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07_51 黄昏に赤い指輪が落ちる


 大門の外へ逃亡していくアルド兵をエンツォさんとフィオさん達が追い立て、さらにガンナー伯軍の兵達が続いていった。


「救援ありがとうございました。大艦隊に気付くのが遅れ、危うく長城壁を突破される所でした」


 兵士の後ろを悠々と歩き外に出ていこうとするリザさんに合流しお礼を言うと、リザさんは軽く微笑み首をふった。


「貴方は全力で貴族の義務を果たしているのです、胸をはりなさい。さ、最後まで気を抜かずに行きますよ。こちらに地の利があるので、どこか適当なタイミングで降伏して欲しいのですけど」


 せん滅するのは骨ですからね、と物騒な言葉が続いたけどきかなかったことにしよう。


「それにしても第二の救援信号から到着までが早かったように思えるのですが」


「第二の信号弾の前には出発していたの。サティさんからの報せをきいていた時、最初の救援信号が届いて、クローリス達第一陣が出発した後、マーサが私たちも行こうって駄々をこねてね。おかしいでしょう? 命を失うかもしれないのに、気がついた時には引退した父に後をまかせて第二陣として出発していたの」


 ふるい友人のわがままは彼女が望んでいたことでもあったのだろう。


「いいえ、おかしくはないですよ。きっかけはマーサさんのわがままでも、結果的にそれは最良の一手になったのですから。おわったらお礼をいわないといけませんね」


 外で領軍の指揮をとるために動いているマーサさんの赤い斧を見てため息をついた。


「敵足元に中位土弾! 放て!」


 マーサさんの号令で三列横隊の味方から放たれた魔弾が敵陣にランダムにストーンウォールを形成していく。

 すでに着剣していた前列が銃剣突撃をしていく。

 応射された兵は膝立ちになり、左肩に掛かっていたマントを地面に斜めに突き立てた。


 リッカ=レプリカの量産はできなかったけど、かわりに一般兵には表面にリッカの切片を縦に縫い付けたマントを支給している。

 膝立ちになり前面をおおえば膝射の時に十分な楯になる。

 防御に回った兵には後ろから次々と応援が駆けつけ、逆に射撃の基点になっていった。


 訓練通りの戦果があがっているみたいだ。

 戦艦の船上砲はエンツォ夫妻が潰しているから敵からの砲撃の心配はなく、逆にコリーが要塞屋上から砲撃を続けている。

 これなら被害なく制圧できるだろう。


「団長! ジョンさん達が敵後方に!」


 順調に思われた反撃だけど、予想外の事態だ。

 ジョアン叔父がこっちに来たってことか?


 手近な戦艦に飛び乗りエンツォさん達と合流すると、敵の後方三分の一辺りで三人が囲まれながら戦っていた。

 そこに邪魔だとばかりにラーシュがさっきの最上位魔法をつかって攻撃してきた。アルド兵が多数巻き込まれて炎につつまれていく。


「ひどいな、味方もろともか。三人がさっき吹き飛ばされて敵の中に落ちたんだ。あいつらはアルド側の兵じゃないのか?」


「アルドなんだけど、あいつらは国じゃなくてバルド教の学府の人間なんだ」


「ああ、そういうことか」


 エンツォさんに説明している間にも敵兵は混乱して戦闘どころではなくなっている。


「おいコーデクス! お前の兵をさがらせろ!」


 じれたラーシュがまた剣を振るうと、今度は炎の軌跡をなぞるように暴風が吹き荒れた。

 苦しむアルド兵達を吹き飛ばしてできた道をラーシュが悠々と歩いてくる。


 コーデクスと呼ばれた指揮官が海岸に兵を撤退させる。

 マーサさんもラーシュの攻撃範囲外に兵を退避させている。


 突如生まれた広い空間に残されたのは傷ついたフリージアさんを抱えたコトガネ様とボロボロになったジョアン叔父だ。


「どうした蛮勇! いつかみたいに魔人にならないのか⁉」


 ラーシュの双剣は白熱の光と暗緑の風をそれぞれまとっている。

 あの剣を苦も無く振るっているなんて、並みの腕じゃないな。


「仲間もろとも攻撃する外道が! お主は魔人よりたちが悪い!」


 コトガネ様が投げつけたシリンダーが爆炎を起こすけど、エルサの障壁魔法にはばまれていた。

 法具がなくても防御の腕は一流らしい。


「性質が悪いのはそこの男の方だ。そいつが何人のウジャト教団の同胞を魔人にしたのかお前は知らないのだろうなぁ」


 叔父が魔人にした……?

 思わず叔父を凝視するけど、瞬きせず荒く呼吸だけする表情からはなにもうかがえない。


「そうだ、お前は赤い指輪をつけた手で仲間の目——」


 瞬間、エルサの張った多重障壁が粉々に砕けた。

 魔弾——?


「ジョンさん!」


 頭上から響く上を見上げると、黄昏の光を反射させる赤い何かに思わず目がいった。

 弧を描くそれを叔父が受け取った瞬間、ラーシュが怖気とも嘲りともつかない表情で何かを叫んだ。


「ミンシェンという技術者から預かりました! 戻す方法も聞いています。全力で戦って下さい!」


 声の主はワイバーンに乗ったグランベイにいるはずのジョージさんだった。

 ジョアン叔父は僕たちが駆け寄ってもまだそれを手にしていた。

 ラーシュの表情からはさっきまでの余裕が消えている。

 剣の柄を強く震えるほど握りしめて立ち尽くしていた。


「頼んではいたけどよ……丁度良いというか、ぶっつけ本番かよ」


 一つ苦笑して叔父はその片方だけの複雑な魔術紋様が描かれた革手袋に手を通した。

 中指には赤い指輪——つまり、【神像の左眼】が埋め込まれていた。


「ラーシュ、心配いらねぇよ。今後俺が魔人にするのは、俺自身だけだ」


 僕がその時見た叔父の表情はどんなだったか。

 左手で顔がかくれる直前に、叔父が見せた表情の意味は分からない。


 ただ、起きた事を言うならば、おもむろに叔父の左目の上に左手が重ねられた直後、ライ山でみた魔人ジョアンが石畳を疾駆した。

 盾剣から放たれた魔法は障壁ごとエルサの胸を貫き、ラーシュの最上位魔法は右眼の空間に飲み込まれ、ラーシュの首は処刑人の剣の突きにより宙を舞っていた。


ライ山での戦いで魔人となっていたジョアンの左目から出ていた赤い光は神像の左眼のもので、魔素を人間に送る事ができました。

ミンシェンはそれをコントロールできる魔道具をつくったという事です。


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