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07_49 ビザーニャに泊まる皇国の船

〈第三者視点〉


 ビザーニャの美しい夕暮れが夜の街の光に変わる頃、都市の別名である双金牛の名の由来である縦に並んだ丸い内海の目立たない場所に、一隻の皇国戦艦が錨を降ろしていた。


「失礼します。夕餉をお持ちしました」


 柔らかい口調と物腰で、一人の青年が船員とともに食事を運んできた。

 糸目に黒い髪と茶色い耳。身なりは明らかに海軍将校のものであるにもかかわらず、隣の一般船員と一緒に部屋の中央の長テーブルに食事を並べ始めた。

 その様子を、リュオネ達、元【白狼の聖域】の一団がにらみつけていた。


 テーブルに料理を並べ終えるとそそくさと退室した船員に構わず、青年はテーブルの末席に座った。


「おや、お食べにならないのですか? このオルニスとかいう貝のタタキは美味しいですよ。さすがビザーニャ名物の一つだけありますねぇ」


 訊ねるくせにパンにオルニスをのせるのをやめない青年にいらだつ様子のバスコが口を開いた。


「おめぇと一緒に食いたくねぇだけだヒラフ。いつまで俺たちを閉じ込めるつもりだ」


「は? まだ二日と経っていないでしょうに。牙狩りの集団を乗せた皇国艦と合流するためにここビザーニャで待っていると説明したのを忘れたのですかアホなのですか?」


 困ったような眉で頭をコキリとかしげるヒラフという青年の言葉をジャンヌが鼻で笑った。

 ジャンヌはこの男をバスコ以上に毛嫌いしているらしく、その冷たい笑みは子供達と戯れていた頃にはけして見られなかったものだ。


「その言葉を信じる方こそ阿呆だ。ビザーニャで合流して帝国を海から攻めるなんて検討し尽くされている。何よりお前達が進んで抵抗してたのだろう」


 ジャンヌの声が静かに部屋に響く。

 けれど、返ってくるのは貝とパンを咀嚼(そしゃく)する音だけだ。


「自軍の被害が大きくでる作戦に賛成する海軍軍人はいないでしょう。ですが、これまでのその認識を覆すのがこの魔鉱銃なんですよ。魔鉱銃があれば今回の牙持ち達の拠点をつぶす作戦は成功するでしょうし、後々には我々犬獣人も戦力になるでしょう。——数が少ない貴方方よりもね」


 にやけた口元をナプキンで拭いながらヒラフは首をかしげて片眉を上げた。

 一瞬後に金属がはじかれる音が響き、それにやかましく床を転がるカトラリーの音、ナプキンがテーブルに落ちるかすかな音が続いた。


「……チッ」


 カトラリーのナイフを投げたのは激高したハンナだった。

 これがもし武器を取り上げられていない状態なら大太刀の一振りでヒラフはテーブルごと真っ二つに割れていたかもしれない。


 けれど、そうならなかったかも知れない。

 さっきまでナプキンを持っていたヒラフの右手は刹那の内に魔鉱拳銃を引き抜いてカトラリーをはじき、ハンナの身体にまっすぐ銃口を向けていた。


「……銃なんて使わなくてもお前らヨウメイの一族は俺たち狼獣人と互角に戦えるくせによく言うぜ」


「我々ヨウメイの一族も犬獣人全体を護る義務がありますから。殿下ならわかって下さるでしょう?」


 ヒラフは気安げにテーブルの対面について食事をしているリュオネに問いかけた。


「そうだ。私たちには皇国を護る義務がある」


 目を伏せて食事をするリュオネからは何の気配もしない。


「ではお待ちいただくのもご納得していただけますね?」


「だから、皇国の船が来るなんて納得できるわけないでしょうが!」


 隣に控えていたエヴァが話を最初に戻しかけるのを、リュオネはそっと制した。

「エヴァ、今は良いんだ」


「殿下! 何か起きてからでは遅いんですよ? 今度こそトモとニルが……」


 リュオネ達が武器を奪われたのは強引に船を下りようとした時に衛士隊の子らを人質に取られたからだった。

 彼女らは今、おなじく武装解除させられた部下達と一緒に船倉に閉じ込められている。


「大丈夫だ。衛士隊の皆にはデボラがついている。だから」


 リュオネの形の良い鼻がスッと息を吸った直後、空間にいる者達に一切の自由を許さない、統べる者達が放つ覇気が部屋を満たした。


「何獣人の何族が何をもとうと、我々はいつでもこの船を制圧できる」


 リュオネ達が奪われたのは武器であって”武装”ではない。

 三刃の鞘は手元にあるし、この部屋の皆とデボラ達の首には未だに雪片をあしらったリッカ=レプリカを展開する首飾りがある。

 けれどリュオネはそれを頼みにして今の言葉を言い放ったわけではない。

 この場面ではこう振る舞い相手に畏怖の念を植え付けるのが皇族の姿であると信じているからだった。

 それこそ、理想のイメージで意識を見たし、自分の本心がわからなくなるほどに、彼女の皇族という自意識は純粋だった。


「……ふむ、まぁ、今は信じていただかなくても結構。じきに皇国艦が来ますから。謝罪はその時にでもうかがいましょう。今は静かにお過ごし下さい」


 リュオネに覇気を正面から当てられたヒラフは微動だにできなかった自分の心をごまかすように首を曲げ、ゴブレットのホウライ酒を口に含んだ。




リュオネの強さともろさを感じていただけたなら幸いです。


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