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07_65 神殿跡にて、コトガネの秘密



「まったく、お主には使徒としての自覚が足りんのではないか? 使徒の伴侶選びに口出しするつもりはないが、決めたのであれば早く報告せい」


「今後大事なことは早めに報告するよ」


 確かに使徒がいつのまにか結婚していたら驚くだろうな。今後忘れないようにしよう。


 今僕達は高級宿【レギア=アルブム】に向かっている所だ。

 相変わらず香辛料と干し果物の甘い匂いに満ちたバザールの雑踏をショーンとジョアン叔父が割っていく。

 その後ろをフリージアさんに手を引かれて歩いていたシャスカがまた振り向いた。


「絶対じゃぞ?」


「シャスカ、前を見ろ。危ないだろう」


 口調とは裏腹に優しい手で引き戻され、シャスカは前を歩いて行く。

 なんど念押しをするのか。

 灰色の軍服に手足だけ防具をつけた小具足姿のフリージアさんに手を引かれる後ろ姿はまるっきり親子のそれだ。

 バザールの店には冬の季節のせいか、軒に各々凝った意匠の織物を提げて熱が逃げないようにしている。

 その一つ一つに感心しながら僕達はバザールの中を通っていく。


「あ、ザート、あれ美味しそうだよ!」


「よし、買っとくか」


 バザールでは火は使えないけど、持ち込まれた焼き菓子や果物、冬なのに氷菓まで売っていたりする。

 そういったものを皆で買ったりしているので進むのはだいぶゆっくりだ。

 あ、大事なことと言えば、宿に着く前に見せてやるか。


「ショーン。宿に行く前に崖に寄ってもらえない?」


 僕のしたいことがわかったのか、手を上げて過ぎようとした角を曲がった。

 シャスカが報告しろ連絡しろ相談しろとうるさかったけど、開けた目的の場所にたどり着けばそれもぱたりと止んだ。


「おお……、ザート、ここはもしや、我をまつっておった神殿か?」


 白と黒青でできたティラジスク模様が鮮やかな床面や周囲に残る当時の壁を広場の真ん中で見渡していたシャスカが虹色の目を輝かせた笑顔で振り向いた。


「ああ。現地の人がそう呼んでいるから確かなんじゃないか? シャスカはここに来たことはないのか?」


「う、うむ……ティランジアを平らげた時に信徒がイルヤの神殿跡に我の神殿を建てたのは知っておるが、来るのは初めてじゃ」


「ティランジアを平らげた? それは侵略したのか?」


 責めたつもりはないけど、僕の質問にシャスカが慌てて答える。


「人聞きの悪い事を言うな! 世界が隣り合った時に対立を選んだのは向こうの方じゃ! ま、まあ、我もその時、たまたま血気盛んな時じゃったからのう」


 どうやら全面戦争をしたらしい。

 まあ、訊きたい事はたくさんあるけど、今はおいておこう。


「それより、神殿はあの丘の上にもあったんじゃないか?」


 白牛湾の白い砂をつくる光帯層の基石でできた丘を指さすと、シャスカは丘の崖の上からこぼれる滝のように咲く花に目が釘付けになっていた。


「ウジャト! 我の花が群れているということは、やはりここは我の神殿か!」


 シャスカがティラジスク模様の床の上で高笑いしながらくるくると回っていると、周りの地元民達が何事かと横目にみながら通り過ぎていく。

 まあ、広場だから人にぶつかる心配も無いし、嬉しそうだからいいか。

 その間に、話をつけておかなくてはならない人がいる。

 僕は神像の右眼からコトガネ様に出てもらい、ビザーニャで起きたこれまで事の経緯を説明した。


「まずはリュオネが無事でなによりじゃ。しかしまさかこの地にミコトが来るとはのう」


 喜ぶどころか驚きもせず、むしろ腕を組んで頭を捻っている。

 しかも今、神さまを呼び捨てにしたような気がしたけど?

 僕達が驚くなか、リュオネがかすかに顔を上げてコトガネ様を見た。


「コトガネ様、ミコト様ってもしかして」


「うむ、息子夫婦が産んだので、わしにとっては孫、という事になるのう」


 あ、あーなるほど。

 皇族のいずれかの家から生まれているから、コトガネ様の家から産まれていてもおかしくないのか。


「孫と会うのになんでそんなしけた顔してんだ?」


 後ろで見ていたジョアン叔父がコトガネ様の正面にでてくる。

 何も言わずに腕を組んでいるコトガネ様を見ていたジョアン叔父の眉間に険しい筋がよる。


「どうせ人じゃ無くなった姿を見られたくねぇとか、そういうのだろ?」


 そうか、シャスカも初めてみたと言ったくらいだし、ミコト様も家族が魔物になった経験はないだろう。

 家族からどう思われるか心配するのは当然だ。


「俺たち三人がこうしていられるのはこういっちゃなんだが、コトガネさんが人じゃ無くなっていたおかげだ」


 ジョアン叔父の視線の先には笑いながらくるくる回っているシャスカとそれを見守るフリージアの姿があった。

 たしかに、異界門を渡るのは神像の右眼に入れるコトガネ様しかできなかった。


「あんたは魔物みたいな姿になってるけど、そんな姿でも孫はうれしいかも知れねぇだろ? 胸はって孫と会って、色々武勇伝をきかせてやれよ。俺にやれって言ったんだ。自分がやれねぇって事はねぇだろ?」


 そういってジョアン叔父にがニヤリと笑うと総具足の老将はぐぬぅと一つうめいた


 たしかに、コトガネ様がいなかったら三人はいなかった。

 それどころか、異界門がふたたび開いた時に世界が魔物に飲み込まれていたかもしれない。

 そういう意味ではコトガネ様は英雄だ。

 それに、あのミコト様がコトガネ様を拒んだりしないだろう。


「やれぬとは言えんのう。孫の度量の大きさに身を預けるとするか」


 コトガネ様ははしゃぎ回るシャスカ達の方を向き、一つため息をついた。


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