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法陣遣いの流離譚  作者: 空館ソウ


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08_28 シャスカの人生経験

──ぴぃぃぃぃ──


 コリーの小隊により大きな石が取り払われた荒れ地に甲高いなき声がひびきわたる。一瞬太陽の光をさえぎった影がゆるく弧を描きながら飛んでいる。これだけみればトビが空を飛んでいるのかと錯覚してしまいそうだ。


 なんとなく既視感を覚え首をめぐらせると、難しい顔をしていたクローリスと目が合った。


「なんで見るんですか」


 クローリスがにらむと同時に感情で色を変える魔道具が働き、暗紫色だった髪が明赤色に変わった。顔見ればわかるけど、怒ってるな。


「ザート、私は別にトラウマとか無いですよ。普段からワイバーンで移動しているんだから当然じゃないですか。今日はどうしてもというから席を譲ってあげただけです」


 挑戦的な笑みを浮かべているけど身体は小刻みに揺れている。

 クローリス、そういうセリフは笑っている膝を黙らせてから言うんだな。

 グランベイで畑に魔獣よけを蒔く時に負ったトラウマはビーコやチャトラに乗り慣れてもなかなか消えないらしい。


 十騎士領の代官となった首長達は船でそれぞれの港へと帰っていった。

 彼らにはアルバ神復活の報せと畑を潤す灌漑の準備をしてもらう。

 農地を囲む長城壁を作るのはコリーだ。護衛を兼ねたボリジオと一緒に各港におもむき、地図を元に農地にできる土地を長城壁で囲んでいく。

 十騎士領を貫く長城壁は後回しだ。もうすぐ種を蒔けない夏になってしまうので畑を最優先で用意する。


 ボリジオにはもちろんたっぷりと魔土を持たせてある。囲んだ土地に蒔くためだ。

 ちょうど今ビーコに乗ったシャスカとリュオネがしているように。


「シャスカは大丈夫だった?」


 上空からふわりと降りてきたビーコの背に向けて声を投げかけるけど……

 ごめん、愚問だった。

 苦笑するリュオネの腕の中で白目をむいているのに大丈夫も何もないな。


「長城壁の角にも魔土を蒔くために急旋回したからねー」


 竜使い用のヘルメットを脱いだオルミナさんが申し訳なさそうにしながらビーコから飛び降りてきた。

 ショーン達がゆっくり降ろす落下防止用ベルトにぶら下がったシャスカを受け取った。


「シャスカ、もう地上だから大丈夫だぞ」


 荒く胸を上下させ、口と目を半開きにしたシャスカの意識が段々戻ってくる。

 よだれが垂れていたひどい顔が段々と元の整った顔にもどって……


「痛った!」


「ザート大丈夫⁉」


 顎に! シャスカの硬い頭が顎に! 敵意のない攻撃ってほんと厄介だな!

 見れば腕の中のシャスカも頭を抑えて涙目になっていた。


「ブランクじゃ! 長らく自らを封じておったから心も身体も子供になってしまったのじゃ! 身体が大人であった昔であれば平気であった!」


 腕の中で暴れ出したので地面に降ろすと自分の失態が許せないのかいつになく激しく吠え始めた。

 白目の顔をのぞき込んでいた僕もいけなかったんだと思う。神さまでも年頃の女性だ。

 だからとりあえずビーコにあたるのはやめてほしい。


「もう! ビーコが怯えるからやめてください!」


 ほら、オルミナさんが怒るから。

 ビーコの首にしがみついて頭をなでてにらみつけるのはさながら母猫が我が子を守るようだ。

 その勢いにシャスカも思わずたじろいだけど、すぐに勢いを取り戻した。


「なに! オルミナ、アルバ神たる我の不興をかってでもその竜をとるのか!」


 恥ずかしさで引っ込みがつかないのか、シャスカが普段は見せない横柄な態度でオルミナさんをにらみつける。

 竜という言葉にも、カイサルの記憶を見たからか、どこか馬鹿にしているというか、トゲがあるな。ちょっとまずいか。


「とります! 私はボリジオとは違って自分とビーコが一番ですから!」


 ボリジオがウジャト教団に帰依しているのを前提にしての嫌味だろう。

 オルミナさんも大人げないというか、たとえ正論でもビーコの害になる様であれば絶対に首を縦に振らないからな。

 ましてや今回悪いのは神にもかかわらず駄々をこねているシャスカの方だ。


 二人の間に険悪な雰囲気が流れ始める。いつもとは違う雰囲気にクローリスは言うに及ばず、リュオネも不安そうにこちらを見てくる。


「シャスカ、そのへんでやめとけ」


「何をするザート!」


 こういうのは下手に口を出すとこじれるのでシャスカを抱え上げてしまう。とりあえず神殿で頭を冷やしてもらおう。


「リュオネ、こっちを頼んで良いか?」


「もちろん、竜舎によってから皆でそっちに行くね」


 頼りになる奥さんに後を任せ、空を駆けて神殿に向かう。

 シャスカはまだ肩越しに騒いでいるけど聞いてやらない。

 オルミナさんじゃなくても仲間であるビーコを軽んじるのは駄目だ。

 自分自身だからってカイサルの記憶に引っ張られて良いはずがない。


   ――◆◇◆――


 神殿に皆が来たのは夜になってからだった。


「オルミナさんは?」


「そんなに怒ってはいないけど、神さまに反省してもらう、って竜舎にこもっちゃった」


 力なく笑うリュオネにショーンが頭をかきながらため息交じりに続く。


「今夜はあっちで寝るみてぇだ。そっちはどんな具合だ?」


「さすがに自分が悪いって反省しているよ。神の立場が無ければ自分から謝りに行くぐらい」


「神さまという立場もめんどくさいですねぇ」


 皆でそんな事を言い合いながら食堂に入ると神殿に残っていたスズさん達に見張られたシャスカが椅子の上で膝を抱えて待っていた。

 反射的に立ち上がり口を開きかけたけど、ばつが悪そうにまた膝を抱えた。


「食事にしようか。今日の晩ご飯は僕とシャスカが作ったんだ」


 皆をテーブルに残して厨房に向かう。

 その際にシャスカに目配せすると椅子から飛び降りたシャスカが無言でついてきた。

 厨房から大皿に乗せて持ってきたバルク・アジュラムをテーブルに並べると皆の目が料理に吸い寄せられる。


「うまそうな揚げ魚だな。たまらんぞ」


「ザート、早く席について下さい!」


 デニスとクローリスの食いしん坊二人組が急かしてくるけど、構わずに魚が乗った大皿を一つ持ったシャスカの背中をたたくと丸めた背中が少し伸びた。


「今日の料理は我が直々につくった。我の……申し訳ない気持ちがこもっておるのでそのつもりで食して欲しい……のじゃ」


 消え入りそうなシャスカの謝罪で場が穏やかな空気に包まれる。

 元々大した騒動でもないのだ。皆そこまで責めているわけじゃない。

 でも、ちょっと人生経験の少ないこの自称二十代の神さまにはこたえたようだ。

 

「香辛料も控えめだからビーコも食べられそうだ」


「後で俺たちが持って行ってやるよ」


 アルバトロスの二人にシャスカはほっとした笑顔で頼むぞ、と大皿を差し出した。


「じゃあ、良い具合に話がまとまった所で乾杯しましょう!」


 見るとスズさんとクローリスが籠に盛ったピタやワインの用意をして待っていた。

 スズさんは何も言わないけど目がいつも以上に怖い。なるほど、早くしろと。

 スズさんもそういえば食いしん坊組でしたね。

お読みいただきありがとうございます!


ほっこりするような話になりましたが、ちゃんと意味がありますので読み進めていただけると嬉しいです。


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