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01_33 古城の敵を一掃する


「ザート、すごいよこの剣! スキル無しで君みたいに理想の動きができるなんて!」


 駆け寄ってきたリオンが肩や背中を遠慮無く叩いてくる。

 いや、すごいのはリオンの素の剣技だと思う。炎刃の効果だって、元の技術や知識が無ければ増幅できないんだから。


「これだったら古城のボスとだって戦えるはず――、え?」


 古城に向かう途中。リオンがしきりにしゃべっている最中に、パチッというたき火で薪が爆ぜたような音がした。

 リオンの手の中で精霊の炎刃が、刀身を白から黒へと色を変える。


「この武器の特性でね。使っている間は使用者の能力が増幅されるけど、一定時間経つと休眠状態に入るんだ。復活までには大体一時間くらいかな。使う時間は魔力の込め方で前後するみたいだよ」


 炎刃の仕様を説明すると、リオンの犬耳がすっかり伏せてしまった。もちろん僕のなかで。


「それじゃあここぞ、という時しか使えないのか。古城に向かうまでは今まで通りフレイルで戦うしかないね」


 リオンが残念そうにケースに炎刃をしまおうとするのをとどめる。

 

「いや、普通の小ぶりなショートソードとしてなら十分に使えるよ。それまでは僕がメインで戦うし、隠し玉だってある。さっきの沼の巨人達に追いつかれる前に先に進もう」


 それに、さっきの巨人達が堤防を越えてあふれれば湖水地方で探索する鉄級冒険者に被害がでる。のんびりしている時間はない。


 歩きながら書庫を使って魔砂を回収すると同時に、その魔砂を使ってファイアを書庫内にためていく。

 そして時々出てくる魔獣は強化した身体で倒しつつ進む。

 我ながら手品じみた行軍スタイルだ。身体強化と魔力操作の練度あっての芸当だな。


 川底は石畳に変わり、両側には胸壁が並ぶようになって、行く先には古城の入り口が見えている。

 つまりここは長城壁の上だ。もう古城のエリアに入っているらしい。


「ザート! 古城の門から巨人が出てきた!」


 二体の巨人が槍を持って此方に向かってくる。腐りかけたレザーアーマーに水ぶくれしたような身体を押し込めている様子は本当に門番みたいだ。


『ファイア・アロー・デクリア!』


 十本の火矢を一体に集中させたけれど、さっきと違って即死しなかった。

 もう一体が槍を突き出してきたのでバックラーを使いはじく。


『向こうはまかせて!』


 リオンが脇をすり抜けてとどめをさしにいったので、一対一になる。

 槍と数合打ち合い、懐に入ってから首を切って倒した。


「川底の奴らより強いけど、やっぱり沼の巨人は火に弱いみたいだ。油断せずに行こう」


「そのセリフは油断しそうになったから言える言葉なわけで……沼の巨人を雑魚扱いするザートも大概だね……」


 生き残るのが最優先だ。あまり自重もしていられない。

 とにかく、後ろから聞こえるリオンの乾いた笑いは聞こえないふりをする。


「これで古城のボスを倒したらダンジョン攻略になるんだよね。またリズさんに詰め寄られるのかな……」


 骨で肩をトントンしているリズさんの顔が浮かんだ。

 こっちも聞こえないふりをさせていただこう。




 長城の坂を登り切ると、外の壁に隠されていた古城の骨組みが現れた。

 作りかけのため、最初からなかったのか天井はなく、床も半分以上が抜け落ちている。

 一方で、城壁そのものを支えている大規模な四本のアーチは崩れずに残っていた。


 ブラディア初期の建築だけあって、アーチも小型の物が密に組まれていて狭い印象だ。

 柱の隙間を沼の巨人達が歩いているのが遠目からでもわかる。


「出城の中って空洞なのか……沼の巨人ばっかりだね」


「うん、ボスは沼の巨人の上位種できまりだろう」


 ダンジョンボスは、ダンジョンでもっとも多く出会う魔獣の上位種であるというのが定説だ。

 そいつを倒すと空間のゆがみが消える。今のゆがんだ太陽は消えて、元の曇り空に戻るはずだ。


「どうする? 外周の階段を下りながら倒していくのが妥当だと思うけど」


 確かに堅実に進むならそれがいいだろう。

 でも今回は時間も余力もない。

 出城一つ分の区域をくまなく探索していれば、階段の上下で挟まれる危険もある。

 だから今回は荒っぽくいかせてもらう。


「リオン、あの長城壁を支える左のメインアーチの中央に要石があるだろう? あれをクレイで操作できるか?」


「えーと、うん、できるな。でもそんなことしたらアーチ自体が……ザート、うそだろ?」


 僕のもくろみに気づいたリオンが何言ってんだこいつという顔をしてきた。そんなにおかしいだろうか?

 

「大丈夫、横のアーチが崩れても中央の大柱が無事ならこっちの長城壁はくずれない。もし崩れても脱出手段はあるから安心してほしい」


 城内の半分が崩壊すれば沼の巨人は壊滅するだろう。

 僕だったら地中の凝血石も回収できるし、いいことずくめだ。

 なんという効率だろうか。いや、いかん、集中。


「……はぁ。それじゃ、巨人の凝血石を三個もらうね。時間がかかるから警戒をたのむよ」


 腹をくくったのか、リオンは僕の背中の荷物から凝血石を取り出し、目標を見据えて集中し始めた。

 黄色の光がリオンの左手から目標まで一直線に伸びていく。

 さすが上位土魔法の使い手だ。凝血石から引き出した魔力を殆ど拡散させる事無く目標につなげた。


「いくよ、『クレイ』!」


 光が増し、要石自体が光りはじめた。巨大なので変化も遅いけれど、石の中は確実にやわらかくなっているはずだ。


 九秒、十秒……結構かかるな。リオンが不安そうな顔でこっちをみてくる。大丈夫だから。ここが壊れても魔境だからもどるし、困る人もいないから。


 笑顔で頷き返すとなぜか微妙な顔をされたけど、重低音が聞こえたので慌てて前を向く。

 続けて耳を打つような激しい衝撃が連続して起き始め、要石が角砂糖のように潰れた。


 支えを失った城壁のメインアーチは下の構造物と、その上の沼の巨人達を巻き込みながら下へと落ちていった。地響きと、ついでおそってきた濁った爆風を慌てて風魔法でそらす。


「ザート、右も落ちる!」


 左のメインアーチと連続する構造になっていたのか、右のメインアーチも中央の大柱の上を滑るようにずれて潰れていった。


 粉塵が古城の外へ流れていった後に現れたのは恐ろしいほどの惨劇の現場だった。


「——、ザート、これ、想定内?」


 ほぼ全壊となった階下を眺めていたリオンの険しい目がこっちに向いてきた。こわい。


 いや、うんわかるよ?

 確かに、一歩間違えれば今いる場所も崩れていたってことくらい。

 でも安全策はあったんだよ。言えないけど。


 言えないなら意味ないって? そうですね。


「想定外ですごめんなさい」


 脳内で一人問答をした後、リオンに謝罪させていただきました。

 




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