01_38 湖水地方発掘調査結果
「第三回、発掘調査湖水地方&古城、結果発表ー」
「わーい、なにそれー」
パチパチパチパチー
ここはコロウ亭の僕の部屋だ。
意味が分からないまま乗ってくれたリオンに説明する。
「僕が書庫を使って土の中の魔砂をこし取っているのは伝えただろ? あれをやると魔砂のほかにも色々なものが勝手に回収されるんだよ。リオンに渡した精霊の炎刃も元はぐうぜん発掘したものだし」
「へーつまり宝探しだね! ずるいよザートそんな楽しい事してたなんて」
隣で床に座ったリオンがむくれる。
「まあまだ三回目だし。今回は古城のがれきを回収したから量はたくさんあるよ」
「でもあんながれきここに出せないよ?」
「鑑定機の画面みたいな光の板に中身が書き出されるんだ。実際見ていこう」
……
凝血石(低位)×125
凝血石(中位)×108
凝血石(魔砂)×30094
……
やっぱり中位の水棲魔獣がおいしかったな。普通なら相当苦労するのに、とどめを刺して回るだけなんて楽すぎた。
マーサさん達はまだ帰ってきてないけど、きっと向こうで大笑いしているだろうな。
低位だけで十二万と五千ディナ。
中位で四十三万と二千ディナ。
後は書庫稼働用の魔砂がたくさんだ。枯れかけとはいえ、魔素だまりをさらったからな。
「売れる凝血石だけで言えば、合計五十五万と七千ディナ。金貨と銀貨が五枚ずつ、それと小銀貨七枚になるね」
「本当に五十万の大台超えたねぇ」
リオンが光る板の数字を見てため息をついた。
「依頼の成功報酬も二十万ディナもらったから、相当余裕ができたな。これでリオン用の粗製ロングソードが買える」
精霊の炎刃もあるし、二、三本買っておけばリオンの武器は十分だろう。
「ところでなんでギルドですぐ売らなかったの?」
あ、そういえば説明してなかったな。
「僕らはこの後リオンの武器を買いに港に行くだろ? あっちのギルドはティラアンジア諸国に凝血石を輸出しているから相場が高いんだ」
「ギルドの支部で買取値段が違うってこと?」
「いや、中小規模の個人商人が高く買ってくれるんだ」
ブートキャンプの頃にシルトが言ってた事だ。
海っていったことないんだよな。王都は王国の中央にあったし、実家も山に近かったし。
……
朽ちた名槍 ×1
朽ちた名剣 ×3
朽ちた刀匠のナイフ×1
……
「このあたりは古城から帰る途中でリオンに仕分けしてもらった物だね」
でも剣を一本取りだして見てみるけど、なぜ名剣なのかがわからない……
「この錆だらけの剣ってどうやったらつかえるの?」
「錆といっても黒さびだから、鍛冶屋で研いでもらえば使えるようになるよ」
リオンが受け取った錆剣の刃を確かめながら答える。
じゃあ後で研いでもらって、使えそうなら書庫に入れておこう。次だ。
……
純ミスリルの指輪
ジロールのペンダント
地母神のカメオ
マチルダのロケット
指輪(付与:MP増加)
指輪(付与:SP増加)
指輪(付与:力)
指輪(付与:なし)
……
などなど……。
小さい物だから一気にボロ袋の上に出してしまった。
価値もピンからキリまである。
「使える付与アクセサリーはもらうとして、それ以外はどうしようか」
「うーん、下手に売りさばけないよね。古城由来ってばれたらおおごとだ」
「じゃあギルドにまかせちゃおうか」
その方向で、ということで再び書庫にしまった。
……
朽ちた槍 ×5
朽ちた鎧 ×16
朽ちた剣 ×14
……
この辺りはインゴットにするけど、資金に余裕ができたから、暇な時に出せばいいか。鎧はすてよう。次。
……
ルチル製の薬研(鉱物破砕用魔道具)×1
……
「これは後で使うから売らないでおこう」
「え? 自分で鉱物を壊す機会なんて……ザートちょっとこれ!」
……
蔵玉層の石塊(三十二ルム)
練重層の石塊(五十三ルム)
光帯層の石塊(二十五ルム)
石木層の石塊(八十三ルム)
流積層の石塊(六十八ルム)
蔵玉層の石塊(四十一ルム)
基石の石塊(九十四ルム)
……
リオンが薬研の下に表示されている石塊の表示に目を見開いている。
なるほど、ソートしたときに道具と材料は並ぶんだなー。優秀だな書庫ー。
「ザート、これ盗掘……」
「いや、ね? 採取制限があるって知る前に書庫の中にいれちゃってさ、その後に色々あってね……ごめんなさい」
反省の心が伝わったのか、リオンはため息をついて許してくれた。
「さて、一番面倒くさいのがこれなんだよ」
……
蛇眼の祭壇(長城壁築城用:小破。使用可能) ×2
……
光の板に表示されるものものしい名前。括弧の中にある用途のスケール感。非常に扱いに困る。
「辺境伯しかもってないだろこれ。絶対外に出せない」
「だね……ちょっと保留にしよう」
……
城壁のがれき(5万ディルム)
……
「これで最後か。ザート、改めて聞くけど、書庫ってどれくらい入るの?」
「わからない。海に行ったら一度試してみようか」
堤防の修繕でかなり使ってもこの数字だ。本当にどれだけ入るのか。
そんなことを考えて床の上のボロ袋ごと書庫にしまった。
「はあー。驚きすぎてちょっと疲れた」
リオンがうなりながら長い手足を伸ばす。
食事にしようという事になり二人で部屋を出た。
「そうだ。今日はコロウ亭名物ポーション蒸し風呂に入れるんだった」
風呂についてリオンに説明しながら階段を下りた。
リオンもあの気持ち良さにぐにゃぐにゃになることだろう。
食事後、僕らは買い物に出かけた。
メインだった武器防具店を出る頃には太陽がだいぶ傾いていた。
この季節には珍しく顔を見せている太陽がまぶしくて、目が慣れるまで逆にある東の空をながめる。
春先にブラディアに着いた頃はかすんでいた空も、夏の色を帯びつつあるようだった。
「おまたせザート」
今出たばかりの扉から、装備を新調したリオンが出てきた。
ラピスラズリ色をした女性用のギャンベゾンで、外側の細かい紺色の筋金と茶色のベルトがアクセントになっている。
戦闘時には詰め襟になる胸元も、今は街着のように折り返して開いていた。
今の季節に咲くスイギクのような淡い水色のシャツを合わせてくるあたり、リオンはけっこうオシャレ好きなのかもしれない。
「う……外でみると、やっぱり派手だったかな? 冒険者なのに……」
「いや、そんなことない、似合ってるよ」
こちらが黙っているのをネガティブに受け取ったのか、リオンが困り顔をしていたのであわてて否定した。
「私も、そっちのレザージレは良いなって思うよ」
僕が買ったのはカフィアの羽毛のようにうっすら茶色い、ジレ型の革胸甲だった。
前はただのジレだったけど、これはリバーシブルで、内側は筋金付きの鎖帷子になっている。
戦闘時は裏返し、リオンのようにえりを立てて戦うものだ。
「それにしても今日は散財しちゃったね」
それぞれの服で軽く十六万ディナは超えているし、他に買った食料、消耗品の類いの分もある。
もちろん、多めに買ったそれらは書庫の中だ。
僕らは明日に第二要塞を発って、リオンの粗製ロングソードを手に入れるため、第二港へと向かう。今日は一日防具の新調や消耗品の補充などをしていたのだ。
帰り道は少し遠回りをして、屋上を渡る道でコロウ亭に帰ることにした。
大きな街路樹のないこの街では、屋上はほとんどが暑さよけに土がかぶせられている。
日を追うごとに緑濃くなるのはそれぞれの家の住民が植物を植えているからだ。
パショネ、ゲラン、ガルデニア。
横を通りながらリオンがなでているのはどれも雨期に一気に育ち、花を咲かせる園芸種だ。
自然という意味では野草があふれる地上も良い。
けれど、出城の空中庭園も、植物以上に、好きで庭造りしている人の愛情が感じられて良い。
目の前でゆっくりと語りかけるように、花のふちに細い指をおどらせているリオンも同じように思っているんじゃないだろうか。
「ザートも好き? こういうの」
視線に気づいたリオンが照れくさそうに笑いながら訊いてきたので黙ってうなずいた。
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