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06_55 魔人ジョンとの戦い−6


「みんな、大丈夫⁉」

 

 クローリスとギルベルトが神像の足元で膝をついているザート達に駆け寄った。


「封印の鍵は、どうなったのですか!」


 ギルベルトが普段の冷静さをかなぐり捨て、ザートにつかみかかる。


「魔人は法具に収納しました。戦いは終わりましたが、まだ封印の鍵は魔人が持っているでしょう」


 ザートは肉体を酷使した疲労のせいでされるがままになっている。

 青ざめるギルベルトが何か言いかけるのを制し、リュオネがザートに代わって答える。


「ザートがこれから魔人を人として蘇らせます。封印の鍵も一緒に出るはず。もうしばらくまって下さい」


「そ、そうでしたか。失礼、邪魔をしてしまいました」


 リュオネの有無を言わさない言葉にギルベルトも冷静になりザートから手を離す。

 彼もザートを責めるつもりで迫ったわけではない。

 活動できる時間が半分を割った今、一刻も早く鍵を入手する必要があるのだ。


「今からって、間に合うんです?」


「間に合わなかった時には撤退して、そこで鍵を確保する。再封印は依頼にないけど……」


 ザートの視線で察したギルベルトが肩をすくめる。


「このまま再封印してしまえば今ここに向かっている王国軍に被害が無くなります。その分報酬を上乗せするように働きかけますのでご安心下さい」


「わかりました。頑張ります」


 ザートがいずまいをただして準備をしていると、唐突に大声が聞こえてきた。


「もうすぐここに魔獣の群れがくるぞ!」


「ここから魔素が流出しているのを魔獣達が感じ取ったのかも知れん!」


 異界の様子を見ていたシルトとコトガネが駆け戻ってきた。

 二人の言葉で、集まっていた金級冒険者達にも緊張が走る。


「ザート、どうするんだ?」


 【カンナビス】のアルマンの問いかけにザートは一瞬考えて答える。


「クローリス」


「は、はい!」


「僕は予定通り狩人ジョンを復活させる。その間皆を指揮して異界門を守ってくれ」


 クローリスがうろたえ、助けを求めるかのように周りの皆を見回す。

 自分が指揮官を受け持ったのはリュオネやコトガネといった指揮官経験者が皆前線で戦っていたためで、自分は待機中のお飾りのようなものだとクローリスは思っていた。

 それなのに、コトガネ達がもどったのに自分に指揮を任せるという。


「でも……」


「大丈夫、お前ならできる」


 クローリスは無理、とのどまででかかった言葉を詰まらせた。

 普段のからかうような言い方ではない、本気で言っていることを悟ったからだ。


「も、もう、本当にザートは無茶ぶりばかりしますよね! わかりました、やれば良いんでしょう⁉ 皆さん、きいての通りです。護衛のリュオネ以外、異界にでて再封印に使う異界門を守りますよ!」


 クローリスは自棄気味に叫ぶとオルミナが伏せさせたビーコによじ登り、皆を引き連れ異界へと進んでいった。

 その姿を見送ったザートは残ったリュオネにうなずいて瞑想の体勢に入った。


   ――◆◇◆――


(深く、もっと深く)


 ザートは目をつぶり、意識だけで神像の右眼にある情報の海を泳いでいた。

 感覚的には魔鉱銃の図面があった場所より深く潜っている。


(あれか)


 ザートは形は人ではないが、”ジョアンの図面”と知覚できる情報を見つけた。


 図面は人の手では到底かけない複雑な模様を描いている魔法陣だ。

 人体の情報は料理や銃とは比較にならないほど複雑なのだから、それも無理はない。


 本来であればザートは鑑定スキルで言うところの情報の根源近くまで潜らなければならなかった。

 しかしそれは脳が損傷するほど危険な行為だ。

 ただ、幸か不幸か、ザートはスパイの拷問で人体構造については一般人をはるかに超える知識をもっていた。

 フックとなる知識を持つことで、ザートは本来より軽い負荷で情報を得ることができた。


 とはいえ、人体の図面を元に肉体を復元するのが楽なはずはない。


(まず最初に魂を核にする)


 情報に従い、ザートは魔法陣の中央に魂を据えた。


(次、リュオネが集めてくれた魔砂から余計な魔素を取りのぞく)


 既に魔人ジョアンの肉体は粉みじんに破壊され魔砂となり、魄としては存在していなかったが、それでも魔砂はジョアンの血殻であった記憶を持っている。

 魔素としての翠の光を分離した魔砂を魔法陣の指示する場所に置いていく。


(そして魔法陣を起動するために人の魔力を流す、か)


 流す魔力は人のものでなければならないらしい。


 ザートが最後の手順を開始すると魔法陣がひかり、中心の魂がくっきりと黒く立体的な人の形をとり始めた。

 魔法陣各部の魔砂の色がある物は赤色、ある物は灰色、ある物は白に変わり、経路に従い魂に取り込まれていく。


 骨が形成され、心臓が生まれ、編み目のように管がつくられていく。

 骨からザートが見た事のない管が伸びる。

 見るまに筋肉が形成され、内臓が、眼球が、口内が形成されていく。

 

 実験でも見た事のない光景にザートは必死に耐えた。

 今の光景は魔法陣が行っているのではない。

 ザート自身の脳と魔力をつかって行っているのだ。

 目を背ければすべてが無駄になってしまう。

 

 ザートは最後に人の形となったものに、ズボンとロングブーツをはかせた。


(終わった……)


 復元作業が終わった事に安堵し、ザートは人、すなわち魔人ではなくなった、叔父であるジョアンをあらためて眺めた。

 灰色の長髪と口ひげと顎の無精ひげ、があるものの、目鼻立ちだけをみれば、やはり母、そして自分に似ていた。


(あったことはあるはずだけど、こんな顔だったんだな)


 そんな事を考えていると、ザートの意識に唐突に呼びかける者があった。


(ぼうっとしている暇はなかろう、そやつももうじき目覚める。はやく我らを外に出すのじゃ)


(だ、だれだ!)


 ザートは心臓をつかまれたような驚きで動揺しつつあたりを見まわすが、自分の意識する情報以外見えない神像の右眼の中で知らない者の姿は見つけられない。


(おお、そういえば名乗っていなかったの。我はシャスカ=アルバ。再生を繰り返す神アルバにあって最も新しい神格じゃ)



いつもお読みいただきありがとうございます!


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