについて意外な所から情報が入ってきた。トラブル? 


   ――◆◇◆――


 袋が一杯になったので港へ帰る途中、チャドからシルトについての話をきいた。

 シルトが同期より早く位階を上げたのは商船の護衛を主な収入にしていたかららしい。

 数回の護衛で荷運びよりずっと高い報酬を得て装備をととのえながら、湿原や河口の討伐依頼を次々とこなしていたという。


 対人のけんかも強く、妬みから絡まれても返り討ちにしていたそうだ。


「あいつそんな事をしていたのか。トラブル続きじゃないか」


 ギルドがいわなかっただけで、シルトは護衛の実績を重ねていたらしい。

 ならその延長でトラブルにあって行方不明になった、というなら自業自得じゃないか。

 なんだか心配した自分がバカみたいに思えてきた。


「それで、チャドは何をみたんだ?」


「ああ、シルトと船主がもめてたんだ。『自分を急いでシドに連れていってくれ』と何度もたのみこんでた。最後にはシルトがすごんで船主は首を縦に振ったよ」


 シルトはなんでそこまでして、急いでシドに行きたがってたんだろう?


「シルトが悪い奴じゃないってのは俺も分かってる。たぶん奴の『事情』ってのがからんでるんじゃないか? だからそう怖い顔するなよ」


 チャドが首をすくめてみせる。

 顔がこわばっていたか。僕も思いきり深呼吸をして気持ちを切りかえた。


「ごめん、大丈夫だ。じゃあシルトは今シドにいるって事か」


「多分な。この間難破した船団は第四港まで回って行く便だったし、たぶん奴は生きてシドに着いてるだろう」


 チャドの言葉にあらためてため息がでたところで丁度ギルドについた。

 確か搬入口からゴミ捨て場に入れって言われてたよな。


「うぉ!」


 先を進んでいたチャドが急に止まったのでぶつかってしまった。

 文句を言おうとチャドを見ると、なにやら入り口の向こうを指さしている。


 こっそりとのぞいてみると、ゴミ捨て場の前に不似合いな、ジュストを着てステッキをついている男が部下らしき男達を従え、男性のギルド職員と話していた。

 目の前では先を歩いていた冒険者と部下が袋からブロックを取り出して見せている。


「あの金持ちだよ。シルトがかけあってた船主は」


 改めて金持ちを見てみた。

 ジュストを綺麗に着こなし、大商人の船主らしく顔つきも丸顔だが抜け目なさがある。

 なかなかにあくの強そうな船主にかけあったもんだ。


 ただわからないのはなぜ彼が直々に来て、しかもステッキを神経質そうにカツカツならしているか、ということだ。

 状況からして、今僕たちが担いでいる袋の中身に用があるんだとわかる。あんなに気を遣うほど価値のあるものだったのか。


 書庫に入れた大量のブロックの事を考える。

 今更持ってますとは言えないな。落ちていたものを拾っても罪にはならないけど、大量にどうやって拾って、どこに持っていたのか。答えなくちゃいけない。


 自動でものを拾える高性能のマジックボックスを使いました、なんて言おうものなら、商人だったらいつまででも食らいついてくるだろう。面倒なものに関わったな。


 リオンに目線を送る。

 うなずいてくれたけどかるくジト目だ。

 今のところ困る事はなさそうだけど、後で謝っておこう。


「次、袋の中身をみせなさい」


 前の冒険者が去った後、職員にうながされて僕ら四人は袋の中身を広げた。

 船主の部下達が中身を改めてうなずく。

 よし、ブロックだと確認が終わったので後は受付によって帰るだけだな。


「彼らがそうです」


 帰ろうとしたやさき、ギルド職員が僕とリオンを見て船主に告げた。

 

 なんだ? ギルド職員に不審の目を向けると同時に船主から声をかけられた。


「君らが今このギルドにいる銅級パーティか。我々はこれからシドまでこの荷物を運ばなければならない。ついては護衛を頼む」


 そういうのは受付で言って欲しい、と言ってもこの手の人は聞き入れないんだろうな。

 うんざりしながら僕はとなりで固まっているチャド達を見た。


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