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07_67 結婚式場の手配には時間が必要


 祖父と孫の再会がなったので、部屋の中の緊張はあっという間に無くなり和やかになった。

 昼食も食べていなかったので、とりあえずテーブルに並べている軽食をそれぞれがとって好きに食べて話している。

 そんな中、シャスカがミルク・ビーの蜜がかかった菓子をクローリスからうけとろうとした手をふと止めて言った。


「そうじゃ、さっきミコトとも話しておったんじゃが、ザートとリュオネ、おぬしらここで婚儀をせぬか?」


「え? 婚儀?」


 ちょっと空気が読めない子2、菓子食いながら今なんて言った⁉ 

 頭がちょっと追いつかない、婚儀って結婚式だよな?


「なんじゃわからぬか、婚儀とは婚礼、結婚式じゃ」


「いや、分かってるって! なんで急にそんな話になるんだよ!」


「急といえば急ではあるが、向こうはもう話しておるぞ」


 蜜がついた指の示す先を見ると、集まって話していたアシハラの一族四人の中でリュオネが赤い顔をしていた。

 なんだかしきりに頷いている。

 なんだ、もう話し始めているのか、なんて思うか!


「言うまでも無いけど、今戦時中だよな? それに物事には順番ってものがあるんだ、僕らが順番を抜かしたら気まずい思いをする男達もいるんだよ」


 そういってショーンとジョアン叔父の方を見る。

 けれど二人とも特に反応はせずにオルニスをはさんだバルケを頬張っていた。

 てっきり気まずそうな反応をすると思ったのに。


 ん? 飲み込むまでまて? 

 ジョアン叔父は待てと手振りをした後、濁ったビールのエクトでバルケを流し込み真面目な顔をした。

 叔父さん、口の端から出ている細長いツァンも飲み込んでください。


「ザート、俺たちの事は気にしなくて良いぞ? 俺とオルミナは冒険者を引退する祝いを兼ねて式をするつもりだからな」


「俺達の方も気にすんな」


 自信ありげに言う二人を見て、それぞれの相方に顔を向ける。

 オルミナさんは笑顔、はい、問題ないですね。

 フリージアさん、その顔は不満って事ですか? 後でジョアン叔父と話し合ってくださいね。

 とりあえず、二組の先輩の事は気にしなくていいらしい。


「でも、今の不安定な情勢で式をして、その最中に女王陛下から呼び出しを喰らったりしたら台無しじゃないか。戦争が終わってからするんじゃ駄目なのか?」


 うん、やっぱり駄目だ。嵐が少しおさまっている最中に船出するようなものだ。

 結果的に問題が無くても、心配しながら気もそぞろに式をするなんて僕らにとって悪すぎる。

 

「それは多分大丈夫だ。これは協議中だから言わなかったんだが、先の二回に渡るロター沖海戦で大きな被害を出したアルドヴィン側が休戦の申出をしてきてんだよ。もし休戦が確定したら戦いは当分ねえよ」


 油断はできないけどな、と言い残してジョアン叔父はフリージアさんに連れて行かれた。

 そうか、休戦するのか……

 思う所は色々あるけど、とにかく今は結婚式をどうするかだ。


「後はミコトの都合もある」


 向かいのソファにはやってきたミコト様とリュオネが座り、その後ろにコトガネ様とアルンが立っている。


「ウチも皇帝として、国を長い間あけてはいられへんの。ブラディア独立戦争が終わったら色々事態が動くから、落ち着いてまたこれるのはずっと先になってしまうんよ」


 隣のリュオネは何も言わないけれど、横に寝た耳と目で気持ちは十分に伝わってくる。

 そうだよな、せっかくミコト様がいるんだから立ち会って欲しいよな。


「こういうものは勢いじゃ。心も決まっておるのじゃろう?」


 シャスカがたたみかけてくる。

 そうだな、独立戦争で生き延びてもバーゼル帝国やバルド教総本山のゲルニキアという対立勢力が残ってる。

 僕らの立場ならそれらと戦争になれば戦地へとおもむかなくてはならないだろう。

 引退したら安全になる、という時代ではなくなりつつあるんだ。


 よし、決めた。

 皆に立ち上がってもらい、リュオネの隣に移りその手を取り両手に包む。


「リュオネ、少し忙しく準備をしなきゃいけないけど、近日中に式を挙げるのに賛成してくれるか?」


 賛成だとわかっているけど、こういうのは口にしておかなきゃな。


「……もちろんだよ。一緒に準備しよう!」


 リュオネがありがとうといって、少しだけ目元が光る笑顔を向けてくる。

 そんな笑顔を見せてくれて、こちらが感謝したいくらいだ。

 

「よし、きまりじゃな。アルバ、ティルク二界の主神が立ち会う結婚など前代未聞じゃ、光栄に思うが良い!」 


「ウチ、皇国の外で身内の結婚式に出たことないんよ。楽しみやわぁ」


 主神二人がリュオネに飛びつくと、部屋全体が沸き立ってクランの女性達が次々とリュオネに祝福の言葉をかけてきた。

 僕の方にもショーンやデニス、バスコ、別室から出てきたジョアン叔父も駆け付けて祝福の言葉とともにもみくちゃにされた。

 嬉しいけど暑苦しい。まあ良いんだけど。


「さて、これで我の神殿を再建しないわけにはいかなくなったのう」


 いつの間にか僕の前に来ていたシャスカが口を開けて大笑いしていた。


「まさか、これが狙いだったのか?」


「人聞きの悪い事をいうでない。一本の木にいくつもの実をならせるのが計略というものよ」


 呵々と勝ちほこった笑いををするシャスカを見ながらため息をついた。

 式の準備に新郎による式場の建設、が入る式なんて前代未聞じゃないだろうか。


お読みいただきありがとうございます。


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