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01_37 古城の秘密

 今度はこちらが驚かされた。


「子爵は冒険者だったんですか!?」


 冒険者から国持ち貴族になりたい僕としては聞き逃せない話だった。

 こんなに身近にいたなんて、ぜひくわしく話をききたい。


「ザート君落ち着いて。リオンちゃんが驚いてるでしょう」


 リズさんの指摘で少し冷静になる。

 そうだった。リズさんには僕の将来設計をきいてもらっているからいいんだけど、リオンにはまだ話していなかった。


「すいません。古城のボスの件が先ですよね」


 気を取り直し、改めて子爵の執務室まで向かう。

 焦る必要は無いんだ。この件が終わったら子爵に話をきける時間をもらえるかきいてみよう。


 リズさんが扉をノックすると、落ち着いた雰囲気のメイドさんがあらわれた。


「サティ、ウルヴァストン様に急いで報告したいことがあるの、とりついでもらえる?」


 うなずいたサティさんが一度扉を閉める。前はリズさんがそのまま入っていたけど、普段はサティさんが秘書をしているのかな。


「問題ないそうです。どうぞおはいりください」


 部屋では子爵が立ち上がり窓の外を見上げていた。


「ギルドの方が騒がしいから、何か起きたとは思っていたけど、湖水地方の件だったか」


 振り返った子爵はこの話を受けた時とは違って渋面をつくっていた。


 ソファに座り、リズさんがさっき僕らがした説明を要約して話してくれた。


「それで、彼らはひときわ大きい沼の巨人を倒した結果、魔境から抜け出せた、というのですが……」


 リズさんがそこまで言った後を言いよどむ。


「……信じられないから、あれをもって私の所に来た、という所か」


 子爵の視線の先には凝血石をのせた鑑定機があった。


「経緯は分かった。では鑑定をしよう」


 子爵は立ち上がり執務机の上に置かれた鑑定機を操作した。

 ジョアンの書庫のような光る板に文字が浮かび上がる。


……

鑑定結果

・凝血石(大)

固有名『グレンデールの魂』

……


「グレンデールか……」


 意味深な子爵の言葉の後、執務室が静寂に包まれた。


 僕とリオンにはこの固有名の意味がわからない。

 だから、その辺りに一番詳しいであろう子爵が口を開くのを待つほかなかった。


 子爵は長いため息をついてから、無言でソファをすすめてきた。長い話になるんだろう。


「確かに、状況と凝血石の鑑定結果から、古城は魔境になっていたと推定した。君たちには踏破者および解放者として報奨金がでる。位階も、急には上げられないが、最大限早く上げよう」


 本来なら飛び上がるほど良い話であるのに、子爵の沈んだ雰囲気から素直に喜べない。


「今回の件は他言無用に願いたい。それは我々ギルドと、君たち個人がある勢力を敵に回さないために必要な事だからだ。これからその理由について説明する」

 

 きな臭い話になってきた。ある勢力って、貴族がらみだろうか?

 

「まずグレンデールが誰かについて話そうか。この辺り一帯が壁で囲われた時、辺境伯はある狩人を配下の寄子として領主に推薦した。その男の名前がグレンデールだ」



「グランドル領の名前は彼の名前、グレンデールから取っている。記録上、彼はこの領地の初代領主だった。そのグレンデールが君たちに倒されるまで古城にいたとはね……」


 子爵はソファに身体をあずけて目をつぶってしまった。

 様々な考えを巡らしているのだろう。


 リズさんがいれてきた紅茶で口をしめらせてから、子爵はかたり始めた。


「次に古城だが、本来はタリム川に沿って作られる第三長城壁につながる要塞として使われる予定だった。古城が放棄されたのは魔素だまりができたからだ」


 それは冒険者の間で昔話として伝えられているから知っている。

 でも僕はその理由に疑問を感じていた。


「魔素だまりがうまれたからといって、城一つまで放棄するでしょうか? 魔獣を倒し続ければ短期間で魔素だまりは消えるものですよね?」


 僕の問いに対して子爵が沈黙する。

 沈黙の理由がわからずに緊張感だけが高まっていく。

 子爵が一つ深呼吸をした。


「魔素だまりが生まれたのは多くの冒険者が寝起きする城の床だった。そして城の城門は何者かに閉ざされていた。と、外で見張りをしていた者が証言したらしい」


 聞いた瞬間、理解する前にイメージが脳裏に浮かんだ。


 第三要塞の中で寝る建築を請け負った冒険者達。

 閉じられた城門。

 浮かび上がる魔素だまりの波紋。

 引退間近の冒険者が苦しみ出す。

 彼の視界は赤く染まっていた。

 ほどなく他の冒険者もつづく。

 彼らは城門に殺到するが、固く閉ざされた門は動かない。

 魔素だまりに漬け込まれた人々が魔人へと変わっていく。

 

「何者かが、冒険者を魔人に変えた、ということですか」


「そうだ。城にいたのはグレンデールのクランだった。人を襲う彼らを狩人達は第三要塞まで押し戻したが、最後のとどめをさせなかった。なぜなら城に入れば魔素だまりに沈められ魔人にされてしまうからだ。攻めあぐねた当時の辺境伯は橋を打ち壊し、川をせき止め、結界を施して封印した。長い期間をかけ、周りの魔素だまりを潰していき、古城を弱らせる策を取ったんだ。これが古城が放棄された真相だ」


 一息おいて、子爵がカップを取り上げる。それにあわせて僕らも紅茶で渇いた口の中を湿らせた。


「犯人の有力候補にグレンデールも上がっていたけれど、証拠がなかった。しかし今回君たちが持ち帰ったボスの凝血石によって、犯人は魔人グレンデールだったと推定できた」


「それで、犯人はグレンデールだったと広めると都合が悪い、ある勢力というのはどこですか?」


 僕の問いに、子爵は鑑定機の上の凝血石をちらりとみた。


「エルフだよ。グレンデールはエルフだった。魔術学院のエルフは学院の発足時から同族に伝わる秘術の研究を深め、魔素だまりから直接凝血石をとりだす研究を独占して行っている」


 魔術学院か。確かあそこはエルフと非エルフとで派閥がわかれていたな。


「エルフと対立する派閥は、以前から”エルフは魔獣や魔人の軍事利用を企んでいる”と非難していた。グレンデールのおこなった、魔素だまりを発生させ、魔人の集団を生んだ行為は十分軍事利用と言える。対立派閥にとって、エルフの派閥を批判する格好のネタになるんだ」


 だからグレンデールの件を広めるとエルフににらまれるわけか。


「理解しました。決して口外しないようにします。代わりにもし、僕らがエルフににらまれるような事があった時にはご助力をお願いします」


「承った」


 子爵の約束をとりつけた僕らは丁寧すぎるほど深く頭を下げた。

 子爵には是非僕らを守って欲しい。さらにいえば、神様でもなんでも、エルフと自分達を遠くに離してくれるならいくらでも祈りたい気分だ。


 僕はエルフから遠ざかりたい理由を二つもかかえているんだから。





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