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法陣遣いの流離譚  作者: 空館ソウ


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08_73 シームルグの魂魄を編む



 シャスカを連れ、城壁から前方の傾斜堡塁けいしゃほるいに降り立つ。

 緩い下り坂の途中に平らな場所をつくってアルバの祭壇を置き、作業場を確保した。


「でははじめるとするかの」


 青浄眼の視界にシームルグの死体の設計図を映し出す。

 それにあわせて死体を再構成していく。ジョアン叔父らを再構成した頃にくらべればだいぶ楽に出来るようになったとはいえ、今の僕の経路は焼けかけている。限界がこないようにゆっくりと、細心の注意を払って作業をすすめる。


『お主、此度の戦いでさらに神器の扱いが巧妙になったのう』


 青い視界の端にシャスカの文字が浮かぶ。なぜ神器ごしなんだ。


『上空から自分に向けて何度も金属杭を落としては回収してたんだ。法陣フラクトゥスを展開してザハークと戦っている間もだぞ? 上手にもなるよ』


 今回の戦いは経路への負担より神経をすり減らした気がする。

 ザハークが慢心していなければ、聖釘が役に立たなければ、雷の大魔法が失敗すれば……思い返せば切りが無い。

 そしてなによりサロメの裏切りだ。


『サロメには見事に手玉に取られた』


『しかたあるまい。執念深いあやつはずっと以前より準備をしていたようじゃ。我も死を覚悟した。じゃから……その、礼をいうぞザート』


 思わず作業を止めてシャスカに振りかえると顔をまっ赤にさせてそっぽを向いていた。

 神器で会話をしていたのは直接お礼をいうのが恥ずかしかったからか。

 思わず目を細めると睨まれたので作業を再開する。


『僕も、最後の時は本当に死を覚悟したよ。だから、魂から復活した後、リヴァイアサンの神種を喰らい真竜になってまで僕達の事を助けてくれた彼をなんとしても復活させたい』


『それは我も同じじゃ。ほれ、魂の器の準備はできたぞ』


 シャスカの言葉にうなずき、儀式のための祭壇を外に出しシャスカと共に座る。

 今回は反転した魂魄ではなく、互いが完全に離れた魂魄を再びつなげるため、万全の状態で法陣の双眼を扱う必要がある。


「良いか、空間が混じるイメージで、ゆっくりと魂魄を同時に出すのじゃぞ」


「わかった」


 目の前のならした土の上に法陣を展開し、壁と天井をつくり空間を区切る法陣の(はこ)を作りだした。

 柩がほとんど見えず、かすかな光の明滅だけでかろうじてあるとわかるのは、法陣にそそぐ魔力を極微量にとどめているからだ。


「眼中の空間と、眼前の空間を、混ぜる」


 かすかに明滅する柩の中に真竜シームルグの身体が半透明となって現れる。

 それに魂の器を重ねる。


「魂が魄に重なった。器を分離せよ」


 ささやくシャスカに従い血殻でできたウジャトの花だけを右眼の中にもどす。

 赤浄眼を開くと、見えるのはかつて救えなかった魂。

 青浄眼を開くと、うつるのは魄の中でかすかに動く魔力の流れ。

 生きている。もうすぐ、成功する。

 そう思った瞬間、禁忌へのおそれが悪寒と吐き気となって身体に現れる。


「こらえるのじゃ。ゆっくりと眼前の空間に真竜を引き出せ」


 生き物を収納した事による拒否反応を我慢しつつ操作を続け、法陣を消すと、そこにはサロメを倒した四枚の翼を持つシームルグが横たわっていた。

 魔力は経路を廻っている。けれど、目を覚ます様子はない。周囲の皆も誰一人声をあげる事無く見守っている。


『シャスカ、これは大丈夫なのか?』


『うむ……今は眠っているのと同じ。後は魂の中の精神が動けば目覚めるはずじゃ。我の知識も完全ではないため、自信はないが……』


 そこは普段通り自信ありげに言って欲しい。


「この匂い……嗅ぎ覚えがあるよ!」


 経緯を見守っていると、突然少年のような声が辺りに響いた。

 誰の声かと思って首を廻らせると、背後の城壁で青い身体の真竜が後ろ足で立ち上がりこちらをみていた。


「え、今のビーコ⁉」


「お前そんな声だったのかよ!」


 城壁の皆が盛大に沸き立っている。


「我がイルヤ神を服従させたため、これまで竜の言葉、と我らが呼んでいた固有の言葉も理解し合えるようになったのじゃ」


 よきかな、と満足げにうなずいているシャスカ。


「これが一番混乱が少ないと思ったけど、それでもすごい騒ぎだな」


 ため息をつく僕の脇腹を、人の悪い顔をしたシャスカが肘で突いてくる。


「お主とて今までこやつの正体をいっておらぬではないか」


「確かに、どうせなら盛大に皆を驚かせたいからな」


 僕もシャスカと同じく悪い顔をして皆を眺めていると、ビーコと目が合った。


「ザート様! もしかして、もしかしてなんだけど……」


 そこまで言うとビーコは声を詰まらせてしまった。おおよその予想は付いているけど、口に出せないのだろう。


「団長、ここまでして答えないのは性質が悪いですよ」


「めんどくせぇから俺達で言わせようぜ。なぁ団長、こいつ起こして良いのか?」


 今度はマコラとキビラだ。


 マコラは落ち着いた女性の声で、キビラは野太い男性の声だ。口調からだいたいの性格もうかがえる。

 初めて聞く騎竜の声に、竜使い二人も言葉を失っている。


「いや、起こすならふさわしい人がいるだろう……リュオネ!」


 一足早くすべてを伝えてあるリュオネに付き添われたカレンがやってきた。


【後書き】

お読みいただきありがとうございます!

ひっぱる事をお許しください<(_ _)>

二つの空間うんぬんについてはちょっと心に留め置いていただければと思います。


八章完結まで隔日更新に切り替えます!

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