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06_57 神種をもつ贄


「右翼引いてください! ブレスの準備ができました!」


「【カンナビス】さがった! やってくれ!」


 ワイバーンから火球が放たれ、魔物の群れから断末魔の悲鳴があがる。


「魔物エルフが左翼から回りこんできます! シルトは魔法からコトガネ様をかばいつつ二人で切り払ってください!」


「任せろ!」


 シルトが夜盗のようなボロボロの装備をした鳥頭(エルフ)達が放つ魔法を六花の具足で受け止め、その後ろをコトガネ様が進み、マガエシでなぎ払っていく。


 異界では予想以上に激しい戦闘が行われていて、みな満身創痍(まんしんそうい)だ。

 トロール、ミノタウロス、ケルベロスなど、強力な魔獣の死体が坂を埋め尽くしている。


 それでも死体をかき分けて新たな魔獣が登ってくるのだ。

 皆の疲労も限界だろう。

 くわえて知らない魔獣が多数空を飛んでいた。

 

「あれはハーピーの仲間のキュレアーだな。空から魔法を撃つめんどくせぇ奴だ。先に潰した方が良いぜ」


 空を見上げてジョアン叔父がつぶやいた。


「わかりました。リュオネ、二人を頼む」


 シャスカとジョアン叔父は再生したばかりで戦う事ができない。

 僕は彼らの護衛をリュオネに頼み、かけだした。

 向かう先にはキュレアーにたかられているビーコの背中だ。

 ビーコがいらだたしそうに氷弾を放っているけどふわふわと避けられ、反対に魔法による範囲攻撃をくらっている。


 ビーコは丈夫だからいいけど、乗り手はそうはいかない。


「オルミナさん! クローリス!」


「ザート! 成功したんですね!」


 振りかえった二人はこちらの様子でジョアン叔父の回生成功を悟り、喜んでくれているけど、彼女らのリッカ=レプリカの色はすでに紅色にさしかかっていた。

 シリンダーを交換している暇はない。


「二人とも背中を出してくれ。直接魔素を抜く」


 法具から伸びるレナトゥスの刃を使い、二人の身体を一閃すると、鎧は一気に白さを取り戻した。


「え、ザート、今斬りませんでした?」


「大楯で魔素を抜く刃を作ったんだ。身体の具合はどうだ?」


「え、と……、大丈夫みたいです! あ、でも攻撃手段が……」


 二人がやられてたのは弾切れが原因か。


「クローリス、欲しい魔弾は十ジィ上位氷弾でいいか?」


 魔弾さえあればクローリスの腕であいつらを一掃出来ないはずがない。


「そうです! あるだけ下さい!」


 あるだけって……まあ乱戦でこの二人以外魔弾を使っている人もいないからいいか。


「じゃあこいつで空の敵をせん滅してくれ。皆の具足を綺麗にして体勢を立て直したら撤退するぞ!」


「「はい!」」


 氷弾をあるだけ渡すと、終わりが見えてきたせいか、二人の表情は目に見えて明るくなった。


 そのまま他の味方も救助し、陣形を立て直し反転攻勢にでる。

 しばらくすると、残る魔獣も少なくなり、魔獣も坂を引き返しはじめた。

 すべてが予想通り——とはならなかった。


「団長! 魔獣が後ろから攻撃を受けています!」


 コトガネ様と殿をつとめていると、オルミナさんの警告が聞こえてきた。

 飛び石で高所からみると、坂の下からエルフらしき一隊が登ってくるのがみえた。


「みんな、これから来るエルフから情報を得る。刺激せずにいてくれ」


 地面が平らなところまでさがって彼らを待つことにする。

 以前盗みきいた話によれば、アルバの勢力が開いた異界門を封印している、というのが異界エルフの認識らしい。


 けれどその認識はおかしい。

 異界門を封印しているのはバルド教、つまり異界エルフが放った先遣隊なのだ。

 この時点でバルド教エルフは異界エルフとは別の道を歩んでいると想像出来る。

 ただ、この辺りの話は後でジョアン叔父とアルバ神様に裏を取れば良い。


 確認しておきたいのは二人が知らない情報、つまり異界門事変の後にバーバル神が召喚した第三勢力の異世界人についてだ。


 銃剣スキルをいかせるようになってからのクローリスの成長は著しい。

 けれど、クローリスの話では”新約の使徒”はさらに強いという。

 異界においてエルフとは違う”異世界人”はどのような存在なのか。

 地方の正規兵程度のエルフが知っている可能性は低いけど、確認はしておきたい。


 考えをまとめていると、先ほどの夜盗の様なエルフの兵士達とは違って異形化していない、上等な鎧をまとったエルフの一隊が坂を登ってきた。


「ふむ、異界門が開かれたときいて飛んできたが、ほとんどが向こうの世界の原住民か……あれらが異界門をあけたのだろうか?」


 小型の亜竜に乗った隊長らしいエルフがこちらを警戒しながら副官らしいエルフと話しあっている。

 明らかに格下に、いや、人間とさえ見ていないな。

 ただし戦闘力はあなどっていないらしい。

 周りに倒した魔獣の死体があるから、そのせいかな。


「お前達が封印をといたのか?」


 隊長が尊大な態度で僕に問いかける。

 ここは低姿勢で対応してみるか。


「いいえ、我らはハイエルフ様がひらかれたバルド教の門番でございます。この山を見回っていたところ封印がとけていたので入ってみたところでした。貴方様のお姿はハイエルフ様とうり二つ。お会いできて光栄にございます」


 そういって皆に目配せし、いっせいにかしずく。

 アルドヴィンの礼儀作法はバルド教が作っている。

 こちらの世界と同じもののはずだ。


「バルド教? ハイエルフ? どうやら先遣隊の子孫はそちらの世界ではずいぶん大層な身分になっているようだな」


 副隊長の漏らした言葉をきっかけにエルフの一隊から失笑がもれる。

 先遣隊の元々の身分は高くなかったようだな。

 けれどその笑いは隊長の手によってピタリと止められた。


「我らはもう長い事そちらに入る準備をしているが、異界門は開く度にあらたに封印されている。アルバ教という現地神の勢力は未だ壊滅できぬほど強いのか」


「はい。それにつきまして、数年前より、我らに姿形の似た異世界人がバーバル神様より使命を受けたと称して活動しております。彼らは何者なのでしょうか? 我々は彼らを信じてよいか迷っております」


 はぐらかして異世界人の話題をふる。

 すると隊長のエルフは面白くなさそうに鼻をならした。


「バーバル神様はそちらにも”預言者”を送っておられたか。あれらの言うことは信じてよい。”神種(しんしゅ)”の力で様々な役に立つだろう」


 だが、と隊長が続ける。

 表情が乏しいためか、下卑た声が一層強調される。


「”預言者”の行方を知っているなら我らに報せよ。お前等は生かすが、”神種”は役目が終われば我々に下げ渡される(にえ)だからな。褒美ははずむぞ」


 なるほど、異世界人の中にある”神種”が強さの秘密か。

 彼らに対するバーバル神とエルフの認識もわかったし、もういいか。


「シルト!」


「おう!」


 背後から多数の手榴魔弾(シリンダー)がエルフの一隊に投げこまれたのを確認し、エルフ全員から放たれた魔法を視界いっぱいに展開した大楯で収納する。


 六花の具足が吸収した大量の魔素を詰め込んだシリンダーは、その表面に描かれた魔法文字により高位魔法を発現させ、盛大な爆発を引き起こした。

 手榴魔弾の爆轟が静まった後広がっているのはエルフだったものの残骸だ。

 その中にあって、本人か装備の能力が高かったのだろう。

 隊長エルフが両足と左手を欠きつつ生きていた。


「なぜ気がついた、原住民風情がぁ……!」


 贄という言葉と同時に隊長をエルフ達の視線が上に向いたのだ。

 ビーコに乗ったクローリスの方に。

 さすがに察しがつく。手に入れるために僕達を殺すだろう事もわかった。


「逆にこっちがききたい。なぜ竜の上の少女が預言者だとわかった? 答えたら助けてやる」


「……預言者の話がでた時に怯えたからだ! 答えたぞ、治……」


 僕のレナトゥスの刃がエルフの頭を消し去ったせいで、彼の言葉は最後まで続かなかった。

 エルフにだけわかる印でもあるのかと心配だったけど、無いようでよかった。


「皆、もどろう。応援が来る前に証拠を消して異界門を閉じるんだ」


 見上げると、オルミナさんに慰められているクローリスが見えた。

 震える小さな背中をみて、あそこでエルフから情報を引き出して正解だったのか一瞬後悔した。

 けれど考えてもしかたない。

 頭を振り、死体をかたづける作業をはじめる皆に合流する事にした。



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