01_26 領主に面会
朝起きて、食堂に降りると、テーブルで朝のミレットスープをたべているリオンと目があった。
「あ、おはようザート」
輝くような笑顔で始まる朝、悪くない。
いや、ちがう、そうじゃない。
「ここの朝飯がたべられるのは泊まり客だけだった気がするんだけど」
なんでリオンがいるんだ?
見回しても今日はマスターもフィオさんもいない。
「ああ、それは私が宿替えしたからだよ」
「宿替え?」
食事をしながら昨日の出来事を聞くと、おおよそ話が見えてきた。
予想通り、リオンのスキルは両手剣に特化しているらしい。
強い敵と戦い位階を上げるには高価なロングソードが必須になる。
一方で子鹿亭に泊まっている冒険者は、ビビの様な生産職志望の人が多い。
生産職志望の人はブートキャンプはこなしているけど、製作したものを売って生活するから、積極的に強くなる必要はない。
方針が違う人達とパーティを組むことは出来ないので臨時パーティを組んだりしていたということだ。
状況を変えようと戦闘職が集まる宿に移ろうと考えたけど、どこが良いとか、女将さんに悪いんじゃないかとか悩んでいたらしい。
「それで、元冒険者のフィオさんに相談したわけだ」
「うん。そしたらウチに来なさいって。私も、コロウ亭ならザートと予定も合わせられるし良いなと思ったんだ。宿替えの時って宿屋同士で客を融通しあうらしくて、フィオさんと子鹿亭に行ったらフローラおばさんもあっさり了承してくれたよ」
「あ、フィオさん、ザートも起きてきましたよ!」
リオンが入り口に向かって手を振ったので振り返ると、市場にいってきたのか、かご一杯の野菜をもってフィオさんが入ってきた。
「あ、おはようザート君、ちょっと待っててー」
厨房に入り、籠の代わりにスープを持ってきてくれた。
「はい、おまたせー」
澄んだ琥珀色のスープに色とりどりの雑穀がしずんでいる。香辛料の壺からフェルシードをひとつまみ入れてたべると、野菜の滋味と丁度良い刺激が口に拡がる。
「あ、そうだザート君、さっきギルドにも行ってきたんだけど、リズが呼んでたから後で行ってあげて?」
リズさんが? 昨日の件は終わっているし、なんだろう。
「リオンちゃんも一緒にね!」
リオンと一緒? なんか嫌な予感しかしない……
――◆◇◆――
天窓から朝日が射し込むギルドホールの下、今日も掲示板に貼ってあった依頼書を手にした冒険者達の列ができていた。
その向かう先、弧を描くオークウッド製のカウンターには他の受付嬢に混じって今日もリズさんが立っていた。副ギルマスなのに現場主義なんだろうか。今日も二、三人しか並んでないけど。
「おはよう二人とも。早速だけどこっちに来てちょうだい」
別の受付嬢に場所を任せ、普段入らない扉に案内された。
ギルドのバックヤードらしい部屋の前を通り過ぎ、その先にある、ひときわ重厚な部屋に通される、と思いきや素通りされた。
(あそこがギルドマスターの部屋かと思った)
(僕も)
謎のフェイントをされた後も廊下は続き、何度目かの登り階段を経た。
角を曲がると天井から光の射し込むひときわ豪華な廊下が現れ、その先に両開きの重厚な扉がまっていた。
「お連れいたしました」
お連れいたしました? リズさんがマーサさんに使う言葉じゃない。
こちらが疑問を口にする前に扉が開き、重厚な執務机に座るわりに線の細い、浅黄色の口ひげをたくわえ、同色の髪をなでつけた男性がいた。
「うん、意外と早かったね」
リズさんは僕達の間に立って軽くため息をついた。
「ウルヴァストン様、鉄級冒険者第八位のザートと、同じく九位のリオンです」
「お初にお目にかかります。h……ザートと申します」
危うく元の名前で名乗るところだった。突然の貴族登場って心臓に悪い。
ウルヴァストンって、要するにこのグランドル地方を治める子爵ですよねリズさん。
「リオンと申します。お目にかかれて光栄に存じます」
「二人とも、こちらはグランドル卿、ジョージ・グランドル=ウルヴァストン様です」
「よろしく。そんなにかしこまらなくても良いよ。とりあえず座ってもらえるかな」
うながされて作法通りにソファに座る。
子爵は第二要塞の中に館をもっているとは聞いていたけど、まさかギルドと直通だったとはね。
第二要塞は地上部がほぼ平面だから上からじゃどこが領主の館かわからなかった。
子爵も対面に座り、リズさんにお茶の用意を促している。
「友人から頼み事をされてね。ギルドに来たら呼ぶようにリズに言っておいたんだ」
いたずらが成功したように此方の反応を見ている。
年のころは四十代くらいだろうか。柔和な顔に笑いじわが印象的だ。
というか、面白がってるだろう。面白がってるよねこの表情。
じゃなきゃリズさんが事前に知らせているはず。そして誰だよ友人って。
「……二人が反応に困ってるじゃないですか。ご自分で全部話してくださいね」
ティーワゴンの上でポットに熱湯を出しながら、リズさんが半目でにらんでいる。それに首をすくめる子爵閣下。まったく気にしていない。
「さ、怖いリズもこう言っているので順に話していこう。頼まれたというのはリオン君の武器についてだね」
あ、この時点でわかった。頼み事をした友人。
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