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07_24 ゆすってくる猫獣人


「それじゃ、【白狼の聖域】の存亡をかけたミッション攻略のため、野郎だけの秘密会議をはじめるか!」


 ショーンのかけ声で防音室のテーブルに男五人が身体をよせる。


「ところで男だけ、というのはわかりますが、なぜこのメンバーなのですか?」


 出鼻をくじかれたけど、オットーの発言ももっともだ。

 説明していなかった僕のミスだな。


「年長者でも既婚か婚約済みの人、という基準で声をかけたんだよ」


 僕の返答にショーンが首をかしげる。


「バシル兄貴だって里に家族がいる既婚者なんだけど呼ばなかったのか?」


「バシルは口が軽いんじゃないか?」


「そうだった、あのバカ兄貴は呼ばなくて正解だ」


 ショーンがこめかみに指を当てて押し続ける。

 経験が豊富そうだから呼ぼうかどうか迷っていたけど、ショーンの反応を見る限り、やめておいて正解だったみたいだ。


「それなら私が呼ばれたのは? 皇国人だからでしょうか? 呼ばれておいてなんですが、婚約者もおらずあまりお役にはたてそうにありません。それこそコトガネ様が適任では?」


 オットーが若干居心地がわるそうにしているのは何をアドバイスしていいかわからないからか。

 たしかに本当はその役はコトガネ様が適任だ。

 皇国の既婚者、というか生き字引だからね。


「コトガネ様は皇族だし、牙狩りとしてのリュオネの師匠だ。まずは皆に相談してから話をするのが良いと思ったんだよ」


「とかいって、本当はビビって後回しにしたんだろ?」


 復活した叔父がこちらをくるくると回る指を向けてくる。腹立つ。


「そうだよビビってるよ。正直ハードルが高くない? リュオネの実家は今当主がいないんだから、コトガネ様が親代わりみたいなものじゃないか」


「いえ、お言葉ですが団長、婚約はともかく皇族の結婚には主上、皇帝陛下の許しがいります」


 ハードルが一気に上がった!

 よほどのことがない限り許されるだろうとオットーが気まずそうにフォローするけど、フォローしきれない重圧がのしかかる。

 さすがに他の三人も同情の目を向けてきた。


「でもよー、オットーはミワちゃんがいるから、ザート側じゃね?」


「なっ何を!」


 ショーンの何気ない指摘にオットーが巨体をびくつかせ思い切り動揺する。


「屋台での目撃例がいくつも上がっているし、ミワちゃんが衛士隊なのに、最近できたばかりの簡易出城に視察という名目で行ったらしいじゃねえか。勘ぐるなっていうほうがむずかしいぜ」


 視察については許したクローリスも悪いので後で怒っておいたけどね。

 僕がいうのもなんだけど君らやりたい放題だったじゃないか。

 ばれていないとでも思っていたのか。


「ザートも相談相手、というより仲間だから呼んでやったんだろ?」


「正直それもあります」


 エンツォさんの指摘に正直にうなずく。

 皇国の事情を知っている人を呼びたかったのもあるけど、僕だけ集中的にいじられ倒しというのもいやだったし。


「で、ザート本人としては、どれだけ勝率があると思ってるんだ?」


 羞恥でのたうっているオットーをよそに叔父が本題に入る。


「割と初っぱなからグイグイ来てたよな? リュオネが」


 僕らにとって初めの冒険者の街だったグランドルでは二人ともエンツォさん夫妻が切り盛りしていたコロウ亭でお世話になっていた。

 経緯を知っていて当然だ。


「二人ともソロで活動していたけど、リュオネがロングソードのスキルしか持ってなかったから苦労していたんですよ。そこで俺がちょっとお節介をきかせて割の良い仕事をジョージの奴に発注してもらったんです」


「お前、相変わらず世話好きだなぁ」


 苦笑する叔父に胸を反らせるエンツォさん。

 確かに、あの件があったからこそグランドル古城の魔境でグレンデールと戦ってリュオネと絆を深めたんだったな。


「グランベイじゃこいつらのパーティはラバ島に行ってましたよ。てか現地で見つけた俺たちが声かけたんですが、あのころもう良い感じでした。まあクローリスもですが」


「クローリスは関係ないだろ」


 ショーンのタレコミに、僕を囲む視線がなんだか呆れたようなものにかわっていく。


「そうだ、団長達は最近戦闘中に会話しないんですよ」


 オットーが指摘してくるけど、あまり自覚がない。

 そうだったか?


「なんだそりゃ? 声かけなんて連携の基本だろう。おまえら力があるからって基本をおろそかにしていたらいつかしくじるぞ?」


 オットーの言葉にかぶせるようにエンツォさんが眉間にしわを寄せてこちらをにらんでくる。


「いや、エンツォさんが想像しているものじゃなくて、声をかけないで連携が取れているんです。金級の【カンナビス】みたいに」


「そっちの意味でかよ。あいつら並みに息がそろっているならそりゃ最高の連携だろうよ……。で、おまえら引退後に一緒の庭をかこむ約束してるんだろ?」


「なんだよそれほぼプロポーズじゃねぇか。ザート、俺たち相談されるために呼ばれたんだよな? ここまでの話で俺たちはお前とリュオネの絆の深さエピソードを共有しているだけなんだが?」


「いや、当時はその、そういう自覚がなくて、パーティの共通目標として園芸が好きだっていうリュオネに提案したんだ」


 僕らのパーティの共通目標は、他人に指摘されて僕自身がその意味に気付いた時にはかなりひろまった後だった。

 最近じゃ開き直って一緒に園芸スペースで作業しているけど。

 

「これまでの皆さんの話をきくと、皇国の殿上会議の貴族と主上がお認めになればこの話、あっさりまとまる気がするのですが」


「そうだな、じゃー、そろそろ決をとるか。クランが安泰だと思う人ー」


 おいショーン、やる気が感じられないぞ。

 確かに僕もいけると思っている。でも第三者の目にどう映っているか確認したくて訊いたんだ。

 適当に締められてなるものかと抗議しようとした瞬間、防音室の扉がひらいた。


「お、あったあったー。甘いものの匂いがするー」 


 年中やる気が感じられない声の主が無遠慮に部屋に押し入ってきた。


「ジェシカ! お前いつからいた!」


 まずい、よりによってジェシカに聞かれるなんて。

 コイツが素材採取に行っているからこの場所を選んだのに‼


「ん? さっき帰ってきたばかりだよー、採取で疲れた身体には甘いものが一番なんだよ、くれー」


 ワキワキと指を動かし甘味をねだってくる。

 その目はなんだ、話を聞いていたのか、どうなんだ!


「なにその目ー、なにか悪巧みでもしてたか? ウチは知らんし、知っていても悪くないぞー。だからほら、今日の分ー」


 今日の分って、お前それごろつきのゆすり方じゃないか……

 四人も首を振っている。

 彼らからみてもジェシカは黒、ということか。


「絶対誰にも言うなよ……それから隠れて食えよ」


 僕は屈辱とともに、目を猫の様に細めた悪魔に菓子の包みを渡した。


「あんがとー、あ、そうだ、お客さんが来てるよー」


 おいそれ先にいえよ⁉


「ゴホン、失礼します」


 気まずそうに入ってきたのはメガネをかけ、ブラディア軍の制服を着た女性士官だった。



いつもお読みいただきありがとうございます!

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