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法陣遣いの流離譚  作者: 空館ソウ


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08_44 ウィールド工廠の目覚めは荒っぽい

 それにしても、と、竜種の死骸があった空間に整然と列をなした登録者の用紙を処理しながらララさんが続けた。

 ろくでもない事を言われる確信がある。


「貴族になってリュオネ”殿下”と結婚しただけでもびっくりなのに、もう第二夫人までつくっちゃってー。さすがたらしのザートですねぇ」


 にひ、と笑ってこちらを流し見る。

 第二夫人って誰だよ。

 まあさっきまでの視線の先をみていればわかるんだけどさ。


「クローリスはパーティメンバーなのでそういう関係じゃないです」


「えー、あれだけ尻に敷かれておいてそれは説得力がなさすぎ……」


——ゴッ!


「痛い! 脳が揺れる!」


「あまり笑えない冗談を言わないで下さいね、ララ」


 既視感を感じるやりとりに思わず振りかえると、そこにはマーサさん、ではなくてブラディアでティルク人難民を保護していた兵種長のジャンヌがいた。


「団長、お久しぶりです」


 相変わらずの生真面目っぷりで折り目正しく頭を下げてくる様子は淑女然としている。

 バスコの話では由緒ある家の出らしいからあながち間違いでも無いだろう。

 これで遺跡から出土した無骨なロッドを手に持っていなければなぁ。

 彼女にはアンギウムへの移民を希望するティルク人と一緒に来てもらった。

 それにしてもララさんとはいつの間に仲良くなったのか。


「時に団長、クローリスを第二夫じ「違います」」


 即座に否定させていただいた。自分でいうのはありなのか。話がすすまないじゃないか。


「それで、ジャンヌが連れてきたティルク人はみんな開拓者を希望しているのか?」


 振りかえった先には整然とカウンターの前にならぶ獣人達がいる。

 中にはみた事のある顔がいるけれど、皆若い。

 身につけているのも軽装鎧だったり、商人をやろうという風には見えない。


「大半はそうですね。隊伍での実力は銀級相当ですので問題ありません。後は一部の女性が【白狼の聖域】への入団を希望しています」


 こちらの視線に気付いた数人の女性が頭を下げる。

 やっぱりティルク人女性にはリュオネの親衛隊に憧れがあるんだろう。


「まずは開拓者として登録して、スズさんがいる時に面接してもらえば良いかな」


 僕の言葉で列に並んでいた子達が露骨にビクッとしたけど、スズさんの圧に耐えるのは親衛隊の最低条件だ。彼女らには頑張って試練を乗り越えて欲しい。



 庁舎の混雑も峠をこしたようだったので、ジャンヌとリュオネをさりげなく誘ってその場を脱出し、街の外縁部に出た。


 列の流れがだいぶ早くなっていた。峠は越したんだろうから大丈夫だろう。

 ああなれば後は受付に長けた人が綺麗にさばいていった方が混乱はないはずだ。クローリスも文句は言わないはず。クーデターなんて言葉も引っ込めるだろう。

 機嫌良く歩いている前で、ジャンヌとリュオネが何やらこそこそはなしている。


「もしかして自身が無自覚に脅したのを気付いていないんですか?」


「あー、うん。多分そうだよ」


「あれを見た後、ぐずって列を乱していた冒険者も開拓者になるしかないって急いで列に並んでいました。法陣を見て団長が領主だって気付いた人達もいたので、力にものを言わせる領主だと印象も悪くなっているはずです。スズ参謀に報告しなくては……」


「だ、大丈夫だよ。私が言っておくし、こういう事が無いように見張っておくから!」


「ふふ、そうですか。たしかに、妻のいう事の方が団長もよく聞くでしょうね」


 何を話しているかは知らないけど、リュオネがまっ赤な顔でこちらをみたので、何かの理由でからかわれているんだろう。

 侯主と臣下というどこか遠い関係だった皇国軍の皆がリュオネと普通の友人のように接するようになって良かった。


 ある種の感慨にふけりながら地上に続く階段を降りる。

 今僕らが来ているのはウィールド工廠、技術開発部だ。 


「ザート、ジャンヌを竜騎兵の所につれて行くんじゃなかったの?」


「うん、でもその前に、ちょっと頼んだものを受け取りにね」


 鍛冶場に入ると一気に汗が噴き出た。

 ティランジアの気候にあわせて風の通りの良い作りにしていたのにこの熱気か。やっぱり頼んだもののせいで、炉の温度が上がったままなのかな。


「ウィールドさん、ウィールドさん!」


 呼んだけれど返事がない。品はもう完成しているはずなんだけどな。


「ウィールドさんなら徹夜明けで寝てるわよ」


 中二階にある扉を開けてこちらをのぞき込んできたのは付与術師としてクランに入ったビビだった。

 ツンとしているのは相変わらずだけど、物腰がすこし柔らかくなった気がするな。


「ちょっと待ってて、今起こしてくるから」


 クルリと背を向けたビビが入っていった扉の向こうから威勢のいい声が響いてくる。

 物腰が柔らかくなったというのは僕の錯覚だったようだ。


「大丈夫ですか? ウィールドさん」


「……ああ、検査で徹夜したが、問題無い」


 目の前の切り株椅子に座りながら、生のままかんだ薬草をポーションで流し込んだウィールドさんの目は据わっていた。

 その目の醒まし方を誰が考えたのか訊きたくなったけどやめておこう。

 自ら危険な小動物の逆鱗を触るのは愚か者のすることだ。


「で、五本は用意できたが全部もってくか?」


「いえ、予備も入れて三本で」


 頷いたウィールドさんが大型魔道具を操作すると、奥からガタガタと巨大な金属の杭が現れた。


「団長、これはオロクシウスを倒した時の”オベリスク”ですか?」


 十ジィは余裕で超える杭を前に、ジャンヌが興味深げに首をめぐらせている。たしかに、見かけはアレに似ているな。


「オベリスクよりずっと耐久性が高い。ミンシェンに言われた通りに作ったが、この合金はとんでもないもんだ」


 杭をパンパンと叩いて見せたウィールドさんの笑みには若者に先を越された嫉妬のようなものはひとかけらも無い。やっぱりこの人は根っからの職人だな。


「よし、じゃあもらっていきます。ついでにこれを削り出した時のカスはありますか?」


「カス? そこの袋に詰まっているが、何に使うんだ?」


「一応、やれる準備は全てしておきたいんです」


 レコンキスタを成功させる確率を上げる事は全てしておきたい。

 けげんな表情のウィールドさんに笑みを返して僕らは工廠を後にした。

いつもお読みいただきありがとうございます。


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