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02_03 猫の宿案内

 歩きながら良い宿を教えるというので3人で工房を出た。

 ウィールドさんが古刀の研ぎに集中するので、もう店じまいで良いらしい。


「……『オウル』は手堅い、『ホテル・リベリオン』はたかめの宿だねえ。『フィトンルーム』と『ケーブベア』は中つ人差別があるから居心地悪いかも」


 職人街からギルド前広場に向かうため、城壁沿いに進む。


「中つ人差別って?」


「んー、中つ人の加入を認めないクランが上客だと、宿側が斟酌して中つ人の宿泊を拒否したり途中で追い出したりするんだよねぇ」


 普段つかみ所の無い表情のジェシカが珍しく険しい顔をしているくらいだ。

 それは居心地が悪いというレベルじゃないな。


「その二つの宿を使っているクランの名前は?」


「獣人が中心の『バイター』とエルフがトップの『雪原の灯台』ー」


 雪原の灯台……、ああ、ノーム事件で調査した金級パーティが所属してた所か。

 あの傲慢なシャールのクランならありそうだな。もう一つのクランも推して知るべしだろう。


「どっちの宿も不快だったから次の日に飛んだ」

 

 辞めるのはいいけど飛ぶなよ。そこはフットワークの軽さを発揮する所じゃない。


「飛んだ?」


「無断退職だよ」


 きょとんとしていたリオンに教えてあげると顔が少し引きつった。

 もっとジェシカに幻滅していいのに。

 こいつは一日一回はからかったり嘘をついたりする奴だぞ。


 ギルド前広場に出てしまった。広場の南は宿屋街だ。


「まあ気にしないでー。ところで2人ともどこか入りたいクランとかある? 宿は冒険者にとって出会いのサロンだからねぇ。銅級がクラン御用達の宿で上級冒険者を出待ちするのは通過儀礼らしいよ」


 気まずかったのかジェシカは話題を変えてきた。

 クランか。僕の場合、クランのメリットを知っていてもはいらない理由があったけど、リオンはどうだったんだろう?


「リオンは興味あった?」


「ううん。一応どこかのクランには入ろうかな、と思ってたけど、ザートとパーティを組むから別に入らなくてもいいかな」


 書庫を持つ僕に合わせるため、とはジェシカに言えないからそういってくれたんだろうけど、その言い方だと僕が一騎当クランの猛者みたいに聞こえるよ?


「いやいやいや、2人とも生きる気あるんか。どっかの誰かとけんかになったらどうするんだ。”わいのバックにはクラン○○○がついてるんやで”が使えないぞー」


 生きる気が一番なさそうな奴に言われてしまった。

 

 確かに、クランとクランが直接けんかをするわけじゃ無くても、もめ事になったときに抑止力になるのは事実だ。

 でもクランに所属しなくても、名前を借りる事はできる。


「どこかのクランとは仲良くするつもりだよ。とりあえず今日は入っちゃいけない宿とクランが分かっただけでも十分だ。ジェシカ、話がそれたけど、結局おすすめの宿はどこ?」


 ジェシカがけげんな顔で振り返る。

 もう宿屋街も半ばを過ぎているから、手堅く『オウル』までの道を通ってくれたのか?


「もう着いてる。ウチの常宿ヌマル亭」


 目の前にはまわりの宿とは少し違う、赤い壁に虫カゴのような窓がついた二階建ての建物があった。


「変わった窓だね、出城だと木造の建物に泊まる機会がなかったからうれしいな!」


 リオンが独特のデザインがツボだったのか、はしゃいでいる。

 なるほどたしかに、よさそうな宿屋だ。ジェシカ良い所に住んでるな。


「ちなみに紹介料はいくらもらうんだ?」


「一割。ウィンウィンの関係だね」


 ダブルピースで挑発してくるジェシカ。

 そういば今日はこいつからなにもされてなかったな。


 まあ、クランの情報料として考えれば妥当か。

 なんだかしゃくだけど、そう納得しておこう。 




「たーだいまー」


 引き戸を開けたジェシカにつづくと、カウンターにいた子供が椅子から飛び降りやってきた。


「いらっしゃいませ、ヌマル亭にようこそー」


 丁寧に頭を下げて出迎えてくれたのは黒い髪をした猫獣人の女の子だった。


「宿泊の手続きをお願いできるかな? 二人で二泊だといくらになる?」


「朝ご飯がついて二万八千ディナになります。晩ご飯は二千ディナです」


「じゃあ、今晩のご飯込みでお願いするよ」


 銀貨三枚と小銀貨二枚を渡すと女の子はニコニコしながら宿代を受け取って腰に巻いたエプロンのポケットにしまい込んだ。


 女の子は再び椅子によじ登って帳簿を付けている。

 女の子の服も替わっている。灰色のワンピースを赤い布のベルトで巻いているのか。

 東ティランジアの民族衣装にちかいけど、みたことないデザインだな。


「ジェシカ、建物を見たときに思ってたんだけど、お店の人ってホウライ皇国出身の人?」


 ホウライ皇国? そんな国あったかな?


「そそ、なんか色々あってここに居着いたらしいよー。ちなみにこの子は一人娘のハイネちゃん」


 リオンが少しかがんでハイネと握手する。

 

「リオンだよ。よろしくねハイネちゃん」


「よろしくおねがいします、お部屋にご案内しますー」


 僕もあいさつして二人の後についていく。


 ジェシカは女将さんに紹介料をねだりに行くといって食堂の方へ行ってしまった。


「リオン、さっき言っていたホウライ皇国って?」


「ホウライ皇国はティルク大陸の東にある国だよ」


 東ティランジアの東を進むと天蓋山脈という世界で一番高いといわれる山々がある。

 そこを超えるとティルクという全然文化の違う大陸が拡がっているらしい。

 

「天蓋山脈の向こう側の文化なんてよく知ってるな」


「ふふ、意外と博識でしょ?」


 得意げにリオンが胸を反らしていると部屋についたようだ。ん? そういえば一人部屋を二つ、って僕いったかな?


「お部屋はこちらですー」


 中に入ると、二人が余裕で寝られるサイズのベッドがあった。

 

「ザ、ザート……どうしよう」


 リオンがオロオロしてベッドと僕を交互に見ている。

 うん、これは僕のミスだ。

 冒険者は野営で二人きりになったりするけど、だからといって部屋も一緒にしていいというわけじゃない。プライバシーは大事だ。


「ハイネ、僕ら普通のパーティだから部屋は別々が良かったんだ。先に言ってなくて悪いけど、新しい部屋をお願いできる?」


「え! そうだったんですか。ごめんなさいー」


 ハイネは慌ててパタパタと他の部屋を探しに行ってくれた。

 

「ごめんリオン。気が利かなかったよ。宿の取り方はコロウ亭の時と同じにしような」


「そ、そうだよね。わかった」


 リオンはほっとした顔で笑って許してくれた。


「大丈夫でした! こっちですー」


 幸い一人部屋は空いていたようだ。

 危ない、いきなりパーティがギクシャクするところだったよ。

 


   ――◆◇◆――


「あ、ザート。こっち来い−」


 食堂に入るとジェシカとリオンが同じテーブルに座っていたので一緒に食べることにした。


「二人とも何を食べてるんだ?」


「「魚!」」


 聞けばホウライ料理を知っている人はみんな魚料理を頼むらしい。

 獣人が主に好むのであまり知られていないけれど、中つ人も好きな人はやみつきになるとか。

 二人が熱く語るので、せっかくだから食べてみようかな。


「美味い!」


 料理は王国はもちろん、ティランジアの料理と比べても全然違う味だった。

 東ティランジアのガルムに似たものを使うらしい。基本同じような香りがする。

 焼き料理、蒸し料理もあるけれど、特にこの、ウナギをスープにせず、良い香りのするソースにまるごと漬けて焼いたのが美味しい。

 焦げた香りが食欲をそそる。


「お、ザート、ハシをうまくつかうねぇ。ハシは元々ティルク大陸から来たんだよー」


「へぇ、ティランジア料理を食べる時に使ってたけど、ティルク大陸の文化だったのか」

 小さな器に盛られた野菜をつまんでいるとジェシカが珍しく素直にほめてきた。

 とはいえ、ジェシカとリオンの方がよほどうまくつかっている。

 魚の骨って片手でとれるものなのか……


 気がつくとジェシカが店員さんから酒器を受け取っていた。


「今日は臨時収入があったから呑むよ。二人ともちょっと呑んでみー」


 ジェシカが磁器のショットグラスを差し出してきたので受け取る。

 中をのぞくと白ワインみたいな液体が入っていた。

 甘くてくだものみたいな香りがするから果実を漬け込んだ酒か?


「……! つ、強っ!」


 飲むときに吸い込んだ空気に少しむせてしまう。

 

「これはホウライの酒だよ。麦と同じ穀物でつくるのにワインより強い酒になるなんて不思議だよねぇ」

 

 僕がむせる様子がおかしいのかケタケタ笑うジェシカと、まだ飲んでいない杯をもって苦笑するリオン。

 こいつら僕がいない時に話を合わせてたな。


「すいません、これもう一つ、ジェシカの払いでおねがいしまーす」


「おい待て、ウチの臨時収入がなくなるだろう」


 ジェシカが店員にキャンセルしようとするけど、店員はすばやく酒を用意してしまった。

 ニヤリと笑う店員、さすが常宿の店員、わかってらっしゃる。


 人をだまし討ちする奴の臨時収入は宿に還元させてもらった!




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